そこまでマセてるように見えるのか……
視察3日目。
この日も問題なく予定した視察を終え、そのまま帰路に就く。
「はぁ~~」
馬車の中で欠伸をする。
当初の予定通り、最後の村を回り終わり何事も無く帰ろうとしているのだが。あまりにも何もないのだ。
「暇だ……」
「暇なのはいいことです、バアル様」
馬車の外には馬に乗っている黒髪侍少女、風薙 凛だ。
以前の村に寄ったとき俺が雇ったのだ。
年齢は俺よりも2つ上の7歳だ。
「村の視察した結果などをまとめてはどうですか?」
「残念ながら、酔うから俺は馬車で文字は見ないことにしている」
俺は乗り物で文字などを見ると酔う。
「それでは気分転換に馬に乗りますか?」
「……そうだな気分転換にやってみるか」
俺は騎士の一人から馬を借り、走らせる。
馬を走らせる、すると風を切る感覚が気持ちいい。
それから5時間ほどかけて俺の館がある都市『ゼウラスト』に到着する。
ちなみにだが領地を移動するのに馬で5時間ほどで着くはずないだろう、と思うはずだ。
その理由はこの世界の馬にあった。
この世界の馬は地球の馬よりも力強くタフなのだ。
具体的に言うと、最大半日走らすことができ、その速度は最高で70キロも出る。
正直、本当に馬なのかとも思うぐらい違うのだ。
(まぁ早くて便利なのだからいいんだけど)
ということで館に戻り、父上の執務室に訪れる。
「――ということで、視察の結果、今のところ問題はありません。ですがギルドや銀行を少しばかり増やした方が良いかもしれません」
「うむ、検討しておこう」
おれは今回の視察でのことを報告する。
「それでだな……」
父上は報告よりも俺の隣にいるリンのことが気になっている。
「彼女は俺が専属で雇いました」
「…護衛なら騎士たちがいるではないか?」
「今は父上の騎士です、私専属の騎士ではありませんので」
「だがそうなると公金からはその金は出さんぞ」
「わかっております」
あくまで彼女は俺個人で雇ったのだ税金から払う訳がない。
「それでだが護衛というからには彼女を近くに侍らす必要がある………その」
「場所については安心してください、俺の部屋についているメイドの部屋に寝泊まりさせますので」
「う、うむ……そうじゃないんだが」
……ああ、そういうことか。
「安心してください、父上が考えているようなことは起こりませんので」
なにせ精通すらしてない子供なのだ、そんな欲は湧いてこない。
「ならいいが……一応エリーゼにも話しておきなさい」
ということでリンのことを母上に話す。
すると
「バアル……責任のとれないことは絶対にしちゃダメよ」
と、とても真剣な表情で言われた。
(そこまで、手を出しそうに見えるのか……)
俺は少し気落ちした。
そんなこんなで今日が過ぎ明日が来る。
翌朝、朝から屋敷内が騒がしい。
「メイド長、こちらの準備は終わりました」
「わかった、では次に寝室のチェックに入ります、その間に使用人の選択を済ませておきなさい」
「セバス様、庭の手入れを終えたので確認お願いします」
「わかりました、ではその間に庭の状態を見ておいてください」
「料理長、食材の搬入終わりました」
「おし、では料理の下準備に入るお前ら掛かれ!」
「「「「イエス!ボス!」」」」
一部軍隊みたいな手合がいたがそんなことも気にならないくらい屋敷内が忙しい。
そんな中父上の執務室に向かう。
「忙しいでござるね」
「今日は重要なお客が来るからな、今日は凜も大人しくしていろよ」
「わかりもうした」
父上の執務室に入る。
「父上、今日の交渉の準備はよろしいですか?」
「バアルか…問題は無い」
死にそうな顔をしているのだが。
「いやね、少し緊張しすぎてね」
相変わらずメンタルが弱いな。
「最悪、バアルにすべて丸投げするからよろしく」
それでいいのかゼブルス家当主!
「では一通りの資料を見せてください」
「ほら」
見せられた書類を見ると、この領地での相場、もし輸送時掛かる費用、年間採取量、ゼブルス家領内での相場、うちで取れる鉱物の種類と量などなど。
「………理解できました」
一通りの内容を理解して資料を返す。
すると執務室から豪華な馬車が屋敷に入るのが見えた。
「リチャード様、バアル様、グラキエス家当主様とそのご令嬢がご到着しました」
「うむ、わかったすぐに行く」
ということで僕たちは応接間まで向かう。
「失礼する」
中に入ると髪と目がそっくりな親子がソファに座っていた。
「久しぶりだなアスラ」
「そっちもなリチャード」
父上たちは気安くあいさつを交わす。
「そっちが息子か?」
「ああ、名はバアルという」
「知っているさ、娘と同じくユニークスキル持ちだな」
あっちはこっちのことを知っている。
(まぁあれだけ色々と起こせばな)
清めの際のステータス確認、イグニア殿下との決闘、あとおそらくだがイドラ商会の会長であることも知られているはずだ。
「初めまして、バアル・セラ・ゼブルスと言います。父上とはどのような関係ですか?」
親しそうな挨拶をしていたのが気になった。
「ん?なんだ話してなかったのか?」
「ああ、そういえば私の学校時代とかは話してないな」
学校時代?
「そうだな、私と、リチャードは学校時代の同期なのだ」
それだけ?
「ついでに言うと、その時今の陛下の派閥に入っていたからな」
納得した。
「じゃあこちらも挨拶をしよう。私はアスラ・セラ・グラキエス。グラキエス家現当主だ、でこっちが」
「初めましてリチャード様、そしてお久しぶりですバアル様。ユリア・セラ・グラキエスです」
綺麗な所作をしながら挨拶をする。
「さて昔話に花を咲かしてもいいが、本題に入らないか」
「そうしよう」
父上たちの言葉で交渉が始まる。




