新たなる厄介事
「ある程度、生産量が戻ったな」
俺、バアル・セラ・ゼブルスは文官が持ってきた書類を確認している。
「ええ、呪いが収束した反動で吸収されなかった分、成長が速かったようですね」
「………そうだな」
サルカザの二年前からの怨みでゼブルス領を蝕んだ呪いで不作になっていた。
元凶を倒し呪いを壊したことによりある程度は実りが戻った。
「今年の足りない作物は大型の冷蔵庫から備蓄分を放出しましたがよろしかったですか?」
「ああ、ほかにも足りないものがあったら問題ない範囲で放出を許可する」
こういう時に備えて大量に食料の備蓄をしていたので普通に対処ができている。
一応頷き、ある程度予想を語り合うと文官は部屋を出る。
「………それだけじゃないんだがな」
「そうですね、あの杖の効果もあるんでしょうね」
俺は工房に置いてある『豊饒の杖』を思い出す。
「しかし、教会に返さなくていいのですか?」
「……いいんだよ、モンスターが持っていたのだから」
モンスターから奪ったものはその人のものになる。
なら当然俺のものになる。
「それよりセレナはどうしているんだ?」
「庭で剣術の練習をしていますよ」
窓の外を見てみるとラインハルトに剣術を教わっているセレナ達の姿が見える。
「なんでも、カルス達にスキルレベルを越されたのがショックみたいで」
「いや、あいつの本分は魔法戦だろうに……」
まぁ本人は魔法戦士を目指していたようで何ら問題ない。
「で、何をしているのですか?」
今俺は魔道具に新しい装置のプログラムを作っている。
「それはどんな?」
「……あの戦いでウルが樹から魔力を供給されていただろう?その仕組みを真似できないかなって……な」
自作のパソコンに考案したシステムの実験をしてみる。
「ふむ……」
パソコンにある魔力が腕に着けているバングルを通って俺に戻ってくる。
だが
「っち」
その代わりにパソコンの全魔力が送られてきたので強制シャットダウンしてしまった。
「とりあえず過剰魔力のみを搾取する設定にするか」
それぞれの魔道具に過剰魔力量を設定し、近くから魔力を受け取れるように……。
設定し終えると、もう一度パソコンで試してみる。
「……今回は上手くいった、が」
想定よりも受け渡された魔力が少ない。
明らかにどこかでロスがある。
「ふむ、こうなるのか」
だいたいの予想を立てて、呼び出されていた件で父上の執務室に向かう。
「ふぅ~~~この魔道具はいいね~~~」
少し見ない間に執務室の一部に電気ストーブが置いてあり、その横にある、こたつの中に父上は入っている。
「暖炉があるじゃないですか」
一応全部の部屋に暖炉が設置されているのだがこの魔道具を作りだしたからほぼ使われることはない。
「いや~薪を持ってきたりするよりも、魔力を籠めてつまみを回せばいいから楽なんだよ。煤とかも出ないしね」
そう言ってこたつでワインを飲む父上。
「……で、用件は?」
「ああ、いくつかの家から手紙が届いている」
こたつから出ると、机の引き出しから複数の手紙を取り出し渡してくる。
「ああ、例の奴ですか」
「心当たりがあるのか?」
「ええ」
サルカザに協力していた貴族を裏の騎士団に割り出してもらった。
そして様々な圧力をかけたのだ。
食料供給を少なくし、いくつかの魔道具を意図的に動作不良にしたり、騎士団の派遣などを遅らせたりなど嫌がらせを行う。
「たく、馬鹿どもが」
普通に恨んで何かしらの手段で挑戦してくるなら問題ないが。
今回のように犯罪者に手を貸すのなら容赦はしない。
「……ふむ、王家に仲裁に入ってもらったか」
既に王家には今回の件はある程度報告している、よって王家は俺の味方でさらには教会も今回の事で怒っており、向こうは頼る相手がいない。
「………まぁ妥当だな」
なので今回は普通の時よりも多めに支払う必要が出てくる。
手紙には金銭や物品で賠償金を払ってくると書いてある。
「あと、これらの家は論外だな」
「どれ……確かにな」
今そう判断した家は、賠償金代わりに娘を差し出すと書いてあるのだ。
「アホだろ、どれだけ婚約者を選定するのがめんどくさいと思っているんだよ」
賠償を躱し、上手く取り入りたいという欲望が見え隠れしている。
「それで、この家に関してはどうしますか?」
「謝罪は受け入れない、だが少し様子を見る」
これよりもアホな行動を取ったら取り潰し、もしくは当主交代してもらうことになる。
「しかし、穏便だな、もう少し過激にやると思ったが」
「父上は俺のことをどう思っているんですか……」
かなりのサディストと勘違いしてないか?
ブルルルル
すると連絡用魔道具が反応する。
「どうした?」
『バアル殿か?』
「グラス殿、どうしたのですか?」
『すこし、知恵を借りたい』




