第一章.01 悪夢の朝
第一章.01 悪夢の朝
以前、波は高いままだったが、赤城甲板ではパイロットたちが出撃を今か今かと待ちわびていた。
機体の整備は万全、兵の士気もこれ以上にないほど高まりを見せていた。
「長官、もうよろしいかと思います。」
日も昇り始め、ようやく航空機の発艦が可能になった。
南雲は草鹿の顔を見た後にゆっくりと頷いた。
それが合図だった――
「第一次攻撃隊っ!!発艦準備かかれっ!!」
艦橋内に怒号のような声が響き渡り、急に艦橋にいた全員が慌しくなる。
南雲はそんな部下たちを尻目にただ、地平線から上がる朝日を見ていた。
「いよいよね。」
先ほどまで甲板に出ていた赤城は乗員たちが慌しさを増したのを感じ、艦橋上部へと移っていた。
眼下には、これから攻撃に向かう機体に整備兵が飛びつき、そしてパイロット達は各々機体の操縦席で計器の
最終確認を行っている最中だ。
後ろに視線を移せば、同じように甲板上に多数の航空機を載せて波を蹴っている仲間達の姿がある。
その勇士たるや、この世にこれほど頼もしい仲間が他にいるだろうかとすら赤城は思っていた。
「天城ねぇさん、私達の初陣だよ。」
今は亡き、姉の事を思う。本来ならば共にこの海を行く筈だった姉、加賀ほどではないが、赤城にとってもこの
作戦は思いの強いものだ。何にしてもこの作戦を成功させなくてはならない。そうする事で、自分はようやく連合艦隊と
いう群の中で胸を張っていけるそんな気がした。
エンジンの音が甲板中に木霊し、航空機たちの力強いプロペラの回る音が聞こえ始める。
一斉に整備兵達が機体から離れ、機体はゆっくりと前へ進み始める。
「一番機、発艦せよっ!!」
号令と共に強大な歓声が上がった。
が――、
「右舷より、未確認飛行物体急速接近っ!!」
双眼鏡を覗き込んでいた一人の兵士が声を上げたと思うと、凄まじい爆風が艦橋を襲った。
兵の声に誰よりも早く気がついたのは南雲だった。
見ると、洋上を細く長い棒のような物がもの凄まじい勢いでこちらに向かってきていた。
・・・・・・なんだ。あれは?
その物体を見たときの南雲の率直な感想がそれだった。
あまりに摩訶不思議な光景だった。棒が何の変哲もない棒がまっすぐにこちらに向かってくる。
一瞬、自分の目がおかしくなったかとすら感じたが、見張りの兵士にも同じものが見えている。
という事は、自分の目はおかしくない。
おかしいのは、
「――!?」
次の言葉を発そうとした瞬間、南雲はその言葉を飲み込み、そして視線は棒に釘付けになっていた。
棒はまるで意思があるかのように、赤城の手前で急に上昇したのだ。そして在ろう事か、その棒は
まるで吸い込まれるかのように発艦中だった一番機のの操縦席の風防をブチ破り、さらには機体を貫通し甲板に突き刺さった。
そして、紅蓮色の炎と爆風が視界いっぱいに広がった。
艦橋は地獄のような光景だった。
爆風によりガラスが割れ、その破片と爆風の衝撃で何人もの仕官が体中を血まみれにしながら悲鳴を上げていた。
「長官!!ご無事ですか?」
床に倒れこんでいた南雲を草鹿は抱き起こした。見ると草鹿も額から血を流している。
「あ、あぁ・・・・・・大丈ぐっ!!」
ようやく落ち着きを取り戻してきたかと思うと、南雲の肩に激痛が走った。おそらく先ほどガラスの破片が
当たったのだろう。肩の服が切れその下からどす黒い血があふれ出していた。
「何てことだ。衛生兵っ!!衛生兵はどうした?軍医を呼べ。南雲長官がっ」
「いいんだ草鹿君、それよりも被害は?」
騒ぐ草鹿を止め、南雲は尋ねた。
自分は司令官として艦隊の状況を把握しておかなくてはならない。南雲は痛む肩を力強く抑え草鹿を見た。
草鹿は苦虫を噛み潰したような顔をした後にゆっくりと口を開いた。
「赤城、加賀が被弾しました。」
その言葉に南雲の顔から血の気が引いていった。
「他の空母は問題ありません。しかし、本艦及び加賀は被害甚大です。」
赤城は一機の航空機を直撃しそのまま爆発したのが最大の被害をもたらしていた。直撃後の爆発で機体の腹に抱えていた爆弾が有爆、
さらに準備中だった他の飛行機にも火が飛び火し、次々と有爆。追い討ちを掛けるかのように甲板すぐしたの一層目の格納庫にも火が回り
つつあった。
「加賀は?加賀はどうした?」
赤城の被害の深刻さは肌身でも感じることができる。だが、他の艦の事は分からない。南雲が尋ねると
「加賀は艦橋に直撃を受けました・・・・・・艦橋にいた者すべて戦死」
草鹿はそう告げると放心状態の南雲を立ち上がらせた。
「退艦するにしてもここに居ては危険です。さぁ長官・・・・・・」
草鹿は南雲を支えるように艦橋を後にした。
ご覧いただきありがとうございます。
本作はゆっくり書いていきたいと思っていますので次回投稿はしばらくお待ちください。