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更に半年がたち、もうすぐ学園に通う。
ここまで険しい道のりであった。
とかなんとか、カッコつけてみたんだけど...
早くイケメンたちと素敵な恋がしたーい!!
いや、マジで頑張ったと思うよ!
ゆとり教育って本当にゆとりだったんだって実感したもん。
ゆとりっていいね。
何度ゆとりに戻りたいと思ったことか...
今も先生という名の鬼から地獄の特訓に連れて行かれている。
というのも、私が乗馬で駈歩から進歩しなかったからだ。
こわくて襲歩ができない。
襲歩なんて使う機会滅多にないし、駈歩までできれば十分だと思うの。
先生にも(ビクビクしながら)そう伝えたのに...
「そんな悠長なこと...
滅多にない機会が訪れたとき、どうなさるのですか?
よろしい。
私が駈歩できるようにいたしましょう。」
と、はじめは呆れたように、最後は恐ろしい笑顔で言われた。
逃げることは許されないらしい。
ひいいぃいいいぃぃぃいい
こわいこわいこわい
はやいはやいはやい
現在、体格のいい馬に先生と2人乗り。
先生の前に座った私を先生はがっちりと左腕を巻き付けております。
えぇ、逃がさないとばかりにがっちりとね。
そして駈歩で疾走しておりますよ。
初めて乗馬したとき、あれは全速じゃなかったらしい。
手加減されていたみたい。
もうやめて!
ホントやめて!
とめて!
こわい!
どんなにそう思っても声には出せない。
口を開いたら舌を噛む。
歯を食いしばって耐えるしかない。
もう何時間そうやって走ったのか...
実際は30分もなかったんだろうけど、永遠に続くかと思った。
やっと速歩にまで緩まり、自分で身体を支えることもできなくて、グッタリと先生に寄り掛かる。
そのまま魂をどこかに飛ばし、景色なんて眺める余裕もなく、ボーッとしていた。
「着きましたよ。」
不意に声をかけられ魂を呼び戻す。
先生に支えてもらい馬から降りると、そこは湖だった。
湖の前には一面の花畑!
『うわぁ!素敵!
見てみて、先生!
お花がいっぱいで可愛い!』
それからは夢中で楽しんだ。
お花で冠を作ってみたのだけどあまりキレイにできなくて、何個作っても上手くできずにしょんぼりしていた私を見た先生がキレイに出来た花冠をくれた。
『先生すごい!
作ったことがあったんですか?』
「いや、あなたが作っているのを見て作っただけですよ。」
うん。
私が不器用なんじゃなくて、先生が特別に器用なんだ。
そうだよ。うん。
夕方、邸に帰り着いた。
『先生、今日はとっても楽しかったです!
これ、宝物にしますね。』
そう言って、花冠を見せると、先生はニヤリと笑う。
「そうですか。
それはよかったです。
では、また襲歩の練習に行きましょうね。」
その言葉で青ざめる私を見て、満足そうに先生は去って行った。
うわぁん
忘れてた!
帰り道は普通に速歩だったから、楽しかったことしか頭になかった。
墓穴掘ったよ~
トホホと顔を下に向けると手に持った花冠が目に入る。
まぁ、でも楽しかったのは本当のことだ。
これは今日の思い出を詰め込んだ宝物。
今までお母様と貧しく生活していたから、あんなに綺麗なところを訪れたのは初めてだったんだもの。
リリアンは大切にしようと想いを胸に部屋に戻るのであった。
※乗馬用語
速足...はや歩き(パッカパッカ)
駈歩...走る(パカラッパカラッ)
襲歩...全速力で走る(ドドドドド)