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第一章.07日本へ

第一章.07 日本へ


 海面が日の光を浴びて輝いていた。

 この場所からその光景を眺めるのはこれで二度目になる。

 窓の外の風景は今までにないほどゆっくりと流れていた。それとは裏腹に頭上からは空を切るローターの回転音が

しきりに響いて、それがなんだか、旋律を奏でているようだ。


「いいかがなされました長官?」


 ぼんやりと外ばかり眺めている南雲に草鹿は尋ねる。あの艦隊の旗艦倭を立ってから

すでに十数分が経過している。操縦士によれば、もうじき我が艦隊に合流するらしい。


「――少し考え事だよ。草鹿君」

「・・・・・・あの吾郷と言う男に言われた事でありますか?」


 ほんの数十分前、彼らは謎の艦隊の司令官だと言う男と会談をもった。男の言葉はまるで空想小説の

ような言葉ばかりだったが、この様な優れた乗り物や軍艦を見せられてはそれを信じないというわけにも

いかなかった。そして、恐らく南雲は彼の言っていた最後の言葉が引っかかっているに違いない。

 彼、彼らはこちらの共同戦線を断った。それは事実、我々日本に対する死刑宣告にも等しい言葉だった。

聞けば、欧州には彼らと同じ世界から来た者たちが、協力者としているはずだと、それではこちらのこれから

作り上げる事、作戦がすべてばれていると同じ事だ。米英と同じ立場になるためには彼らの協力が是非とも

必要だというのに――


「自らが持つ、兵器による武力行使は同世界の近代型兵器への攻撃、自衛の為のみに使うものとする。などと――それでは

傍観者も同じです。」

「仕方あるまい。先ほど説明された通り、彼らはこちらの世界での行動には制約が架せられているのだから」

 

 視線は窓の外に向けたまま、南雲が言う。


「次元干渉なるものですな。あちらとこちら、異世界を繋ぎ他の世界に人間を送った時に生じる原因だとか」


 草鹿は先ほど説明を受けた事を思い返す。

 この世界と吾郷達の世界は現在小さな管で繋がった状態にある。そこから、艦隊や人間をこちらの世界に送っているらしいのだが、

送られた人間たちには大きな制約が架せられるという。

 なぜなら、彼らは元はこちらの世界でなく他の世界に居たはずの人間である。それが急にこちらの世界に現れたのだ。人一人ならともかく

大量に送ったとなれば、送られた世界には溢れが生じる。簡単に言うと水をたっぷり注いだ。コップを同じようにたっぷり注いだコップに注ぐのと

同じだ。当然コップの水は溢れてしまう。それを押さえる為、こちらの世界は無理やりでも水を元のコップに戻そうとするかなんとかとどめ様という力が働く、

また、減ったコップもその減った量をどこかで補おうとするらしい、その影響が両世界を壊しかねないと言うのだ。


・・・・・・送った分と同じ量の質量を取り戻す力か


 現在、彼らの存在はかろうじてこちらの世界にあるだけだと言う。もし、こちらの世界で大それた事を起こせば定着しきっていない彼らが両世界にどのような

影響を及ぼすか創造できないのだ。こればかりは時間が過ぎるのを待ち、自らの存在をこちらの世界に定着するしかない。他の勢力も少なくとも一年は目立った

行動は控えていたようだ。

 つまり、彼らは一つの例外である。自らの世界の兵器と認識したものと歴史の修正、そして自衛以外は手出しが出来るようになるまでは少なくとも一年の月日が掛かると言っていた。

――しかし


「それでは遅いのだ。」


 こうしている間にも米軍や英軍はこちらへの攻撃の準備を整えつつある。

 ミサイルと呼ばれる兵器の使用が可能という時点で米国側についた連中はもう存在の確定が終了しているはず、

 そうなれば、我々は未来の兵器の猛威を直接受ける事になる。これではあまりに分が悪い。


「それでも情報や技術供与は出来る限りすると約束してくれました。見返りは停泊地の供与との事ですが」

「それがせめてもの救いだよ。それはともかく・・・・・・」


 ようやく見えてきた洋上に浮かぶ黒鉄の要塞達の姿を見て


「この事をどのように説明したものか私はそちらの方が気が気ではないよ。」


 と南雲は愚痴をもらした。




 青い空を焦がすように上がっていた火も弱まりつつある空母赤城甲板。

 出航前、あれほど美しかった木製甲板は、すす焦げて至る所に鮮血が飛び散っていた。

 それでも先ほどまでのあの地獄のような光景にしてみれば、天国の様な光景だ。

 いや、本当に天国なのかもしれない。艦橋すぐ脇に座りながら赤城の艦魂は隣に立つ

異形の姿をした人形に視線を移した。


「――ありがとう。」


 自然と口が動いていた。

 それを聞いた人形――倭は小さく


「――いえ」


 答えを返した。


「本当なら私はここで倒れていたと思うの」


 あの時の痛みは忘れる事が出来なかった。

 包帯を巻かれた腕を握りしめて赤城は俯く。

 ――生きたいと願ったのは初めてだった。自分が艦魂として恥じるべき事だと言うことも

赤城は承知している。

 艦魂は軍艦に宿る軍艦の精神が形として表れたもの、その運命は軍艦として生まれたのならば

戦い、傷つき、沈む。それが当たり前の事だ。


「――軽蔑していいよ。私は軍艦に宿る艦魂として、最低の存在だから」


 沈む事など、死ぬ事など、怖いと思った事などなかったはずだ。なのに自分は


「――笑えるわ。第一航空戦隊所属の空母赤城の艦魂が死ぬのを嫌だと、生きたいと叫ぶなんて」


 冷笑して赤城は俯く。

 分かってる。こんな事、いちいち愚痴っても仕方ない事ぐらいそれでも


「――疑問があります。質問してもよろしいですか?」


 顔を上げると、横に立っていた少女がこちらに視線を向けて右手を小さく上げていた。


「え、ええ」


 答えると右手をサッと下ろし、


「どうして、生きたいと叫ぶ事がいけないのですか?」


 首を少し傾げながら倭は続ける。


「倭の蓄積情報には死ぬと言う概念に対する情報は記録されておりません。先ほども申し上げましたが、

倭達艦魂が消えた先の行き場についての情報も暫定的なものが存在いたしません。しかし――倭は、

死にたくないと、もっと生きていたいと、そう判断いたします。なぜ――あなたは生きたいという

気持ちを否定し恥じているのですか?」


 平然と言う彼女に

 気づくと


「私たちは艦魂なのよっ!?」


 大声で叫んでいた。


「――それは存じております。というか倭も艦魂ですので」


 そんな事、言われなくとも分かる。それよりも分からないのは


軍艦(わたしたち)の存在意義は何?――国を守り、そして敵と戦う事でしょう?その中で散るのもまた

仕方なのない事なのよ!?」


 艦魂というものがいつ生まれたのかそれは分からない。それでも本能が軍艦としての本能が戦場を求める。

その本能に突き動かされるままに戦い、そして死ぬ。それが自分たちが全うしなくてならない運命なのだ。

だから


「私たちは死ぬ事を臆してはならないの!」


 息を切らしながら訴える。それに倭は少し考えて


「――申し訳ありません。やはり理解に苦しむ情報です。倭が思うにそれは誰しもが必ず受け入れなければ

ならないものなのでしょうか?何であろうと死、つまり存在の消失は恐怖するのは当たり前の事だと推測します。

それを感じてはならない。つまり、これは自我にたいする侵略及び強制とみなします。その様な事をどうして

強制するのですか?倭は倭、あなたはあなたです。他でもないあなたの思考をどうして他者に左右される

理由があるのですか?」


「そ、それは――」


 赤城は言葉を篭らせる。


「倭は生きたいと思う、あなたの思想に賛同いたします。他の誰が反論しても倭はあなたの思想を支持いたします。

ですから――」


 一拍おいて


「最後まで生きたいと願い続けてください。」

「――っ!!」

 

 何かが頬を伝っていった。


 ・・・・・・なぜ?


 微かに微笑んだように見えた倭の顔から視線をはずし、赤城は目元に溜まった涙を見えないように

拭いた。

 それは最後の意地だった。艦魂としての空母赤城としての

 しかし、それは完全に見られていたようで


「涙。つまり涙腺から流れる体液ですね。倭には涙腺とかないので泣けません。おそらく――でも艦魂も

魂も涙を流すのですね。興味深い情報です。でもそれなら倭もなけるでしょうか?というか何故泣いているのですか?」


 不思議そうにしゃがみ込んでこちらの顔を覗き込んでくる倭から赤城は必死に顔を隠した。


「ちょっと、ゴミが入っただけです。」

「それはありえません艦魂は物体に触れる事は出来ないはずです。あなた機骸だったのですか?」


 どうも倭には場の空気と言うものの読み方が理解できていないらしい。

 と、横から女性の声が聞こえた。


「――倭さま、一体何をしておられるのですか?」


 二人の目の前にいつの間にやら長身の少女が黒く長い髪を風で靡かせながら立っていた。


「"高天原"(たかまがはら)さん」

 

 倭がそう呼ぶと、彼女は小さく頷いた。そして、その視線を赤城の方へ向けた。


「そこに居られるのは、空母赤城の艦魂ですね」

 

 尋ねられ、赤城は自分自身を落ち着けると言葉を返す


「え、ええそうよ。空母赤城の艦魂――あなたは?」

「お初にお目にかかります。私は倭様の補佐などをしております。航空戦艦高天原の艦魂であります。」


 敬礼をすると赤城が敬礼を返す前に高天原は倭の方を向き直った。


「――報告いたします。航空母艦加賀の消火活動は無事終了いたしました。損害も赤城に比べて軽微でした。ただ、

敵弾が艦橋を直撃したため、操舵不能であります。」


 高天原は報告を終えるとまた、敬礼をした。


「ご苦労様でした。こちらも概ね順調に消化が進んでおります。」

「それは何よりです。――倭様至急、本艦にお戻りになるように通信がありました。

会談は一時、締結し本艦隊は機動部隊を護衛しつつ一度極東、日本を目指すそうであります。」


 高天原の報告に頷くと倭は赤城の方に視線を移した。


「――どうやら、お別れのようです。日本への道中、無事のご帰還をお祈り申しております。」

「倭様、私たちも行くのですよ?」


 適切なツッコみだ。


「――なんと。ならば倭はまた会いましょうと言うべきです。また会いましょう赤城様――」

 

 最後に高天原が赤城に一礼をすると、二人の背中から羽のような物が現れた。

 倭は薄透明な白、高天原は薄透明な黒い羽だ。

 六枚の羽を羽ばたかせるようにして二人は飛び去っていった。


 赤城は二人が飛び去った後もずっとその空を見つめていた。




「倭と」

「高天原の」


「「解説こーなー」」


 以後、倭→ヤ、高天原→タ、でお送りします。


ヤ「皆様、お初にお目にかかります。倭と申します」


タ「高天原です。以後お見知りおきのほどよろしくお願いいたします。」


タ「さて、倭さま、はじまりましたよ。」

ヤ「何がですか?」


タ「何がって、この小説の設定に関する補足説明講座です。忘れたのですか?」


ヤ「はっきり言うと、忘れている以前に情報の提示がありませんでした。倭は

ここに呼ばれた理由を適切な言葉での情報の提示を求める義務がある事をここに通知します。」


タ「それは適切な処理が必要だと私も思います。しかし、今は責務を全うされたほうがよいかと」


ヤ「――正論です。その考えは情報として記録するに値します。」


タ「恐縮です。」


ヤ「それでは、その責務とやらを全うしましょう。ぶっちゃけやる気は無いですが」

タ「無いのですね・・・・・・では私が簡単な補足を提示いたします。」


 異世界常世の歴史


 1 未来、過去への時間跳躍か可能になり、先進国間での歴史改竄が世界的問題になる。


 2 歴史その物が、過去の改竄によっておきた消失部分を補修するために未来を丸ごと切り取り過去と混ぜる事で

   補修を図る。のちにこの天災を最後の審判と名づける。


 3 過去に飛ばされた人々、歴史に干渉した事を悔やみ、今後歴史に干渉しない事を誓い。南極の奥深くに

   都市を築き、隠れ住む。これが後に常世と呼ばれる。


 4 第一次大戦までこの事は守られ、平和な時が流れる。しかし、それもついに限界を迎える


 5 第二次世界大戦、ついに禁忌が破られ、自らの祖国に組する者たちが現れる。これにより常世は何数にも分かれて自らの祖国に加勢する。


 6 未来の情報と知識により、飛躍的に進歩した兵器による戦争は激化し、ついにそれを

   見かねた常世に残った人々が自らの未来兵器を用いて戦争をとめるべく戦争に参加。


 7 常世は圧倒的な力によって世界を征服し、これ以上の歴史の改竄が行われないように

   世界の監視、管理を自ら主張する。



タ「――以上が簡単ながらこれが私達が来た世界の歴史となります」


ヤ「情報蓄積完了です。知識、ありがとうございます」


タ「あ――いえ、というか私たちが今までいた世界なのですから知らないとまずいのではないでしょうか・・・・・・」



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