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第一章.02 遭遇

第一章.02 遭遇


 目の前で小さな火がユラユラと揺れていた。

 朦朧とする意識、

 冷たくなる指

 光り輝いていた自慢の木製甲板を自らの血で赤く染めながら

 航空母艦の艦魂――赤城は自分が傷を負い甲板に倒れていることを思い出した。

 

 "艦魂"それは、自分という存在に付けられた名称だ。古来より船には精霊や心が宿るという言い伝えが伝わっている。

それは軍艦も例外ではない。彼女は艦が作られたときに生まれそして、艦がその生涯を終えるときに消える。

 だから、彼女には分かっていた。


 自分がもう永くない事を・・・・・・


 静かに呼吸を繰り返しながら赤城は空を見上げる。

 朝焼けに染まる青い空がそこある。

 

 手を伸ばせば届きそうなほどに近くに感じられるほどに


「嫌だな・・・・・・」


 きっともう終わってしまう。

 兵士たちは自分のことを助けようと甲板上で今も奮戦しているそれでも

火は弱まる事がない。


「山本長官に・・・・・・会わせる顔がないじゃない」


 過去に自分の艦長として共に海を駆け、自分たちの可能性をはじめて見出してくれた人

彼が望んで選んだ道ではない事を知ってはいたが、連合艦隊の司令官となった時は心から祝福した。


 彼が居たから、私たちはこの晴れ舞台に出てこれる事ができた。


 それを――


 赤城の頬を雫が流れ落ちた。


「嫌っ・・・・・・まだ死に、たくない。」


 大粒の涙を流しながら赤城は声を上げる。


「まだ、これからじゃない・・・・・・本土でデカイ顔してる戦艦達に私たちの存在を認めさせて

大艦巨砲主義の時代がもう古い事を教え、て」


 咳き込みしゃっくりを上げ、訴える。


 こんな最後は嫌だ。不運な運命を辿り、周りからは蔑まされ、それでも認めてもらうために

連合艦隊の一角としての場所を手に入れる為にここまで耐えてきたのに

 

 何も認められずここで終わるなんて


 誇り高き軍艦の魂――がこんな事を言うなんておこがましいと思う。どんなに惨めだと言われてもいい


 それでも――


「生ぎだいっ・・・・・・生きたいよ。」


 何度もそう叫ぶ。


 これが夢であるならどれほど良いだろう。

 

 赤城の叫びは次々と起こる爆音でかき消されていった。


「ぐぅっぅううぁ!!」


 爆発が起こるたびに赤城の体は飛び跳ねる。

 艦魂と艦は一心同体、艦が傷つけばその痛みは直接艦魂へとつながる。気がおかしくなるほどの痛みに赤城は耐える事が出来ずに

悲鳴を上げ続ける。


 もはやいつ大爆発を起こして沈没してもおかしくない状態だった


「死にだぐっな、い」


 精一杯の願いと力を込めた声を搾り出した。

 誰も聞いていないと分かっていてもそれでも赤城は叫ばずには居られた無い。


 と――



「死にたくないですか?」


 急に声が聞こえて赤城は閉じていた目蓋を開いた。

 視界に飛び込んできたのはこちらを覗き込んでいる人の顔だった。

 白い長髪を靡かせ、見たこともない白と黒を基調とした服を着ている女性がそこにいた。まるで人形のような端正な顔立ち

この様な状況にあっても微動だにしないその眼、すべてが異質――赤城は死に掛けのその目をその女性から離すことは出来ずにいた


「死ぬという情報は習得済みです。しかし、我々艦魂が死後どうなるかという情報は不足しております。」


 瞬き一つせずに彼女は淡々と口だけを動かした。


「情報不足を謝罪いたします。」


 彼女は目を閉じ頷いた。

 呆然と赤城はその女性を見上げていた。


「だ、れ――むぅっ!!」

「状況的に見て、喋らない方がいいと思います。」

 

 急に口を押さえて彼女は一言そう言うと、もう一方の手を傷口に伸ばし


「確認――中央最上甲板に直撃弾を受けています。弾頭は甲板を突き破り

炸裂、内部に甚大なる被害をもたらしております。単刀直入に言いますと

中破、炎上中です。」


「わかっぐむぅっ!」


「静かにしていた方が賢明です。一度の忠告を聞き入れず、二度目の警告です。

三度目の警告を受けるのは愚か者――馬鹿です。」


 無表情で、彼女は喋ろうとする赤城の口を改めて塞ぎなおした。

 理解が出来ない。この女は一体何が目的でこんなことをしているのか、それ以前にどうしてこんなところに居る


「被害の解析終了しました。至急――消化活動を要請いたします。」


 そう口を動かしたと――

 太陽が遮られ、何かが上空からゆっくりとこちらに向けて降りてきていた。




 空を切るような音が辺りに響いていた。

 爆音が響く艦上にあってなお、その音だけはなぜかかき消せられることなく。

 南雲の耳へとやけに鮮明に響いていた。


「草鹿、君――」


 その目だけはひたすら上空の異物を追い続ける


「はい、長官――」


 それは草鹿も同じで、


「私たちは、夢でも見ているのかね?」


 甲板から立ち上がる黒煙を切り裂いて、その異物がゆっくりと甲板へと近づいてくる。


「――て、敵襲ぅ!!」


 逃げ惑う兵士の中で誰とも知らぬ一人が叫びを上げる。

 しかし、その声に立ち止まる人間は誰一人としていなかった。


 その異物は甲板へ垂直に降下し、着陸すると同時に中からオレンジ色の服を身にまとった人間のような姿をした

者たちが次々と降りてくる。

 

「第一班は、格納庫で消火活動中の者たちを支援せよ。第二班は、甲板上の兵士たちの救援に当たれっ!!」


 一人が檄を飛ばすと、そこにいた全員が隊列を組んで分かれていく、それを確認したように次の異物が同じように降りて

同じようにオレンジ色の服を着た人間たちを降ろし去っていく。


 一瞬で変わる周りの状況についていけず、南雲は目を点にしていた。

 いや、この場に居るすべての人間がそう思っているだろう。


「南雲長官ですね?」


 声を掛けられて南雲はハッとした。

 見ると目の前にはオレンジ色の服を着てガスマスクのような物を身につけた男が立っていた。


「なんだ!?貴様っ!!」


 草鹿が南雲を自分の後ろに隠すように前に出た。


「安心して下さい。あなた方に危害を加える者ではありません。」

「何を馬鹿なっ!!そのような事信じられると思うか?」


 この様な状況にあって、突如として現れた者をどうして信じられるというのだ。

 さすがにそれは相手も同じ考えだったようだ。

 小声で同意すると


「信じられるはずがないというのは重々承知です。しかし、あなた方には信じてもらう以外に道は無い。」

「なにぃっ!!」

 

 男の言葉が感に触ったらしく、草鹿は声を荒げ、今にでも相手に噛み付こうとしている。


「止さないか!」


 怒る草鹿を宥め南雲は前に出た。


「我々に君を信じろとはどういう意味だね?」

「そのままの意味です。南雲忠一中将、我々を信じてご同行お願いできませんか?」

「ふざけるなっ!!筋違いにも程があるぞ!」


 突然、現れたと思えば、何を言い出すかと思えば、自分を信じろ。共に来いと

筋の違いの事を言い続けている。

 南雲はこの作戦における最高指揮官である。その指揮官が同行などする訳が無い。

 吼える草鹿を南雲は必死に抑え、


「貴校は、あの飛来した未確認兵器と何か関係があるのか?」


 感情的になる草鹿に反して南雲は冷静だった。草鹿が感情的に相手に噛み付いて居たからこそ、

南雲は冷静で居られたのかもしれない。それに、彼にはどうしても確認しなくてはならない事が

あった。


「あのまるで意思を持ったかのように我が空母を攻撃した。槍のような物と」


 男は口篭る。

 南雲自身少なからず確証はあった。が、ならばなぜ攻撃をしておいてこの様な救助の手を差し伸べてきたのか

それがどうしても分からない。


 南雲の問いに男は答える。


「それは小官の口からは告げがたい事です。しかし、長官に会っていただければ」


 男はそれ以上の事は話そうともせず、マスク越しにこちらの顔を伺っていた。

 恐らくこの男が言うには内容が大きすぎるのだろう、男は申し訳なさそうに

頭を下げた。


「そうか、いいだろう。会おうじゃないか」

「長官っ!?」


 南雲の答えに草鹿は驚愕の声を上げた。


「いいじゃないか、危害は加えないようだしそれに・・・・・・」


 南雲は視線を甲板に向けた。今も火災の火は弱まっておらず黒い煙が至る所から上がっている。

そのすぐ傍で、目の前の男と同じ格好をした男たちが部下の救援にあたっていた。


「部下を救ってもらった礼もしなくてはな」

 思ったより投稿が遅くなってしまいました。申し訳ありません。草薙先生、二等海士長先生さっそくのご感想ありがとうございます。またの感想などお待ちしております。

 他にも感想、要望、指摘などありましたらよろしくお願いいたします。

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