交渉の前段階
「ん?」
「おい!責任者を呼べ」
「子爵様ここは穏便に」
「何度も意見状を出しておるのになんで要望通り魔道具を作らんのか!」
なにやら店の前で騒いでいる貴族がいる。
「支配人、あれはなんだ」
「実は数日前から、クラガル子爵がとある魔道具を作ってほしいと要望を出しているのです」
「どの魔道具だ?」
俺は手元にある意見書のどれか確かめる。
「いえ、そこには入れておりません」
「なぜ?」
「…お見せするのもはばかれる内容でしたので」
「見せろ」
意見書を見せてもらうのだが。
「平民の女性を絶対服従させる魔道具…………」
「………………………」
んなもんどう作れと!
「はぁ~憲兵を呼べ」
「もう呼んでおります」
仕事が早い。
「クラガル子爵、ご同行を」
「うるさい!なにをもって儂を捕まえようとしているんだ!」
貴族の身分で何とかしようとしているが。
「残念ですが憲兵には貴族を捕縛する権限が陛下より与えられていますので」
そうして有無を言わさず連れていかれた。
騒ぎが収まり馬車に向かおうとしたのだが店の中に顔見知りがいた。
「あら、奇遇ですねバアル様」
「ユリア嬢も」
なぜだかユリア嬢がここにいた。
「しかしなぜこのような場所に?」
「いえ、あの約束の大部分である魔道具のことを学びに来ただけですわ」
「そうですか、ゆっくりしていってくださいね」
社交辞令だけしてこの場を去ろうとする。
「待って」
止められた・・・
「どうかしましたか?」
「ゆっくりってことは、イドラ商会はバアル様が経営しているのですか」
「……ええ、その通りですよ」
「となると……」
なにやら考え込むユリア嬢。
「お~い、ユリア!」
奥からイグニア殿下が現れる。
「あっ!バアルなんでここに!?」
「殿下どうやらこの商会はバアル様の持ち物みたいですよ」
「そうなのか?」
なんだろう、やんちゃな子供が大人しくなるとかわいく感じるんだな。
「ええ、そうですよ」
「なら剣の魔道具は無いか?」
「……残念ながら魔道具を武器に転用する考えはありませんので」
「むぅ、でもエルドの依頼で魔道具を作るのだろう?」
「それも護身用にです、決して武器などではありません」
「そうなのか、では俺もその護身用の魔道具が欲しいぞ!」
「ではご用意が出来たらお知らせしますよ」
「おお頼んだ!」
二人は再び店内に戻っていく。
(このままいけば、どうなることやら)
俺のゼブルス家とグラキエス侯爵家がイグニア殿下を後押しする。
それは王位継承位争いをだいぶ有利にすることができるということだ。
そのなかでどうすれば利益を上げられるか、だが
(とりあえずはこのままでいいな、鉱物も安く手に入ることになるし)
ゼブルス領には鉱山が少なく、代わりに豊かな牧草地や肥沃な土地が広がっている。
なので食料に困ることはほとんどないが鉱物は少々値段が張る。
「ありがとう貴方~~」
「いいんだよエリーゼのためなんだからこれくらい何の問題もないさ」
………………………………(イラッ)
俺はこの領地のことを考えているのにこの夫婦は。
「母上、そのお金イドラ商会から借りた奴ですよ」
「………え?」
「シィーーーーー!」
ちょっとうっとおしいので黙ってもらう
「なんで!息子の商会のお金を使っているの!」
「いや、それは」
うるさくなった声を後に部屋を出る。
「バアル様、お手紙が届いています」
「………どれ」
届けられた手紙の紋章はグラキエス家の物だった。
(嫌な予感がする)
とりあえず中身を見てみる。
「……これを父上に持って行ってください」
「かしこまりました」
内容は要約すると『約束を結ぶためそちらに向かう』というものだ。
指定された日にちはちょうど2週間後。
メイド長を呼び出す。
「2週間後、グラキエス家が来訪する、丁重に持て成せるようにしておけ」
「かしこまりました、バアル様」
持て成しの準備をメイド長に任せて俺は父上の執務室に入る。
そして書類の中から過去のやり取りを記したものを探す。
「あった…………」
何これひどい。
「こんな条件じゃ頷くはずないだろう…………」
これらの書類からいい感じの条件を探り出すことにした。




