第一章.08 崩壊の足音
第一章.08 崩壊の足音
――嘘だ。
こんな事、あってたまるか・・・・・・確かに博打だった。しかし、自信はあった。
あの国と戦争を行えば必ず負けると言う事も分かっている。
だから立案したこの作戦が通らないかぎり、アメリカとは戦争をする気はないと言ったのだ。
真珠湾にいる米太平洋艦隊を空母を中核とした新戦術の部隊で壊滅させ、敵の戦意を
そぎ、米艦隊が再建を図っている間に南方を攻略しそしてあわよくば日本が有利な条件
で早期講和に持ち込むハズだった。
このように上手く事が運ぶとは思っても見なかったがまさか・・・
「――真珠湾奇襲失敗、マレー作戦での相次ぐ敗走、フィリピン上陸作戦失敗」
読み上げているうちに頭がおかしくなりそうだ。
ここ数日の内に日本連合艦隊指令山本五十六は、目の前の戦果に
ただ、頭を悩ませていた。
「どうしてだ。なぜ、こうまでも我々の作戦が失敗する!?敵は我々の行動を予知してい
るとでもいうのか」
山本は拳で机を叩いた。
あまりに不可解だ。
真珠湾奇襲攻撃は軍機―一般の兵にすらその事は知られていない。
しかし、結果は
「赤城が大破、加賀が艦橋を失い中破・・・攻撃は失敗。」
大敗北だ。敵には一撃も与えられず、こちらは二隻の正規空母と多くの熟練パイロット
を失った。
そしてもう一つ不可解な報告を聞いた。
「異世界から来た。艦隊――」
その報告を聞いた時、その場に居た全員が南雲達が作戦の失敗で気でも狂ったのでは
としきりにささやいていた。
山本も当初そう思っていた。しかし、同行した三川もそして山口も同じようにその事につ
いて訴えてきていた。
「報告はどうであれ、あってみれば分かる事だ。」
今日、ハワイに出撃した南雲機動部隊が日本へ帰還する手筈になっている。
もちろんその不可解な艦隊も一緒だ。
すべてはそれからだ。
「見えました。前方に南雲機動部隊です。」
見張りの声に戦艦長門艦橋にいた山本は首から提げていた双眼鏡を覗き込んだ。
「――赤城の甲板、あれでは当分使用は不可能だな」
双眼鏡を覗き込みながら山本は囁いた。
そしてすぐに視線を後方にいる加賀へと向けた。
「惨い事だ。艦長以下、艦橋にいた者はすべて戦死ときいたが」
目に映る加賀の最上部にはあるはずの物が無くなっていた。本来なら艦の頭脳として
役目を帯びる部分がない。
「――長官、南雲指令より、通信です」
「なんと言ってきた?」
双眼鏡を下ろし、隣で敬礼をしている士官を見る。
「――はっ、これより重要人物を連れて本艦へ向かうそうです。」
重要人物というのは恐らくその艦隊の者だろう。山本は軽く頷くと
「了解した。そう、南雲に伝えてくれ」
長門艦内、作戦会議室にて山本は興奮を抑えられずにいた。
南雲達がヘリコプターなる最新型のオートジャイロで現れたからでもある。降りてきた二
人の人物のうち一人が女性であった事に驚いている事もあるそしてなによりも
「素晴らしいな。この網膜投影装置というものは」
山本は自分の首に掛けられている機械に触れた。白を基調としたその機器は、この会
議室にいる人間達全員に支給された物だった。
最初は、何のための機械か分からずに警戒していたのだが、いざ首に付けてみるとそ
の素晴らしさに驚かされた。
つけた途端、視界に突然スクリーンが現れたのだ。
説明によると、この機器は網膜に直接、映像を映し出せる代物らしい。
彼らの世界ではこの様な物を使い、周りとの情報のやり取りを行っていると言う。それを
聞いた時は彼らの技術力の高さにただ驚くばかりだった。
そして、驚きは続いた。中には驚愕すべき物も多くあったが、山本にしてみればそれは
微々たる物でしかなかった。
「お褒めに預かり光栄です。山本閣下――」
「すばらしいよ。芳野参謀、実にすばらしい」
満面の笑みで山本は芳野に微笑む。
「うちの軍にも配備したいぐらいだ。これは譲り受ける事は出来ないのかね?」
「閣下、こちらの物は多目的向けであり、軍務には向きません。後ほど我々と同じ物をご
用意いたします。」
芳野はそう言うと左耳に付けられている機器に手を触れた。
「おお、では我々にもそれを?」
「はい、言語認識をこの時代のものに合わせて用意いたします。南雲長官が使われてい
るのはその試作品です。」
芳野の言葉に周りの視線が南雲に集まった。
「南雲君、どうかね。それは?」
「良好です。言葉も今までと違い、芳野参謀たちの使われる異世界語や英語などの翻訳
機能も有しておりますので」
「翻訳機能までか、いやすばらしい。あぁ、後であのオートジャイロにも乗ってみたいのだ
が」
「まるで子供のようなはしゃぎっぷりですな。山本閣下」
先ほどから目を輝かせて芳野と話す山本を見ながら吾郷は机に肘をついて笑っていた。
「こんな物を見せられて興奮するなと言うのは拷問だと思うがね。吾郷閣下」
「そうですかね。俺には現実を直視できずに居るように見えてしょうがないんですが」
山本の目が霞んだ。
「――正直、君らの話はこちらの人智をはるかに超えていると私は思う。並行世界だの未
来だの空想のような話だ。しかし、我が軍の状況を見ても信じざる得ないと言う事も、私は
考えている。」
今までのこちらの敗北の要因が吾郷達と同じ異界から者たちからもたらされた物である
と言うならば、すべての原因に説明がつく。
「この様な力が欧州に組したとなれば、ますます我が帝国に未来はない。」
山本の言葉にその場にいた数人の士官が反応した。それは皆、参戦派の者たちだと言
うことも山本は知っている。
「日本が負けるはずがないだのと上層部は思っている。さらに、そう言ったバカどもに乗せ
られて国民は日本は勝てるはずも無いと分かっていてそれでも戦争という道を突き進むし
かない。」
山本はゆっくりと立ち上がると
「――この通りだ。力を貸してくれんかね。」
最高司令官が頭を下げるという行動に会議室は動揺する。
「私には責任があるんだ。この戦争を始めてしまった事、そして止められなかった事、それ
の為に我が国が焼かれるのはあまりに忍びない。――頼むこの通りだ。」
机に手を付き、山本は机に額が付くように深く頭を下げた。
彼らが、この世界において干渉が禁じられているのも先ほど説明を受けて分かってい
る。
こんな事をしなくても彼らは我々に技術提供をする容易がある事も、明確にしてくれたそ
れでも不安だった。
見捨てられるんじゃないかと・・・・・・
こんな自分たちは
今見捨てられたら自分たちには未来も希望も費えてしまう。彼らが最後の希望なのだ。
だから、離すわけにはいかない。けして
「――おいおい、頭上げてくれよ。山本さん偉人として祭られているあんたにそんな事して
もらう義理、俺たちには全然ないんだぜ?」
吾郷の言葉に芳野も続く
「そうですよ。山本閣下、我々は利害が一致し、尚且つ先ほどお話したとおり、並列世界
の日本政府よりの通達でここにいるのですから」
「日本は今後、一切の歴史の改竄及び、侵略行為を行わないという条件と引き換えに常
世と同盟を結んだんだ。それにより、他の国々からは白い目で見られてたけどな」
「かの国は、異次元世界への跳躍計画の事を我々に伝え、その代わりとしてこちらの世
界の日本という国を守って欲しいと言ってきたのです。その要求を受けている我々は皆さ
んを日本という国を守る義務があります。武力による防衛と侵略行動は不可能ですが出
来る限りの事はさせていただくつもりです。」
「だから、顔上げてくださいよ。山本さん」
山本は顔をゆっくりと上げて二人を見た。
「感謝する。」
そう言った山本は回りに座る部下たちの顔を眺め
「皆もすまんな。見苦しい所を見せてしまった」
頭をかきながら山本は笑った。
「――御見苦しくなどありません。」
芳野の声が響いた。
「指令官自ら頭を下げるなど言う行為、確かに部下の前ではあまり利口な方法とは思え
ません。しかし、指揮官たるもの常に大局を見、部下の先頭に立たなければならないので
す。この様な話を聞き困惑する部下の前で山本閣下は責務を全うしたと私は思います。」
「――そうだな」
横に居た南雲も立ち上がり、吾郷達の方へ視線を向けた。
「私も正式な感謝などはしていなかった。改めて感謝を私の部下を救ってくれた事、そして
これから我々への協力にも感謝申し上げる。」
南雲も頭を下げる。途端、会議室の至るところで士官たちが立ち上がった。
そして、一人一人、感謝の意を込めて吾郷と芳野に頭を下げた。
「こりゃ、裏切ったら後が怖そうだ。」
「ご安心を裏切ったらその時点で私が指令を条約違反で処罰いたしますので」
冗談交じりの吾郷の言葉に芳野は答えた。
「おいおい」
吾郷苦笑したその時、会議室のドアが開き一人の士官が入ってきた。
「報告します!!」
男は走ってきたのか苦しそうに息を整えて
「本土から緊急入電です。」
息を大きく吸い込んで
「独逸第三帝国が我が国との同盟破棄を通達してきました!!」
「倭と」
「高天原の」
「「解説こーなー」」
以後、倭→ヤ、高天原→タ、でお送りします。
ヤ「皆様、ここは本編に関係ありません。すぐにお帰り下さい」
タ「倭様っ地が地がでております。」
ヤ「地ではありません。事実を言ったままです。――では」
タ「帰らないで下さいっ――!!」
ヤ「・・・・・・一体どうしたんですか?」
タ「どうしたって・・・・・・倭様私たちには責務があるのですよ」
ヤ「――押し付けられただけです。まったく鬱陶しい。言葉を変えるならウザイです」
タ「前から思っていたのですがその様な言葉は誰から。」
ヤ「軍機です。それでは――」
タ「うわあああっ!!帰らないでくださーいっ!!うぅ・・・とりあえず今回は我が艦隊の編成などを解説いたします」
常世国第壱連合艦隊編成
戦艦 1
航空戦艦 1
空母 2
巡洋 5
駆逐艦 9
潜水艦 3
輸送船 20
特殊偽装艦 3
工廠艦 2
タ「――以上です。しかし、こんなものいつ決めたのでしょう」
ヤ「推測ですが、まさに今だと思われます」
タ「倭様、帰ったのでは?」