それぞれ動き出す
夏休みが終わるとそれから普通の日常が続いた。
(………報告書を見る限りだと、セレナの話と食い違う場所がいくつかあるな)
学園が終わると自室に戻り、裏の騎士団から届いた報告書を見ている。
(だがこの状況だと俺も動いた方がいいな)
ということで手紙を書き、リンにイドラ商会に届けさせる。
「……このチャンスを見逃す手はないだろう」
手紙を出してから数日経つと返事が来た。
「………よし」
手紙はイドラ商会と陛下に二通作る。
魔道具を取り出し、魔力を流す。
「父上、聞こえますか」
≪ガッシャーン!!≫
(……なんか割れた音がしたぞ?)
≪バ、バアルかどうしたんだ急に?≫
「今、イドラ商会に卸す魔道具の在庫はどれくらいですか」
≪まってくれ確かめる、すまんエリーゼ、途中ですがいいのですか?、ああバアルの件が終わったら続きを頼む、ええ≫
……また仕事サボっていたんだな。
≪確認したぞ、大体4割ほど残っている。詳細を教えようか?≫
「いえ、大丈夫です」
≪……今度は何をやるんだ?≫
「すこし新しい販路が出来そうなので噛みたいと思っていまして」
≪……あんまり派手なことをするなよ≫
在庫を確認すると次は王都イドラ商会に向かう。
「い、今からですか!?」
「ああ、アズバン領で活動しているアーゼル商会に接触してくれ」
「ですが、何の要件でですか?」
「ノストニアのことは分かるか?」
「ええ、エルフの国の事ですよね、ですがあそこは鎖国状態で…………!!!」
王都の支配人も気づいたようだ。
「もう言わなくても分かるな?」
「一つだけ、ほかにもエルフの伝手を持てた商会はあるのでしょうか?」
この問いに笑顔で答えた。
「わかりました、では早速アーゼル商会の伝手を構築する準備に入ります」
「ああ、それと第二席はまだ子供らしいぞ」
「……それはすごいですね」
これで準備は大丈夫だろう。
ここの支配人はかなり頭が回るから、俺の言葉の裏も理解できただろう。
(……学園が無ければすぐにでも俺が出向くのにな)
このようなタイミングで学生なことに苛立ちを覚えそうだ。
ということで学園生活を送りながら来年のノストニアへの商業準備をする。
「このように王家であるグロウス家は4つの家と共にこのグロウス王国を興しました」
今やっているのは歴史の授業だ。
黒板にはこの国が書かれており、そこに王家と四つの公爵家が書かれている。
「北は交易が盛んなアズバン領、南は広大な農地があるゼブルス領、東は多くの鉱脈が眠っているハルアギア領、西は広大な草原と家畜が多いキビクア領、そして中央にはそれらが最も集まる王家直轄地がある」
正直、学園が始まる前から教えられている内容なので新鮮味もない。
授業が終わると昼食になる。
「すごいですね」
共に昼食をとっているセレナが感嘆を漏らす。
「なにがだ?」
むこうではそう珍しいことじゃないだろう?
「いえ、設定がとても細かく作られていることにです」
「……」
まだこいつはゲームの中だと思っていやがるのか。
「バアル様、お話ししたいと言うものが来ているのですが」
リンの視線を追ってみるとエルドが供回りを連れて近づいてきた。
「やぁ、最近はよく動いているみたいだね」
何しているんだ、という声も同時に聞こえた気がした。
「いえ、なんでもイドラ商会の品が好評なようで少し数を増やそうとしているだけですよ」
「そうか、では少し面白い話があるのだが聞くか」
「…伺いましょう」
裏ではイグニア陣営にいるが表では中立を保っている、問題ないだろう。
「実はエルフ関係で動きがあったらしい」
「ほぅ、ノストニアですか」
「ああ、アズバン家でエルフが出たと王宮で耳にした、そしてノストニアが王位交代する」
「つまりは交易できる可能性が出てくると?」
いや、もう知っているのだが……エルドは裏の騎士団の存在はしらないのか。
「それはそれは」
「どうだ、この一件に噛まないか?」
「具体的にどうすると?」
「近々、使節団を派遣しようと思うだ、それに参加しない?」
(ちゃっかりと取り込もうとしてくるな)
この使節団に参加すればエルフの知己を得ることができる、だけど同時に外部からはエルドの陣営に入ったと判断される。
(一度判断されれば覆すのは難しい)
となると今回は残念ながら断念せざるを得ない。
「そうか、使節団にはイグニアの陣営もいるがそれでも?」
「……そうですね、今回は両殿下にお任せします」
ここはアズバン家の顔を立てないと後々めんどくさくなるだろうからな。
(貴族の縄張り意識の高さときたら……)
貴族における暗黙のルールを守らないとあとで報復される可能性がある。
ということで今回は殿下たちとアズバン家に任せる。
(使節団には参加しなくてもほかのルートで行くつもりだから問題ない)




