それぞれの心情
「で、俺達を呼び出した理由はなんだ?」
客人と言っていたくらいだ何かしらの用事があるのだろう。
『もしお主たちがこの事態を何とかしようとしているのなら協力しようと考えてな』
「(……ここは協力してもらっても問題ないだろう)一応確認だが、爺さんとそこの狼の目的は森を正常な状態に戻すこと、これで合っているか?」
『ああ』
ということでこの二体と協力関係になった。
『―――なるほど、では森がこうなっておるのは呪いという魔法のせいなのじゃな』
協力関係になったので情報のすり合わせを行う。
『で、その魔法を使っている人族を見つけて排除すれば森は元に戻るのじゃな?』
「ああ、その方法もあるにはあるが……」
『どうしたのじゃ?』
その方法を使ってしまうと、死ぬリスクがあることを説明する。
『ふむ、ならばその役割を儂が肩代わりしよう』
するとこんな申し出をしてきた。
「……理解して言っているのか?」
『無論』
「死ぬ可能性があるぞ?」
『……儂は長く生きすぎた、そろそろ世代交代をしなければいけないのだろう』
そういって、樹は語りだす。
意識を持ったのが約900年前。
それからは魔法を使えるようになり、念話を覚え、森の生き物と友達になったりした。
だが樹は生き物の営みを見て、長く生き続けている自分はあの中の存在ではないといつしか気づいた。
『何人もの友が土に返っていった、なら次は私が土に戻り命を繋いでいく番なのだ』
(樹ならではの死生観か)
植物は微生物が分解した栄養素を吸収し、その栄養で成長し、葉をつけ、その葉を動物や虫が食べ、その動物や枯れ果てた植物が土に返りまた植物の養分になる。
樹だからこそ、この感覚が強く感じているのだろう。
だからその輪に入れないのに疎外感を感じているのが話の中でわかった。
「ガァウ!!」
すると狼は樹に何度も何度も吠える。
『いや!!!!』
悲しみ、寂しさが伝わってくる。
『……肩代わりする代わりに頼みがある』
「……なんだ」
なんとなく察することができてしまった。
『儂が死んだらこの子の世話を頼みたい』
狼は本来【黒狼】という種族らしい。
本来は毛は黒く、目は青色のはずなのだが、この狼だけは生まれた時から真っ白い姿だったらしい。
それゆえに生まれた時から群れに捨てられ、何とか生き延びてこの樹の根元にたどり着いた。
その様子を見て、何を思ったのか樹はその子狼を保護した、それがこの狼だ。
それから木の実などで生を繋ぎ、今まで育ててきたのだ。
(まぁそこまで世話したら情が出てくるわな)
樹本体はそろそろ終わりたいと思っている。
だが心残りとしてこの狼のことが気がかりなのだとか
『すまんな、これはもう決めたことだ』
「!!!!!!」
樹がそう告げると狼は涙しながらこの場を離れていった。
「……いいのかほっといて」
『しかたないだろう、別れと言うのは唐突に訪れるものだ』
(まぁ、俺らが踏み込む問題ではない………けど)
すでにリンが狼を追っていた。
(あいつなら上手くやるだろう)
狼はリンに任せて、俺は樹と話を詰める。
「セレナ、呪いの追跡は今すぐできるのか?」
「すぐには無理ですよ、急いでも一日必要です」
ということで明日再びこの場に来ることを約束する。
(向こうも終わったら戻ってくるだろう)
私は狼の後を追う。
(その気持ちはわからなくもない)
なにせ唯一の家族ともいえる存在が消えるかもしれない、さらにはそこから追い出されてしまう。
「似ていますね」
私も家から武者修行の指令を受けた時、裏切られた気持ちになった。
「……いましたね」
狼はとある崖っぷちまで移動していた。
その場所からはあの樹が遠目に見えた。
『……ねぇ………じいちゃんは俺が嫌いになったのかな』
狼から念話で話しかけられる。
私は狼の横に並び、樹の周辺にいる二人を見る。
「それはないですよ、あの方は君のことを思って提案したんじゃないんでしょうか」
『……』
そこから私の考えを話す。
「もし、嫌いになったのであれば“死んだら世話を頼む”なんて頼みませんよ」
『じゃあなんで……』
「多分、あの方はこのままではいけないと思ったんでしょうね」
『なにが?』
「君はあの方に依存しすぎている、だから一度距離を離したかったのではないかなと」
それに朽ち果てたいから信用できる存在に預けたかったとも思う。
「実はですね……私も家族に厄介払いされたのです」
『……』
「そのあとに各地を転々として、バアル様に拾われました……なんか似てますね」
『……』
「バアル様に雇われてから、私は必要とされました。それは生きていいと認めてくれているように感じられてうれしかったです」
『……』
「もし、バアル様が死ぬ、なんてことを聞かれたら私もおかしくなると思いますよ」
『……じゃあどうするの?』
狼は共感できる部分があったのか話を聞いてくる。
「そうですね、何としてでもバアル様を助けます、この命と引き換えにしても。それほどの恩を私は受けました」
『……じゃあその人が自分の死を望んだら?』
「わかりません、ですが最後まであがいて、それでもだめだったら最後まで一緒にいると思います」
『……そう………………俺もじいちゃんを守りたい、それが小さい頃から育ててくれた恩返しだと思うから、そのために強くなった』
そのために自らを鍛えて強くなったらしい。
「偉いですね」
『俺は……じいちゃんしかいない……一緒に居たい』
だけどあの方自身が終わることを望んでいる。
その意思は狼には代えることはできないのだろう。
「なら守りましょう」
『?』
「呪いの肩代わりでもすぐに死ぬわけではないです、広範囲の呪いを一か所にまとめて受け入れるというものです」
道中セレナに聞いた呪いのことを話す。
「代わりに何百倍もの呪いを受けることになりますがあの方は魔法耐性を持っています、かなりの時間が稼げるでしょう」
『……その間に』
「ええ、首謀者を討つことができればあの方は助かることになります」
すると狼は立ち上がります。
『そうだね……………………ありがとう』
「どういたしまして」
私は再びバアル様、愛すべき主君の元へと戻る。




