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第一章.03異邦人

第一章03.異邦人


「・・・・・・」


 窓の外は一面の海だった。

 もうどこを飛んでいるのか、南雲にも草鹿にも検討がつかない。

 しかし、機体は迷うこともなくただ一点をめざして飛んでゆく

 二人が乗り込んでいるのはヘリコプターというオートジャイロに属するものだと

先ほど説明を受けた。垂直離陸し、高速とはお世辞にもいえないが、その乗り心地や

操縦性の自由度には先ほどから驚かされていた。


「ご気分は大丈夫ですか?」


 離陸後、まったく声をはすることの無い二人に男は心配そうに

話しかけた。

 しかし、二人は答えない。

 それもそのはずだ。二人の目の前に居るのは金髪の外人男性だったからだ。

 機体に乗り込んだまでは良かった。

 彼は二人の傷の手当てをしてくれをしてくれている間も流暢な日本語で話しかけてきていた。だから、彼が

マスクを取ったとき、二人は愕然とした。

 目の前に居るのはこれから殺しあおうとしている白人だった。この時は南雲は自分の選択の重大さを改めて、

理解し草鹿はこれから自らが受ける事を考えて顔を引き締めていた。


「お二人とも初めてのヘリで緊張しているのですか?」


 二人の事など露も知らず、彼は未だにこちらを気遣っていた。


「それならそうと・・・・・・あ、見えましたよ。」



 男は、窓の外を指差し、南雲と草鹿はその指を追った。


 そこには――


「――艦隊?」


 隊列を組んで波を蹴る数十隻の軍艦の姿があった。どの艦も見たことの無い形の艦ばかりである。

その隊列の中央、一隻の巨大な船が異常なまでの存在感を出していた。


「あれが旗艦です。」


 艦隊を食い入るように見ている二人に男は告げた。

 近寄ってみるとこの艦の異常性が見て取れた。


「随分と奇想的な形だな」


 草鹿の言葉は最もだった。


 他の艦も奇想的な形こそしていたが、中央の艦は群を抜いていた。

 艦首には巨大な切削機のような螺旋状の物が付いており、艦橋手前には砲身だけで数十メートル在ろうかと言うほど巨大な砲が一門鎮座している。

中央部もハリネズミのように砲身が飛び出し、しかし、煙突らしい構造物は見当たらない。かわりに丸みを帯だ建造物が艦の中央を陣取っていた。

まるで空想科学小説にでも出てきそうな艦だ。


 ヘリはその艦の横をすり抜けると、艦尾にのすぐ上で静止する。


「着艦します。」


 パイロットの一人がそう言ったと思うと機体はゆっくりと降下をはじめる。


「お二人ともそのように緊張せずとも堕ちませんよ。」


 男はそう言うがこれを緊張せずにはいられない。今から自分たちは敵地の真っ只中に行くのだ。

最悪、生きて帰れないかもしれないと言う。不安がどうしても拭いきれなかった。


「――着艦作業終了、機体異常なし」


 気づかないうちに、機体は甲板に降り立ち、辺りに居た兵士たちがすぐに機体に近づいてくる。


「――お待ちしておりました。南雲司令長官、草鹿参謀」


 体躯のいい二人の男がドアの両脇に立ち敬礼を贈ってくる。

 それに南雲と草鹿は戸惑っていた。一人はアジア人のようだが、もう一人は黒人だった。


「黒人兵士が珍しいですか?」


 先に下りた男が声を掛けた。


「仕方ないですよ。大尉、この"時代"黒人は未だに差別の対象ですから」


 苦笑いしながら兵士は答える。

 

「すまん」


 南雲は黒人の兵士に頭を下げながらヘリから降りた。

 そして、目を奪われた。


「・・・・・・」


 見上げるのは巨大な鉄の城だった。今まで数々の軍艦に乗ってきたが、これほどまでに存在感を肌で感じたのは

初めてのことだった。


「デカイですなぁ」

「ああ」


 横に立った草鹿の言葉に南雲は頷く。


「これほど大きな艦は一号艦以外ありえないと思っていたのですが」


 草鹿は現在、試験航海中である帝国軍新鋭艦の事を思っていた。世界最大、最強と言われた戦艦

その姿が今でも鮮明に思い出せる。しかし、今この瞬間だけはその勇姿すら霞んでしまう。


「本艦が珍しいですかな?」


 その姿に見惚れていると、男の声が聞こえた。

 視線を戻すとそこには一人の女性を従えた中年の男の姿が在った。

 二人とも日本人の様だ。


「まぁ、おたくらには珍しくて当然かこんな船体の先にドリルなんぞ取り付けてある漫画戦艦など、

お前さんらにして見れば、奇怪なもんにしか映らんわなぁ」

「――吾郷(あごう)長官、南雲中将に失礼です。あまり減らず口をたたかぬよう、お願いします。」

「いいじゃねぇか芳野(よしの)何かへるもんでもねぇし」

「あなたが減らなくても私の精神が減るんですよ。いいから黙りなさい弦一郎(げんいちろう)


 まるで母親が子供を叱るように白鳥芳野(しらとりよしの)は、言いながら隣の男、吾郷弦一郎(あごうげんいちろう)を睨み付けた。


「怖ぇなぁ、我が艦隊の参謀兼お母さんは」

「私はあなたを生んだ覚えも育てた覚えもありませんよ。それよりなんですか、その服装は?」


 芳野は吾郷の方へ向けた視線を上下させる

 軍服の前は開けっ放しでその下シャツもシワだらけだった。


「シャツはシワだらけ、軍服の前は開けっ放し、どうしてそんなにだらしないんですか?

部下が真似し出したらどうするおつもりです。いいですか、指令、あなたがしっかりしていないと

艦全体どころか、艦隊そのものの風紀が乱れるんです。なんですか軍帽も被らず、弦一郎、

前々から言おうと思っていました。あなたは昔から――」


 たまりに溜まったものを吐き出すように芳野は騒ぎ続ける。


「シャツぐらいアイロンかけたらどうです。」

「そりゃお前の仕事だろ?」

「はぁっ?あなたは女を男の召使か何かと勘違いしてるんじゃないですか?」

「そうは思ってねぇよ。それでもそれぐらいやってくれてもよいいじゃねぇか!?」


 吾郷の方もだんだん感情的になってくる。


「だから、弓枝(ゆみえ)をあなたに任せるは反対だったんです。あんなに御しとやかで

かわいい子をこんな不便な目に先に逝った兄にどう詫びもうし上げたらよいか

――それもこれもあなたが不甲斐ないからです!!」

「お前なぁ今、弓枝の話題はないだろう?それにあいつは、あいつの考えがあって」

「黙りなさい!!それにさっき、本艦の事を漫画呼ばわりしましたね?本艦は我が艦隊の

しいては私の自慢の娘なのです。それを・・・・・・」

「それはあくまで例えの話だっ」

「どうですかね。本艦(ほんにん)が聞いたら・・・・・・」

 

 吾郷の表情が一瞬青ざめた。


「それは止せ、あいつの相手だけは勘弁しろ。この前に嫌と言うほど、嫌味言われて

俺の胃は穴が開きかけたんだ。あれがいいとか貫かす清正(きよまさ)の神経は理解できん」

「そのまま、穴でも開いていればよかったんです。」 

「お前は仲がいいから何も言われないが、いざあいつを敵に回してみろその恐怖身をもって

しることになるぞ。」

「知りませんよ。」


 以前、白熱した口論を続ける二人に南雲は声を掛けた。


「すまんが、今はそんな状況ではないのだが」


 怒鳴り声の一つも上げてやろうかと最初はおもった南雲だったが、

二人のあまりに現実離れした会話に南雲は完全に毒気を抜かれてしまっていた。

 それは隣に立つ、草鹿も同じである。


「あっ!!申し訳ありません。南雲閣下、御見苦しい所を本当にご無礼を」


 何度も頭を下げる。芳野に南雲は焦る。


「い、いやいいんだ。」

「まったく、一番見苦しいのはお前じゃないか、芳野」


 吾郷の一言に芳野は吾郷をにらみ付ける。


「やはり、あの子に報告します。」

「お前っ!それは反則と言って」


 再燃しそうな二人の様子を見て南雲はため息をついた。



「もう存じているとは思いますが、大日本帝国海軍、連合艦隊第一航空艦隊指令、南雲忠一です。」

「同、参謀長、草鹿龍之介です。」


 二人は名乗ると敬礼をした。


「そちらが名乗ったのならこちらも名乗らない訳にはいかんですなぁ

常世(とこよ)国、遠征第壱連合艦隊(だいいちれんごうかんたい)指令、吾郷弦一郎」

「同じく、参謀の白鳥芳野です。」


「とこよこく?」


 聞きなれない国名に南雲は尋ね返した。


「知らないのは無理も無い。この"世界"には存在し得ない国なにだからな」


 口元を吊り上げて吾郷は笑った。

 後方、新たな救助隊を積んだヘリが轟音を上げながら舞い上がっていった。


 次回、ついに彼らの正体と機動部隊奇襲の真相が明らかになります。更新は相変わらず遅くなると思いますが、何卒、温かい目で見守っていただける事をお願いいたします。

 感想、指摘などお待ちしております。

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