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第一章.06潜む者

第一章.06潜む者


 広がる青い大海にそれはあった。

 人口建造物など無縁とも思えるこの海原に一つ

不可解なものが海面に顔を出していた。


 ――潜望鏡だ


 その下には巨大な黒い影がある。その潜望鏡の持ち主は

その場から動かず、ただその場にあり続ける。

 よそから見れば、静かなものだが、海面下、その潜水艦の

乗組員員たちはさらに息を殺し潜むようにしてた。


「――皆、静か過ぎるぞ。昼食に出た鰯にあたったような顔をしてる。

まるで覇気が感じられない。もう少し喜んでもいいんだぞ?」


 覗き込んでいた潜望鏡の操作桿を折りたたんでしまいながら彼は言う。


「指令、皆恐れているんですよ。」


 すぐ横に居た長身の男が前に出た。


「ここに居る奴らは皆、歴史の改竄の恐ろしさを体に染み付くまでに教え込まれた

連中ばかりなんですから」

「そうだったな。すまん私の方がはしゃいでしまっていた。」


 軍帽を被りなおしながら彼は司令室に全員に良く聞こえる声で言った。


「いえ、フォード指令これは戦果です。敵の空母赤城と加賀を戦闘不能にしたのですから

これで真珠湾奇襲と言う、作戦その物が鎮座し、日本軍は本国に戻る以外、ありません。

私たちは最小の被害で我が国民と兵士、そして日本の名誉を守ったのですよ?」


 真珠湾奇襲と言う事件はアメリカ、日本の関係を著しく低下させた事件でもあった

彼にしてみれば、それを未然に防いだ事に喜びを隠し切れないのだろう。

 その喜びが更なる改竄を呼び、そして私たちの祖先は生き場を失ったと言うのに


「――だが、被害は被害だ。両空母とも艦橋に着弾させ、指揮不能にするつもりだった。

しかし、先ほどまで日本艦隊上空を旋回していた、UAV(無人偵察機)プレデターが最後に捉えた映像に

映っていたのは甲板から煙を上げる旗艦赤城だった。」

「おそらく、艦橋の取り付け位置の問題であります。赤城型は他の空母と違い、左側に艦橋を持ちますから」

「つまり我々のミスで死ななくてよかった人間を多数殺してしまった事になる。」


 重苦しく吐き捨てた。それに副官の男は焦りながら


「しかし、あの艦に乗っている者は少なからずミッドウェーで――」


 死ぬと言う言葉を口にする前に


「ヴォイトっ!!」


 大声で怒鳴るとフォードは数歩前に出た。


「皆も聞いてくれ・・・・・・そもそも我々がこちらに来た理由をもう一度考えて欲しい。

私たちは侵略者としてきたのか?」


 フォードの問いかけにその場に居た全員が作業をやめて黙り込んだ。


「答えはNOだ。我々の本来の目的は違う。我々が望んだのは開放、自由、そして平和だ。元の世界で

我々は思い知らされた。圧倒的な力で、蹂躙され、破壊され、そして押しつぶされた。力を持つものが

我らを管理し続ける世界。それは本当に自由と言えるか?平等といえるか?」


 司令室を歩きながら隊員一人一人に問いかける。


「――違う。それは独裁だ!!だから我々はやり直すと誓った。こちらの世界で私たちの理想を実現させようと」


 それが、この世界に対してどれほどおこがましい事か、自らの世界では出来ないからと他の世界にまで

手を下した彼らはいつまでもその業を背負っていかなくてはならない。それでも


「我々の誓いは願いは本物だった。少なくとも我が新大陸合衆国(しんたいりくがっしゅうこく)軍は、その理念の

元にこの大戦を戦わなくてはならない。」


 司令室から歓声が沸き起こった。


「やりましょう指令っ!!」

「常世に支配された世界なんてまっぴらだ。」

「一人でも多く救いましょうたとえそれが敵であっても」


 兵達が次々に言葉を投げかける中、一人ヴォイトだけは沈み込んでいた。

 自分達の背負う信念を軽んじた事を彼は恥じていた。


「――ヴォイト副長」


 フォードは彼に声を掛ける。


「――指令、私は副長失格ですね」


 どうせ、彼らはこれからの歴史の中で消えていく。それが遅いか早いかだけ、その様な

考えが、おろかにも未来を潰し、果てはその過去にてあの地獄のような戦争を起こしたと言うのに


「――私はあの時の連中と同じです。この世界に対して第三者の視点で見ていました。これでは私は自らの欲に駆られ

歴史を弄んだ人々と」


 同じですと続けようとしたが、その言葉はフォードが遮った。


「それを悔やめるなら君はまだ、あちら側の人間じゃない。いいじゃないか、人間間違いを冒して

成長していく。そうだろう?」


 表情一つ変えることなく、フォードはそう言うとヴォイトの肩を叩いた。


「――はっ、以後発言には気をつけます。」


 敬礼を返すと、一人の兵士が声を上げた。


「ハワイ司令部より、日本艦隊は西に進路を取ったとの事です。さらに太平洋艦隊司令部より日本艦隊を追撃許可の催促がきておりますが?」

「返信、追撃は無しだ。今追撃すればせっかく残った太平洋艦隊を失いかねん。歴史の修正能力を甘く見るな」


 告げると、通信兵は敬礼を送り、作業に戻った。


「――後は、」

「マレー半島に上陸したした。日本軍と英国の問題です。」


 言葉を遮られ、女性の声が聞こえてきた。

 振り返ると、そこには白い服に身を包んだ金髪の姿があった。


「――\"ノア"」


 ノアと呼ばれた少女は"Yes Admiral"と呟きながら小さく頷いた。

 彼女は人間ではない。この潜水艦の艦魂であると同時に


「機骸の調子は良さそうだね。安心したよ」


 艦魂の精神を埋め込む事によって動く人形だ。


「Yes Admiral(アドミラル)、定着に時間を要しましたが、一度慣れてしまえば、この通りです。」


 ノアは手をフォードの方に見せると、小指から順にまげて拳を作って今度は逆から指を解いて掌をつくり見せる。


「しかし、処理回路との接続がまだまだ未完の為、戦闘管制システムなどの構築はまだ行っていません。皆様には

まだまだ、ご迷惑をお掛けすると思います申し訳ありません。」

 

 深々と頭を下げた。


「そんな事は気にしなくてもいい。すべてを君に任せてしまったら、我々の面子が立たないからね。」

「Yes Admiral――皆様もありがとうございます。」


 ノアの感謝に兵士たちは作業の手を休めずに軽く右手を上げ答えた。


「それで?珍しいじゃないか、ノアが司令室まで出てくるなんて」

「Yes Admiral、少々気になる反応を感知しましたので、ご報告にと・・・・・・」

「ついに来たかね、彼らが?」


 その言葉に一変して表情を引き締めフォードはノアの返答を待つ。


「Yes Admiral、微弱ではありますが、次元湾曲のノイズを観測しました。現在までに次元を超えた

組織、国家の数はすでに次元転移装置の確認されている数に達しています。――そこから導き出される

可能性を考慮しましても、おそらく」


「――常世だと?」


 Yes Admiralとノアは頷く。


「89%の確立で該当する国家はあの国だけだと」

「そうか、ついに来たか・・・・・・しかし、彼らはおそらく何もできないと思うよ。

少なくとも、この時代の人々との戦争行為はね。」

「Yes Admiral――私達が一年の月日をこちらで費やしたと同じように、彼らも"次元干渉"に阻まれる

結果になり、当面の武力行使は出来ないものと判断いたします。我々は徐々にその制約が取られつつある状態に

あります。」


「やるなら今だと?」


 ノアはゆっくり頷き


「Yes Admiral(アドミラル)、この好機を逃す手立てはありません。彼らが本調子ではないこの状態の内に日本を落とし、

さらに勢力の拡大を目指すべきです。いくら常世とは言え、世界中を敵に回して生き残れるはずがありません。」

「――そうかな?前大戦時、常世は日本も含め、すべての主要国家を相手に戦って勝利した。国家だよ?」

「状況が違いすぎます。今回は次元の干渉で彼らも武力行使が制限されます。そこにこの世界の兵器をぶつけるのです。

我々ではすぐに殲滅されしまいますが、この世界の歴史を曲げる事を彼は攻撃されも満足に反撃が出来ないはずです。

歴史の改竄禁止を掲げている彼らです。そのような事ができるはずがありません。」


 ノアの考えに数回頷くとフォードは目を細めて言った


「――だといいがね」





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