ユニコーンリング
「変哲もない森に見えるがな」
森の入り口に来たのだが山の中腹まで続いている普通の森だった。
「で、いまでも何か感じているか?」
「はい、今も見られている感じがします」
ということでその視線の主を探す。
「じゃあリン頼むぞ」
「はい」
リンの先導の元、森の中を進んでいく。
「………おい、なんでそっちに行く?」
まっすぐ進んでいたはずなのにリンが急に真横に曲がり始めた。
「え?…………こういうことですか」
だがリンはなにかを理解した顔になる。
「ではバアル様、まっすぐ進んでみてください」
「???」
リンに言われた通りにまっすぐ森の中心部目指して進むのだが………
「………なんで」
方向感覚には結構自信があったのだが………
俺たちはなぜだか入ってきた森の入り口に戻ってきてしまった。
「どういうことだ」
「どういうことだも何も二人が急に曲がりは始めるんですからびっくりしたんですよ」
リンの話では普通にまっすぐ進んでいたら急に俺たちがどこに行くのかと声を掛けてきた状態らしい。
(つまり俺たちの方向感覚が狂わされたのか?)
でこのときに根本的な疑問が出てくる。
「なんでリンは感覚が狂わないんだ?」
俺たちが狂わされているのにリンだけが道を間違えなかった。
「たぶん、これだと思います」
リンは一角獣の模様が入った腕輪を見せてくる。
「それって!?」
「なるほどな」
『ユニコーンリング』には【純潔】と言うスキルがあり毒はもちろん、呪いなどの状態異常を防ぐ効果を持つ。
(ただ処女しか使えないのが欠点だがな)
ユニコーンらしい性能を持っていた。
「その話がそうなら【浄化】で俺たちのも防げそうだな」
【浄化】は他者の状態異常を回復する。
そのため俺たちのズレも直してくれると踏んだ。
「じゃあもう一度行きましょう」
次に森を進み、ある程度すると徐々にリンとの方向にずれを感じてきた。
「【浄化】」
リンが掛けてくたおかげで今のズレを認識することができた。
「なるほどこういう感じか」
周囲の状況と自分の認識に誤差があるのが理解できる。
(これは迷いの森と言われるだけあるな)
分かりやすく言うと距離感が引き延ばされており、少し右にズレたつもりが大幅に右にズレたり、大きく左にずれたつもりがほとんどズレてない状態になってしまうのだ。
人間は構造上完全にまっすぐに動くことはまず無理だ。少し右にズレて、次にほぼ同じ距離を左に移動することでまっすぐに移動する手段を持っているだけだ。この感覚を狂わされれればほとんどまっすぐに歩くことは不可能に近いのだ。
(ほんと、魔法って何なんだろうな)
頭で理解しようとするが前世の知識が邪魔をしてすんなりとはいかない。
その後も色々なことを考えながら進んでいく。
リィン、リィン
「バアル様!!」
イヤースカフから音が鳴ると同時にリンが目の前に出てくる。
ギィン!!!
リンの刀が何か固いものに当たった音が聞こえる。
「狼か……それもアルビノか」
リンが相対しているのは真っ白い狼だ。
大きさは大型犬程度で、唸り声をあげている口からは鋭い牙が見える。
「バアル様」
「一人で十分か?」
「無論です」
ということでリンが狼の相手になることになった。




