ノストニアの内情
プぅ~~~
そんな擬音が聞こえてきそうなほどクラリスの頬が膨らんでいる。
「そんなに悔しいのか?」
「悔~し~く~あ~り~ま~せ~ん~」
誰がどう見ても拗ねているだろうが。
その後、クラリス以外で一番立場があるエルフが話をまとめてくれた。
「ではまた後日この場所でお会いしましょう」
ということで二日後に再び合うことになった。
話し合いの結果、俺は王太子のいるノストニアの中心部、神包都エルカフィエアに訪れることになった。
ただその際には条件があり、護衛は二人、持って行けるものも人族だとわからないようにすることなどが決められた。
極めつけは
「この首輪か」
首輪、チョーカーと言い換えてもいい。
この首輪は俺たちに幻術を掛けてくれてエルフと同じ姿になることができる。
実際につけてみるとリンの髪は金色になり耳が少しとがった。
(まぁそれだけではないだろうがな)
おそらくこの首輪に居場所特定や緊急時に魔力制限を兼ね備えているのだろう。
そして不思議なことに鑑定のモノクルが使用できなかったのだ。
原理を知りたいのだがそう簡単に教えてはくれないだろう。
エルフの国のノストニアまでの道のりは快適だった。
本来は豪雪地帯を通ると思っていたのだが、ノストニアに入った途端にだんだんと温かくなっていく。
ノストニアの首都に近づくともはや春と呼べるほどの気候だ、それゆえに冬なのに道端に花すら咲いていたぐらいだ。
「見えて来たわよ」
ノストニアの首都にはとても特徴的な部分があった
「……すごいな」
陳腐なセリフだったがこれ以外浮かばなかった。
エルフ特製の馬車の中から見えたのは以前見た聖樹よりも遥かに高い樹だ。
リンとラインハルトも樹をみて固まっている。
「どうすごいでしょ」
同じ馬車に持っているクラリスは自慢げに胸を張っている。
街に入るとそこには幻想的な街が広がっていた。
すごいな
規則的に生えた樹は葉がうっすらと輝いており街灯の役割をして。
不自然にうねった樹の洞には扉が付いており家だということがわかる。
(……面白い街だな)
不思議と気分が良くなる。
「さて、これから大事な話をするわね」
「ああ」
クラリスは王太子に会うまでにこの国の体系について話す。
「まずは神樹と森王ね」
神樹とは今見えているあの大きな樹のことをいう。
「神樹はこの国の中心よ」
なんでも神樹があるからこの周囲には凶悪な魔物は発生せずにいて、さらには周囲の魔物を遠ざける役割や豊穣にする力もあるのだとか。
そして森王とは神樹の御子で、神樹の力を制御する存在だ。
どの範囲まで気候を操り、どの範囲まで豊穣を促し、どの範囲まで魔物の発生を抑えたりなどを定める。
だがそれだけではない、神樹は恩恵の対価にエルフ達の魔力をもらい受けている。
これは魔力が多いエルフだから無事で済んでいるのであって人間なら到底足りない。
「だから絶対に神樹を批判するようなことはやめて、私でもブチ切れそうになるから」
「わかっている、それにここまでの樹を批判なんてしないよ」
見ているだけで壮大さを感じられるこういう存在は好ましい。
「そうならいいわ、ほかには聖樹、そして樹守ね」
聖樹は神樹の株分けだ。
規模が小さかったり、使えない物もあるがそれでも十分に意味がある。
そして樹守、これは森王に使える直属の部下のようなものだ。
役割は神樹や聖樹を外敵から守ること。
まぁ言い方は悪いが兵隊アリのようなものだ。
だが利点もある、聖樹や神樹が近くにいる範囲では力が強まる。
「そして聖樹を守護する聖獣」
これは六つの聖樹が定めた特殊な存在のことを言う。
「バアルも一度会ったでしょアグラベルグ様に」
「あいつか」
そこまで強くはなかったのだが、聖樹の守護獣なんて務まるのか?
「言っておくけど、聖獣様は自分の守護する領域ではだれも勝てないほど強くなるわよ」
なるほど、ダンジョン内で聖樹の影響がなかったからあの時は勝てたのか。
「でも、どうやって政治はやっているんだ?まさか森王が全部やっているのか?」
「そんなわけないでしょ、樹守にもいくつか種類があってね」
樹守にはいくつかの部署に分かれているのだとか。
政治の補佐を行う『青葉』、戦闘を主な任務とする『赤葉』、あとは特殊な任務に就く『黄葉』。
この三つが主な部隊でさらに『苗木』、『若木』、『大樹』と役職があるのだとか
「で、問題なのは『大樹』の連中なのよ」
「何が問題なのですか?」
「今まで問題なく生活できて来たんだから無理に人族と交流する必要ないと思っているのがほとんどなのよ、下手すればもっと過激な爺さんたちもいるわよ」
「つまり上にいる奴らは問題ないと思って新王の政策に乗り気じゃないわけか」
「そうよ、しかもそういうのに限って無能の場合が多いから」
ちょっと待て。
「樹守とかは実力で選ばれるんじゃないのか?」
聞いている限り官僚制度に近いものだと思ったが。
「ああ、もちろん実力で選ばれている子もいるわよ、でもやっぱり樹守にも縁故採用はあるわね。とくに『青葉』は多いわね」
政治部分を縁故採用か……問題しかなさそうだ。
「それで子供が生まれにくくなっているのを報告してもあんまり聞く耳もたないのよ」
「ん?子供が生まれにくくなっているのか?」
それは初耳なんだが。
「まぁね、年よりはどう考えているか知らないけど、私たち若い世代はかなり焦っているわよ」
おそらくエルフが長寿な分、近交弱勢などの影響があまりなかったのだろう。
だが今になってその影響が出てしまい焦っている。
「新王が人と交流を持とうとしたのもそれが原因か?」
「ええ、アニキが真っ先にこの問題に気付いたのよ」
聞いた話では有能みたいだな。
「でね、何とかするために人族と交流をもって何らかの刺激になればって言っていたわよ」
「まぁ、何らかの変化はあるだろうな」
どんな変化になるかはわからないが何かしらは変わるだろう。
(刺激を与えて変化を促す………このまま緩やかに滅びに向かっているならおかしくない手だな)
それで防衛という点で団結を促してもいいし、ほどよく融和して新たな形になっても問題ない。
「っとそろそろつくわね」
馬車の外を見てみると神樹の根元には湖があり、その真ん中に白亜の建物がある。
「どうやってわたるんだ?」
見る限り橋などがある感じではない。
「少し待っていなさい」
すると城のほうから魔法陣が浮かび上がる。
「……すごいな」
しばらくすると光の輪郭が出来上がり、橋が作られてくる。
「では行きます」
御者をしているエルフは馬のない馬車を魔力で動かし、橋を進む。




