理解を拒む事象
もう一度ゼブルス領に戻ってくると工房に籠る。
「さて、じゃあ【改編】」
様々な金属を手に持ちスキルを使うと金属が独りでに動き電子回路になる。
これは【魔道具作成】スキルの技だ。魔力と知識、それと素材さえあれば自身が思い浮かべるものを作ることができる。
ただこれは形を変えているだけで化学変化などで成分を変えるなどのことはできない。
これでも十分すぎる、なにせ前世の知識さえあれば自由に作り出すことができる。
さらには全体的な縮小化もできる。
実はこれが一番すごい。
前世では実現不可能は小ささの電子回路を作り出すことができる、なにせ知識にある物の縮尺を自由に変えられるのだから。
なのですべての魔道具には本来の機能とは別にある機能が組み込まれている。
それは超小型無線機能。
つまるところ原理は基地局と同じ、すなわち魔道具が広がれば広がるほど連絡用の魔道具を使える範囲が広くなるということだ。
燃料に関しても、魔力を使用分にプラスして計算されているから問題ない。
「確かに体験しないとわからないものだな」
神らしきの言った通りこれは実際に体験しないと理解を拒むな。
十分な数を作成し終わったら工房の壁に触れる。
すると壁の一部が広がりその先に通路ができる。
これは時空魔法の一つ。
(これも大概過ぎたもんだよな)
なぜ道ができたかと言うと距離を歪めているからだ。
例えば1メートルずつ違う色が続いている3つ壁があるとする。
時空魔法で両端の壁の長さを1.5倍に歪めるとしよう、すると空間が歪み真ん中の空間が無くなったように見えるのだ。
イメージとしては三つ折りにした紙の折り目同士をくっつけて真ん中の部分が見えなくなっているようなものだ。
存在しているけど見えたり、触れることはできないそれがこの壁だ。
俺が普段使う亜空庫も似たような原理だ。
道を進んでいくとブゥン、ブゥンとした聞き慣れた音が聞こえてくる。
そこは無人の空間でアームが動き回り様々な部品を作り回路を組み込み魔道具を生産している。
ここが魔道具の生産施設だ。
だが今回はこれには用ない。
俺は工房の奥にある大きな装置を作動させる。
これは前世で作られていた量子コンピューターをもとにして作った物だ。
『おかえりなさいませ』
「ただいま」
起動すると電子音声が聞こえてくる。
『経過報告です、現在生産完了した魔道具は冷蔵庫約1000台、レンジ約200台、洗濯機約500台、これから冬に入るのでセラミックヒーターの数は予定の倍の400台を生産。その他は通常通りに指定された数のみを生産しております』
いつも通り生産内容と数を報告してくる。
「とりあえず指定された魔道具以外は生産中止だ」
『りょうかいしました』
するといくつかのアームが動きを変える。
『なぜ、と聞いてもいいですか?』
こいつにはAIを組み込んでいるからある程度は思考できるようにしている。
「ノストニアの件はもうすでに読み込んでいるな?」
『はい、ですがこれからさらに魔道具の需要は高まると予想します、なのになぜ?』
さすがAIだ、おそらく裏の騎士団の通信内容を把握してそう言っている。
「簡単だ、買える人間が限られているんだ」
『………すでに十分な魔道具が出回ったということですか?』
「それもあるが、俺の魔道具で急激に生活が変わっていった。だがそれについて行けない人たちもいるってことだよ」
なにせ食料を長期間保存するという生活に慣れてない、なら無理して冷蔵庫を買う必要がないとなって、買わない人は少なくない。
ほかも同じ感じだ。
『……確認しました、では今後の魔道具生産体制を見直します』
持ち前の演算能力でシミュレートしてみた結果、どうなるかが分かったのだろう。
「それよりもすべての魔道具に新たな機能を付け加えてほしい」
『ではどのような機能を付け加えるか設定してください』
俺はキーボードを操作し、ある機能を付け加える。
『なるほど、過剰魔力を供給できるようにしたのですね』
その通りだ。
「…っとできた。じゃあ、あとは頼むぞ」
『了解しました』
そう言ってAIはフル稼働する。
今行っているのは外部から強制的に内部の構造を変化させる行為だ。
イメージするなら外部から勝手にパソコンのマザーボードを改造している。
それができるのもすべては魔法という超技術があるからだ。
あらかじめ空白の部分を作っておき、何か機能を加えたくなったらその部分を使い新たな機能を追加させる。容量がいっぱいになったらいらない部分を削ってほかの機能にする。
全ての魔道具にはそんな細工をしてある。
「どれくらいで終わりそうだ?」
『すべて完了させるのでしたら、期間にして約2か月ほど必要になります』
「じゃあそれで」
ということでこの場での用事は終わった。




