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家庭教師をつけてもらってから半年。
さすがヒロイン!
ハイスペックで勉強なんてなんのその!
ちょちょいのちょいよ!
なーんてことにはならなかった。
私は私のまま。
勉強は平均。
いや、ちょっと見栄を張った。
必死に勉強したら平均に行くかな?って感じ。
運動は苦手なの。
幸い、お母さん...じゃなくて、お母様から読み書きは教えてもらってたし、前世は女子高生してたから計算は問題ない。
でもさ、歴史の分厚さが半端ない。
日本でも日本史は習った。
でも、習っただけで、試験終えればあっという間に忘れちゃってたし。
なのに、貴族たるもの自国の歴史を知らずしてどうする!って感じで...
しかも!
ヘンシャル伯爵家の歴史も覚えないといけない。
人物名で頭がごちゃごちゃになる。
派閥とかもあって、貴族図鑑で名前に特徴、血縁関係や領地なんかを教えられるんだけど、もう頭はパンク寸前!!
しかも、写真とかないから覚えにくいったらない。
頑張ってたんだけど、3ヶ月くらいで心が折れた。
『こんなに覚えられません』って家庭教師の先生に言ったのよ。
そしたら「これは学園関係だけです。まだまだあります。」って別の貴族図鑑見せられた。
有無を言わさない笑顔で「あなたのためですよ。頑張れますね?」って言われたら、頷くしかできなかった。
でもさ、やることこれだけじゃないんだよ!
「乗馬は貴族の嗜みです。」って、先生と2人乗りで叫ぼうともスピードを緩めることなく1時間は走った。
馬なんて全く乗ったことも関わったこともなかった初心者にだよ!
前世で可愛いねってちょっと見たことあるくらいだよ!
あれ、ヤバいよ。
もう、めっちゃ揺れるの!
ガックン、ガックンなるから、最初叫んだけど、舌噛みそうになって、あわてて歯を食いしばって、落ちないように必死にしがみついてた。
ジェットコースターなんて比じゃない!
降りたときには心臓バクバク、足はガクガクでへたりこんだ。
そんな私に先生はいい笑顔で「初めが肝心です。この経験であとは何事も怖くないでしょう。」だって。
確かに、そのあと一人でゆっくり歩かせるところから始まって、全く怖くなかった。
おかげで順調に乗れるようになってるとは思う。
でも、全く感謝したいとは思わない!!
そしてダンス。
これはね、うん、ちょっと、ね...
一応、1ヶ月ほどで基本のステップは踏めるようになったの。
一番簡単なやつを「1・2・3 1・2・3」に合わせてね。
でも、先生とパートナーを組んで踊り始めたらダメダメ。
何度もステップ間違えて、先生の足踏んで、間違えれば間違えるほど焦っちゃって悪循環。
泣きそうになりながら先生を見てみると、にこやかな笑顔のままで何も言わない。
でも、まだこのときは先生が鬼だなんて知らなくて。
いや、鬼だってことは気付いてたのよ。
でも、まだ鬼の本領発揮はしてない時期だったの。
だから、笑顔なのに安心したの。
いざ終わってみたら変わらずの笑顔で言われたの。
「私は人ではないものとダンスするという貴重な体験が出来ました。
足先を鍛えるというのは発想がなかったですね。
とても斬新だと思います。」ってね。
一瞬何を言われてるかわからなかった。
理解した瞬間に怒りと羞恥が襲ってきたけど、言い返すことはできなくて、そのうち見返してやるんだから!
他にも、お茶会やら、礼儀作法やら、なんやらかんやら...
もう、無理!って思うのに、その度に先生はお決まりの「あなたのためです。」って...
逆らうことはできなかった。
初日はドレスでご飯を満足に食べれなかったけど、今では普通に食べれる。
これはお母さん...じゃなくて、お母様のおかげでもある。
お母様が厳しく躾てくれたため、カトラリーの使い方は問題なかった。
あとは順番とかのマナーだけ覚えればよかったから、楽だった。
ご飯がおいしく食べれてよかった。
毎日毎日、鬼からの仕打ちにおいしいご飯なしじゃ耐えられないものね!
でもね。
でもね!
魔法は中々に上達が早いみたい。
やったね!
初めてクリーン魔法を見た日、興奮して黒歴史を作ってしまったけど、よく考えたら使えなくて当たり前なのよね。
ここ、イシュミラ王国では5歳になったら教会に行って国民カードというものを作るのが義務だ。
これは身分証明をしてくれる大切なカードで、微量な魔力で本人でしか内容を表示できないという優れもの。
そして、このカードを作るときに魔力測定と基礎魔法というものを教えてもらう。
基礎魔法は貴族でも平民でも使える魔法で、マッチくらいの火がつけられたり、そよ風が吹いたりといったもの。
で、勿論私も使える。
この世界の魔法は少しややこしくて、魔方陣を覚えて、その魔方陣が何で構成されてるかを理解して、自分の魔力で構築して発動させる。
ゲームではそんなことでてこなかったから知らなかった。
やたら難しいのに思わず涙でたわ!
だから、想像力で~とか全く関係ない。
それを5歳のときに知ってたのに、当たり前に基礎魔法を使えてたから忘れてた。
そりゃ『ウォーターボール!』とか高らかに唱えても何にもならないわな。
恥ずかしい。
いいんだ。
誰も見てなかったから墓まで持っていくんだから。
今の話で何となく察したかもしれないけど、魔力は貴族、それも高位になれば成る程魔力を持っている。
たまに平民でも多くの魔力を持っていて、そういった者を見つけて国や貴族に取り込むために、5歳で魔力測定を行っているのだ。
そんな当たり前のことを忘れ、チートがないと落ち込んでいたが、家庭教師から魔法について教えてもらってからは結構いい感じだと思う。
私は風魔法が一番相性がよくて、風魔法を習ってるんだけど、もうすぐで下級下位の半分を習得できそうなの。
でも、先生に『私、魔法は中々できるでしょ?』って聞いたら
「まぁ、他のよりはできていますね。」って小馬鹿にしたように言われたから、やっぱり無双とかはできないみたい。
どや顔だったと思う。
うぅ、恥ずかしい。