初心者はそんなもんだよ
日が落ちかけるころ、俺たちは館に戻る。
ちなみにだがあの後出てきた、メガホンと照明器具、それと自動乾燥機。
ユリア嬢の方はヘアアイロン購入していった。
「お二人とも楽しんでたでござるな」
「……お前も何か欲しかったものはあるか?」
「それがないでござる、今の部屋にはほとんどの魔道具が設置されてるがゆえに」
たしかに。この館はどの部屋にも魔道具が完備されており快適に過ごせるのだ。
だから使用人は解雇されないように懸命に働いてくれる。
「それにしても魔道具なんて見飽きていると思うのだが?」
仮にも侯爵家だ、魔道具いくらでも買えるだろうに……
「それにつきましては」
俺の部屋で紅茶を入れているメイドが疑問に答えてくれた。
「イドラ商会の商品はある程度お金がある貴族であるならば、いうなれば騎士爵ですら購入できるほど安価です。なので競争率がとてつもなく、手に入りづらいのですよ」
「だが、商品が入荷するまでに予約できるようにしているはずだろ?」
「その予約ですら希望者がいっぱいで抽選している状況なのですから」
そうだったんだ、荷物が届いたら即完売になるとは聞いていたが、そこまでとは。
「もう少し数を増やすか………やめとこう希少性があるほうが高く売れる」
俺の言葉に期待した二人だがすぐにがっかりした。
「……ほかにも商会には従業員は優先的に購入できる制度がありますよね」
「ああ、あれか」
なぜだか支店長に頼まれて作った制度だが、宣伝目的だと思ってた。
「なのでイドラ商会に雇われようとしている人たちは山ほどいますよ、かく言う私も友達からコネがないかと聞かれている次第で……」
縋るような目をしてくるが今のところ増員はしない。
現状でも十分に利益を得ているし、何よりも俺が多忙になる。
「残念ながら従業員の募集はしてないな」
そういうとがっくりとうなだれる。
「主君はお金持ちなのだな」
凜は妙なところに関心を抱く。
「だが、品切れの状態ならなんであんな舞台があるのだ?」
あれは一種の特権だ。
母上に招待された人物のみがあの場所で実演販売を見られるのだ。
あの場所では金さえあればすべての魔道具が手に入るからな。
おかげで母上はサロンなどでかなりの発言権を得ている。
「なるほど」
こうして様々なことを考えていると扉がノックされる。
「誰だ」
「バアル様、ユリア様がお越しになっております」
「?」
とりあえず部屋に通す。
「本日はありがとうございました」
「いや、こちらも商品を買ってもらったのでな」
何しに来たんだこいつは?
「今回はとあるお願いをしに来ました」
「……聞きましょう」
「イグニア様は剣の魔道具をご所望しておりますので製作「お断りします」………なぜですか?」
「以前、エルド殿下にも言ったのですが、剣の魔道具は言い換えれば手軽に人を殺せる道具にすぎません。そんなものを俺は作る気がない。それだけです」
「…作れば王家や様々な貴族が喉から欲しがる物になると思うのですが」
「だが作ったが最後、いつか必ず悪用される未来が出てくる」
地球で民間人の銃殺事件が無くならないように。
「わかりました」
「ですが護身用の魔道具については作りますので、そちらで満足してください」
「わかりました」
…………………なんで部屋に残る?
「ユリア嬢?」
「父上からで友誼を結ぶように言われましたので」
「………ではこれをしませんか?」
俺は机の横にある板を取り出す。
「これは?」
「俺が暇つぶしで作った玩具ですよ」
白黒のボードに16×2の駒を用意する。
ここだけで予想はつくかな?
「これはチェスというものです」
「チェス?」
「やり方を教えますね」
駒の動かし方、ボードは右下に白いマスが来ること、プロモーション、アンパッサン、キャスリング、チェックメイト、ドローの条件である50手ルール、チェックメイトできる戦力がないとき、ステイルメイト、パーペチュアルチェックを教える。
「やり方は理解できました?」
「………一応は」
「実践しながらお教えしましょう」
てことでチェスでユリアをボコボコにしてやる。
「……すこし手加減してもいいのでは?」
「残念ですが、手加減できる遊戯ではないので」
正直、チェスや将棋は手加減が難しいゲームだ。
なので今度からは待った有りで続けた。




