第一章.05目的
皆様、本作をご覧いただきありがとうございます。
今回の話は、私自身の妄想を抑える事が出来ず、もしかしたら皆々様には伝わりにくい事があります。今後とも補足は入れていきたいと思いますので何卒ご容赦を
第一章.05目的
南雲と草鹿が通された部屋は、この船が戦闘艦である事を忘れてしまうほど、豪華な
家具が並んでいた。
壁には絵画が掛けられ、書棚、奥にある机の横には植木まで置かれていた。まるでどこかの
社長室のような光景だ。
「どうぞお掛けください。今、お茶をお持ちいたしますので」
隣に立っていた芳野が二人に笑顔で促す。
二人は焦りながらすぐそばのソファに腰掛けた。それを見て吾郷も反対側に腰掛ける。
「素晴らしい艦ですな」
南雲は早々に口を開き部屋を見渡した。
「あまり、褒めんで下さい。倭が調子に乗りますので」
吾郷が口にした倭と言う言葉に二人は反応した。
「大和?」
「本艦の名前ですよ。倭の国の倭と書いて倭、そちらさんの戦艦とは何の関係も無い事で」
吾郷の言葉に草鹿は驚愕した。
現在、最終試験の真っ最中である一号艦の事は国家機密である。艦名はまだ、一部の者と
現在の乗組員にしか公表されていないはずだ。それをなぜ
「そう構えずともとって食おうなんて思いませんよ。それに俺は男を食う趣味はないのでね。」
「指令っ!!」
湯気の立つカップの乗った盆を持ちながら芳野は声を上げる。
「いい加減にしないと、つまみ出しますよ。」
それは事実上の最後通告のようだ。
「おいおい、俺は自分の部屋にも居れんのか?」
「だったらもっと指令らしくしてください。」
芳野はカップを丁寧に南雲達の前に置くと一礼して吾郷の横に立った。
「さて、おふざけはこれくらいにして本題に入りますかね。」
急に吾郷の目が鋭く変わったのを二人は見逃さなかった。
「回りくどく言ってもどうせ、分からないと思うので単刀直入に言わせて頂きますよ。
俺たち、そしてあんたらの空母を攻撃した連中はこの世界の人間じゃない。簡単に言うと
別の世界から来た。異世界人と呼ぶに相応しい者です。」
次々に浴びせられる言葉に南雲と草鹿は固まる以外の行動を取れなかった。
「ば、ば――」
「馬鹿げてる。そう思うのも当然と言えば当然、草鹿さんあんたは冷静だよ。俺が保障してやる
でもな、じゃあ俺たちは何なんだ?」
吾郷の問いかけに草鹿は開きかけた口を閉じた。
同時に黙りこんでいた南雲が
「・・・・・・あの槍のような物はあなた達が放った物ではなかったのか」
「ええまぁ、南雲さんは随分と順応が早いようですな。これは以外――失敬」
芳野が睨んだのを見て吾郷は口元を押さえた。
「あの槍の事が頭から離れんのだ。あんなものこの世の人間が作ったとは到底思えん、もし
連合軍が作ったとすれば、我が国の未来は悲惨なものになろう」
たった一発で赤城、そして加賀の戦闘力を奪ったなぞの兵器、あのような速度で接近するものを
迎撃するのは到底不可能だ。もし仮に迎撃できたとして、あのような物が多数来襲したら恐らく艦隊は
壊滅する。
「まぁ奴らが手を下さなくても未来は酷いものですがね。――古い考えに囚われ戦局を見あまり、多くの
若者を戦場に送り出す未来など」
吾郷の言葉がどこか自分たちに向けられているような、
そんな感じがした。
「まるで何もかも知っているような口ぶりですな」
「知ってますよ。俺たちは、"二度この大戦"を繰り返した世界から来てるんですから」
「二度?」
「その事に対しては、芳野」
芳野は頷くと、懐から何かを取り出して操作した。
「それでは僭越ながら私がご説明いたします。」
部屋が暗くなり、そして上からスクリーンがゆっくりと降りてきた。
「――まず、我々の世界の事について説明いたします。そもそも世界というのは限られたものではないのです。」
吾郷達が世界があったようにこの世には多数の世界が存在している。それを古来から人間たちは地獄や天界などの
総称で呼んでいる。
「世界にはあらゆる可能性が秘められております。人一人にたいしてもあらゆる可能性があります。しかし、その世界では
その人間の一選択しかないのです。」
最終的に決めるのは世界や人間だが、そこに至るまでの数々の候補がある。では、その可能性はどこにいくのか?
「――しかしながら、違う次元この世界とほとんど同じような並列世界や平行世界と言う
世界においてこの人間の持つ残された多数の選択肢は実行されていくのです。」
異次元の平行世界ではその可能性を実行に移しているまったく同じ人物が居る。
「我々の住む世界はあなた方ともっとも
近い世界でした。ですからこの戦争の行く末もわかって言います。」
映し出されたスクリーンには数々の歴史上の写真などが次々と映し出されていた。
「私たちの世界は戦争を幾度と無く経験し、その後ついに平和を手に入れました。その平穏はいつまでも続くとそう考えていました
しかし――」
「ある人間が考えたんだよ。"並列世界論"から導き出される。もしもの世界を自分たちの世界で実現できないかとな」
やり直しが出来ないか?それはすべての人間が思う事だった。そんな夢物語を
「可能にした連中が居た。」
スクリーンに巨大な人工物が映し出された。
「時空跳躍装置、簡単に言うと過去にいける装置だ。」
「跳躍装置の開発は世界を震撼させました。そしてすぐにそれは危険性を表し始めたのです」
過去に行くことが出来る。そう聞いた人間は国家は何をしたがるかそんな事は誰しもが考えていた事だった
「過去に戻り、やり直しを図る。簡単だ、こっちは未来をその答えを知っているのだからその正しい解き方を教えてやればいい。」
「事実、日本をはじめ先進国のほとんどが過去を勝手に改竄すると言う暴挙に出ました。」
そのせいで未来では突如として人間が消えると言う。問題が数多く出て、家族を突然無くしたりする人が増えた。
「――そして、ついにそのツケを払わせられる事になったのです。」
スクリーンの映像が変わりそこには光に包まれる街が映し出されていた。
「歴史と言うものはある程度、復元能力を持っている事が研究で分かっていました。多少、ほんの微々たる変化では歴史は
辻褄を合わせようとします。川を思い描いてください。大きな本流に支流を作っても流れは変わらないそれぐらい歴史の本流も強いものです。」
「しかし――いくら強くても限界はあるわけだ。」
「何度と無く行われた改竄そして修正はついに限界を向かえ。」
「――俺たちは未来を失った」
「流れを失いつつある本流はどこから、水を調達せざる得ません。しかし、度重なる修正で貯水を使い果たした歴史は
――まだ、見ぬ未来からその水を調達しようとしたのです。」
「それが、"Last Judgement"って呼ばれる。天災の原因だ。これによって過去と交わるはずの無い未来が交じり合っちまったんだ。」
「切り取られ、歴史の補修材に使われた未来の人類は過去に飛ばされ、そのほとんどがその時のショックで死亡しました。
残った彼らは、これまでの悔いを償うためにこの新しい歴史に不干渉名立場であり続けるために、その身を南極の奥地へと隠し生活を
はじめました。その時に特に生き残りが多かった極東の人々がこの施設を"常世"と呼んだのがわが国のはじまりと伝えられています。」
常世つまりあの世、死後の世界の事をさす名前をつけるとはなんという皮肉だろう。
この時代に生きる事になった者たちにしてみれば、きっと生きている事自体が地獄だったのだろう。
スクリーンから映像が消えると部屋が明るくなった。
「・・・・・・我々に何をしようというのだ」
南雲はゆっくりと口を開いた。
「君達の世界の事は大体分かった。だが、私たちに何をしようとしているのかね?」
彼らは自分たちとは天と地ほどの差がある。このような者たちがこの世界で一体何をしようというのか
「侵略かね?」
単純明快だ。弱者は強者に従う。今の世界の掟だ。
しかし、帰ってきたのは吾郷の笑い声だった。
「長官」
「すまんすまん。そうだな侵略、たしかに本艦隊ひとつでも十分脅威だな、南雲さんあんたいいよ。本当に
人間らしい。」
一通り笑った後、吾郷は改めて南雲達を見た。
「半分正解。半分と言うのは俺たちは少なくてもそっち側じゃないって事さ」
南雲と草鹿が顔を見合わせていると
「――私たちの歴史には続きがあるのです。」
芳野が話し始めた。
「私たちの祖先のその南極における生活は何百年も続きました。しかし、中にはその生活が耐えられなくなり
外に出て行った人々も少なからず居たらしいですが、数人では歴史に直接影響がある事はありませんでした。
しかし、西暦1939年ある事件が起こります。」
「世界ではヒトラードイツ率いるナチス第三帝国が第二次世界大戦を起こし、そしてそれは常世内部でも起きていた。
この時、ついに一部の人間たちが禁忌である歴史の改竄に手を染めてしまった。誰でも自分の故郷はかわいいものさ
思えば、今までそれが起きなかった事事態奇跡とした言いようの無い事だったかもな」
吾郷はカップを煽るとお茶を飲んだ。
「そうして、常世はいくつもにも別れて独立し、自らの国の支援に乗り出したのです。」
「ひでぇ戦いだった。前の第二次とは比べ物にならないくらい兵器も手段も進んでてな
ハワイは帝国軍とアメリカ軍の衝突で地図から消え、欧州の三割は原爆の被害で人が生活
出来なくなった。イギリスもドイツとやり合い過ぎで、国土の殆どを灰塵にしてオーストラリアへ
亡命、そこでオーストラリアと権利を取り合ってまた戦争。世界中どこ行っても砲弾や
爆弾が降り注いでた。」
なつかしむように吾郷は言う。
「そして、戦争開始から数年が経とうとしていました。未だに戦線は拡大中でした。そんな中
ついに常世に残り続けていた人々がこの戦争を止める為に立ち上がったのです。」
陶器が擦れる音が部屋に響いた。吾郷が勢いよくカップを置いたのだ。
「ありゃ調停なんかじゃねぇ、侵略そのものだった。あんたら信じられるか?指一本、艦一隻で
国が消える。歩兵一個師団で戦線が瓦解するおかしくて笑えるぜ。」
「常世は他の国にとは違い。完全なる未来型の兵器で武装した軍隊でした。戦力は比べるまでも無く。
そして、わずか3年足らずで常世は世界中の戦争を止め、その世界の管理に乗り出しました。」
これ以上、歴史を繰り返させないための処置だ。
「でもよ。やっぱり人間なんだよな、どいつもこいつも、規律を設ければそれに従わないものが出てくる。
そういう連中が現れてな、だけどよ。一度は懲りた連中だ、それに常世には敵わないならどうする?
言わなくても分かるよな。」
吾郷の問いに南雲は
「まさか・・・・・・我々の世界に」
「その通りだよ。南雲さん、連中は次元跳躍装置なるものを開発し、こちらの世界とあんた達の世界とをつないだ。
もう一度やり直すために」
何をどうすればいい。この様な突拍子もない話をされた挙句、この世界は
この世界の数百年先の技術を持ったもの達に侵略を受けると言うのか?
これは南雲や草鹿という一個人がどうこうできる話ではない。
「それで俺たちが来たわけだ。」
それは天の助けのようにも聞こえた。
「連中はもうアメリカなどの主要な国家に属している可能性がある。」
「では、諸君が我が大日本帝国に味方してくれるというのかね」
そうなれば、こちらも他国と同じだ。これで少しは気が楽になる。
だが、吾郷が口にした言葉は
「――無理だな」
簡潔に言い切った。
いかがでしたでしょうか?自分的にかなり不安の残る出来になってしまいました。この話を読んで何か気づかれました方は、些細な事でもいいのでご意見を頂けると幸いです。
また質問などもお受けしております。気軽にご質問下さい。