初の従士
目を覚ますとどこかの家の中だった。
「起きたようでござるな」
ベッドの傍らにはあの少女がいた。
「ふぅ、気絶してどれくらい経った?」
「あの試合から数時間ほどでござる」
そうか。
「「……俺(某)の負けだ(でござる)………は?(え?)」」
俺とこいつは共に自分が負けたという。
「俺は最後の攻撃の衝撃で気絶したはずだが?」
「某も貴公の攻撃を受けて気絶してしまったでござるよ」
どちらもお互いの攻撃を受けて気絶してしまったようだ。
「じゃあ引き分けか」
「そうでござるな」
こうして腕試しは幕を閉じた。
窓の外を見ると空は夕日に染まり、いい匂いが漂ってくる。
コンコンッ
「バアル様、お食事の準備ができました」
「わかった、すぐに向かう」
俺はベッドから下りて部屋を出ようとする。
「?お前は行かないのか?」
「…実は今は手持ちがないのでござるよ」
そんなことか
「奢ってやるからついてこい」
「!!!」
すると嬉しそうな顔をして着いてくる。
ここであることを思い出した。
「そういえばお前の名前は?」
「…そういえば名乗ってなかったでござるな。某は風薙 凛と申す」
「リンか…俺はバアル・セラ・ゼブルスだ」
「ゼブルス殿でござるな」
ん?
「違う、それは家名だ名前はバアルのほうだ」
やっぱり名前は日本風なんだな。
「そうなのでござるか?ではセラというのは?」
「セラは貴族籍を持っている者に与えられる名だ」
「ほう!バアル殿は貴族だったでありますか」
「………気づかなかったのか」
「某はこの国に来て1週間も経ってないでござる、そこまで常識などはまだ持ってないでござる」
なら仕方がない。
「それよりも飯でござる」
俺は肩をすくめて階段を下りていく。
そのまま騎士たちが用意している席へと進む。
「えっと…」
「いい、この席に座れ、それとこいつの分の食事も頼む」
俺は隣の席にリンを座らせる。
「いいのでござるか?」
「問題ない、それとこいつは俺の客人だから丁重に持て成してくれ」
「わかりました」
俺はこいつを客人と認めた。
「お待たせしました」
リンの食事の分が運ばれてくる。
「では食うか」
「うむ、いただきます」
料理は猪の煮込みと白パン、ほかにもフルーツの盛り合わせと新鮮なサラダ。
これらを食べていると一つ気になったことができた。
「なんで厄介払いされたんだ?ユニークスキルを持っているならむしろ重宝されそうだが」
ユニークスキル持ちは様々な国でかなりの評価を得ている。
国の豊かさと言ってもいいぐらいだ。
「じつは―――」
リンは小さい頃からこのユニークスキルを使えたみたいなのだ。
だがそれは使えるだけで制御はできなかったのだ。
ユニークスキルを使えば必ずと言っていいほど周囲に影響が出る。
他にもヒノクニはこの国よりもひどい男尊女卑で男よりも強いリンは目の上のタンコブだったようだ。
リンは何とかユニークスキルを制御しようとしていたのだが、使えば被害が出るということで訓練はできなかったのだ。
そして7つ上の兄が当主代理に抜擢されるとリンに武者修行の旅を命じたのだ。
「待ってくれ、リンは家庭に入ることは考えなかったのか?」
いくら幼いとはいえ、ユニークスキル持ちだ、戦力を所持するという点でこの年齢で婚約という手段もあったのではないか?
「それも考えはしたのだが、夫よりも強い妻など、どの家もいらないといわれたのだ。だからしたかなく刀を取り強くなることにしたのだ」
それで金銭と母が家宝として所持していた刀を譲り受け、武者修行として家を追い出されたわけだ。
「でもなんでほかの国なんだ?武者修行なら自国でもできるだろう?」
「残念ながらとても厳しいでござるよ、女の武士は基本的にどの家も雇ってくれはしないのござる、なので必然的に他国に出る必要があったのでござるよ」
「そうか……じゃあ俺がお前を雇いたいと言ったらどうする」
それなりに腕を持った少女、なによりユニークスキル持ちだ手元に置いておいて損はない。
「本気でござるか?」
「ああ」
「ではよろしくお願い申し上げる」
条件も詳細に決めずに引き受けてくれるつもりだが。
「待て、雇う条件を聞かなくていいのか?」
「他国では伝手もないので、どこも雇ってはくれないのでござるよ、冒険者になろうとも年齢制限で受けられる依頼は制限されるし」
「だとしても条件は聞いとけ……」
お礼を言う少女だがすこし危機管理能力が機能してないんじゃないか……
「まずリンは護衛として雇う」
「うむ、腕には自信があるぞ!だが…」
リンは周囲にいる騎士たちを見る。
「いずれは俺に仕える騎士になるだろうが今は父上の騎士だからな、俺は自分で使える従士が欲しいんだよ」
「納得でござる」
「基本は四六時中俺の傍に居て護衛してもらう、もしかしたらほかに雑務を頼むとは思うが」
「大丈夫!」
「次に給金の話だ、月に金貨3枚でどうだ?」
「3!?」
ちなみにだが金貨は日本円で100万ほどの価値になる。
ほかにも銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨、黒金貨などがあり順に一桁ほど価値が上がっていく。
「願ってもない」
「そして休暇だが10日に1日休みをやる。ただ場合によって休みの日をずらしたりはあるだろうが」
この国ではこれでも休みを与えすぎなくらいだ。
「この条件で異論はあるか?」
すると少女は席を立ち跪く。
「不肖風薙 凛、バアル・セラ・ゼブルス様に忠義を捧げます」
こうして俺は初となる従士を手に入れた。




