いや、なんで俺が?理由がないだろう?
雪の中、王都まで移動する。
「何の要件で呼び出されてたのでしょうか?」
今回はリンのみが同行している。
「さぁな、でもめんどくさいのは分かるけどな」
なにせ裏の騎士団だけで対処できなくて援助を求めてきたのだから。
「それにしても皆を置いてきて良かったのですか?」
「仕方ない、あいつらは裏の騎士団のことは知らないからな」
秘密裏の組織なのだ、知っている人物は限られているのだ。
リンはあくまで俺の側近で護衛だから存在を教えたのだ。
「なるほど」
「その代わりに気分が悪くなる話も聞くと思うがな」
「それは覚悟はできています、世の中が綺麗ごとだけで成り立たないのは理解しているつもりです」
それでこそだ。
雪の中、思うように進まずに普通なら3日で着く道が今回は7日掛かってしまった。
馬車を王都のゼブルス邸に着けるとすぐさま騎士団の使いがやってきた。
「ど、どうもで~す」
「「…………」」
グラス、なんでこいつを寄越した?
やってきたのは、微妙な評価のルナだった。
「手紙とか持ってきているのか?」
「いえ、私が説明するようにとのことです」
「……ッチ」
「その反応は何ですか!?」
こいつに説明させるなんてな。
「とりあえず、話を聞こう」
「実はこの冬にノストニアとの使節団交流があったんですけど……」
「…………待て、まさか、まさかだよな?」
頭の中でほぼ起こりえないことが頭の中に浮かぶ。
「たぶん、考えていることで当たりだと思います」
使節団が予定されていたノストニアの集落に訪れると、その晩にもてなしがされていた。
だがその際に酔っぱらった貴族の数人がエルフに寝室に連れ込もうとする。
これが娼婦やそれ込みで雇われている者だったら問題ないのだが、エルフ達にそういう文化は一切ない。
となるとエルフ達は無理やり寝室に連れ込まれ襲われそうになったという認識になって事が起こった。
さらには事が始まる寸前で発覚したために言い訳もできない。
そして現在、使節団は全員ノストニアの牢の中に入っているのだそうだ。
「バカかよ!!!なんでそんなことをしそうな奴が使節団に入ってんだ!?」
「実はエルド殿下とイグニア殿下がそれぞれ無理やりに使節団にねじ込んだ人員が居まして、それがこのような事を起こしたようです」
「自分の派閥に入れるために甘い飴を用意したがそれで誘い込めたのが馬鹿だったのか?」
「その認識で合ってます」
二人とも功を急ぐあまりにこのような事が起こったのだろう。
「で、俺にどうしてもらいたいんだ?」
「…………実はバアル様に使節団の救出をお願いしたいのです」
「いやなんだが?」
「え?!」
即座に断るとルナは目を白黒させる。
「なんでですか!?」
「当たり前だろう、なんで俺が尻拭いする必要があるんだよ」
結局は使節団を派遣した王家の責任だろう?
それに俺は協力をしているのであって、強制的に動かされるいわれはない。
「それに俺が行ってどうする?結局は俺も貴族の括りで見られてまともに話しなんてできないさ」
一度ついた印象はなかなか払拭はできない。
「ですが……」
「俺は魔道具で協力しているだろう?これ以上注文を付けるのか?」
そういうとルナは黙ってしまった。
「はぁ~俺も販路を広げようと考えていた矢先にこれだ、ある程度改善できる案が浮かんだら連絡する」
「お願いします……」
こうしてルナはとぼとぼと帰っていった。
「いいのですか?裏の騎士団の心象が悪くなりますよ?」
「いいんだよ、俺にも考えがあると知らせておく必要があるからな」
ダメな部分はダメと言わなければいつまでもいいように使われる。
「それにもう貴族として接触するのは無理だろう」
そこまでのことをしたなら貴族で接触はまず無理と考えないといけないだろう。
「まぁこれなら来年に国交樹立は無理だな」
ここから挽回するにはかなりの年月が必要になるだろう。
コン、コン
「入れ」
「失礼します、イドラ商会からお手紙が届いております」
メイドから手紙を受け取り中身を見てみるとアーゼル商会の嫡子との面談が決まったことが記されていた。
(状況が変わったからな……)
今の状態だとそこまで重要視する報告じゃない。
(新しい販路は惜しいが下手に首を突っ込むのもな……)
誰がどう見ても面倒ごとだ。
「まぁ時期に納まるだろう」
ということでこの件は係わるのはやめて魔道具作成に精を出すとしよう。




