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目の前の女の子をマジマジと見る。
光に当たると金にも見える茶髪はフワフワと波打って輝いている。
菫色の瞳はこぼれそうなほど大きく潤み、その目を縁取る睫毛はクルンと上向きにカールし、まるでマスカラを使ったように長く、まばたきすれば風が吹くのではと思わせるほど多い。
すーっと通った鼻筋に小ぶりな唇。
唇は何もつけていないのに可愛らしいさくらんぼの色でプルンとしている。
とっても愛らしい少女。
その少女は私が目を瞑れば同じく目を瞑り、横を向けば同じく横を向く。
そう。
その少女は鏡に写った私だ。
わたし、ヒロイン?
わたしがヒロイン?
わたし!!ヒロインだわ!!
間違いなくヒロイン!!!
やったーーー!
あの、乙女ゲーム“ただ一つの愛を君に”の主人公だ!
前世では地味な女子高生だった。
ほら、教室に一人はいるじゃない?
隅っこでずっと本を読んでる大人しい子。
それが私。
別に不細工って程ではなかったと思うけど、間違っても可愛い部類にはならない。
そんな地味な私でも恋愛には興味ある。
そしてハマったのが乙女ゲーム。
“ただ一つの愛を君に”略して“ただキミ”は一世を風靡するとまではいかなかったけれど、王道でそこそこの人気はあった。
魔法ありの中世風乙女ゲームで、ベタな設定。
とりあえず一通りプレイした記憶はある。
私は先ずは攻略本を見ずに一通りプレイしてからやり込むタイプだ。
自分が死んだ記憶はないけれど、やり込んだ記憶はないから、そこらへんで死んだのだろう。
17歳くらいか?
短い人生だった。
しかし!今!
ヒロインとして生きている!
前世が短いなんてどうでもいい。
どうせ死んだ記憶ないんだし。
あぁ!神に感謝を!
あの地味でリアルでは恋愛なんてできもしなかったのに、こんだけ可愛ければ向かうところ敵なしだ。
更には恋愛対象が王子様たちだなんて...!
素敵過ぎる。
あ、向かうところ敵はいたわ。
所謂悪役令嬢ね。
でも、問題ない。
攻略法はわかってる!
早く舞台となる学園に通いたい!!
私が記憶を取り戻したのは数時間前。
父親と対面したのがきっかけだった。
私は母と2人暮らし。
「お父さんはあなたが生まれる前に死んでしまったの」
そう言い聞かされて育った。
母が昼は商会での事務仕事、夜は飲み屋の給仕として休みなく働いていても、ギリギリ生きていけるほどの貧しい暮らし。
もちろん私も小さい頃から家事をしてきたし、10歳になってからは働きに出てる。
幸い母は読み書きが出来る人で、私も教わってたから仕事先に困ることはなかった。
13歳になってからしばらくして体調が悪くなったの。
なんだか、ふわふわしてて、気持ち悪い。
薬師にかかるお金なんてないし、たいしたことないと思って放っておいたんだけど、一向に治らない。
なんだか怖くなって教会に相談に行くことにした。
教会では人々の相談に乗ってアドレスしてくれるし、場合によっては治癒魔法を練習のためにかけてくれることもある。
シスターに相談すると、少し考え、席を外したかと思うと神父様と一緒に戻ったきた。
神父様から奥の個室に案内された。
そこは5歳のときに魔力測定した部屋で、もう一度魔力を測定すると言われ、目の前に用意された石を触り魔力を込めると、平民にはない強さで光る。
ビックリする私に神父様が説明してくれる。
どうやら私は魔力の増加量が他の人より多いらしい。
ふわふわして気持ち悪いのは魔力過多になっている状態らしく、魔臓が馴染めば治るって言ってくれて、一安心。
そのあとはいつも通り過ごしてたんだけど、数日後に教会から呼び出された。
それもお母さんと一緒に。
お母さんは驚いてしまったから、本当は体調不良のことを隠していたかったんだけど、この間の魔力の件を話した。
そしたら、お母さんは困った顔で笑って「もしかしたらここには帰ってこれないかもしれないわ」って言ってきたの。
もう、不安で不安で...
不安な気持ちのままお母さんと教会に訪れた。
教会に立派な馬車がきて、それに乗せられて、大きな屋敷に連れてこられた。
そこで同じ菫色の瞳を持ったイケメンさんに言われたの。
「はじめまして。
私が君のお父さんだ。
今日からここで暮らすんだよ。
ヘンシャル伯爵の娘、リリアン・ヘンシャルとしてね。」
え?
リリアン・ヘンシャル?
何でカタカナ名?
日本人にそれはないわ。
え?
私はリリアンだよね?
ならいいのか?
ってか、どう見ても目の前の人は日本人じゃない。
あれ?
お母さんも日本人じゃない。
あれ?あれ?
もう混乱の極み。
とりあえず、日本人の笑って誤魔化せよ!
イケメンにヘラりと笑ってみせたら
「ごめんね。
いきなりでビックリしたよね。
今日はゆっくり休んで。
でも、これだけは忘れないで。
私はリリアンのことを愛しく思っているよ。
今まで辛い思いをさせてごめんね。」
そう言われて、メイドさんに部屋に案内された。
案内された部屋は、ピンクを貴重にした女の子!!って部屋。
でも、混乱してたから、とりあえず一人になりたくて「休ませて下さい」ってお願いしたの。
そしたら、メイドは一礼して下がって行った。
そして、やっと考えれるようになったの。
私はリリアン。
イシュミラ王国にお母さんと一緒に暮らしてた。
そして、私は日本人で女子高生だった。
うん。
これは巷で有名な転生だ!!
チート!?
チートなの!?
待って!
リリアン・ヘンシャルって聞き覚えがある!
“ただキミ”じゃん!!
そして、冒頭に戻る。
やっと、状況が掴めた。
そして、この部屋に意識を向けることができた。
今まで住んでた家がそのまま入りそうな広い部屋に、可愛らしい調度品。
私、お嬢様になるんだ!!
すごい!
そして、素敵な恋をするのね。
うふふん。
楽しみだ~。
ん?
前世の記憶が蘇ったら意識がなくなったり、高熱出したりするんじゃないの?
そんな兆候全くないけど...
私は案外図太いらしい。
まぁ、負担がないならいいや!
でも、さすがに今日は疲れちゃった。
このフカフカベッドにダイブしたい!
ってか、する!
おもいっきり飛び込むと、ふわんと優しく受け止めてくれる。
こんないいベッドに寝れるなんて幸せ。