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第一章.09情勢

第一章.09情勢



 独逸第三帝国の一方的な同盟破棄より、三ヶ月・・・・・・

日本国内は、大いに荒れていた。



 太平洋の緒戦における相次ぐ敗走は独逸の同盟破棄の情報と共にすぐに国民の知るところとなり、これにはアメリカの工作員が流したデマであると大本営本部が全国に通達をだしたが、まったく効果がなかった。 


 国民は現政府のありように不安を上げ始め、さらには『すぐに裏切り者の独逸を撃つべし』と、沸き立てる者まで出る始末、各地でデモや抗議が殺到し憲兵隊も対応できず、困り果てているというのが現状だった。


 更に悪い事にこの事はすぐに天皇陛下の知る所となり、事実、東條内閣は発言力を失いつつある。


「まぁよかったと言えば、よかったのか」


 いつもの様に司令室で椅子に沈み込み優雅にコーヒーなどを口に運びながら吾郷は呟く。


 ここ三ヶ月、特に大きな戦闘行為は行われていない。それが逆に日本軍を恐怖に陥れていた。各地では独逸の同盟脱退と、開戦当初の相次ぐ敗走で、欧州軍が攻めて来るのでは、と今日も本土の守りを固めている真っ最中である。急にそんな事をはじめても意味はないのだが、このおかげでシナ戦線は拡大を避け、現在満州の守りを固めている。


・・・・・・東條さんには悪い事したな


 現在、首相である東條英機は飾り同然の扱いを受けている。緒戦敗退、独逸との同盟決裂、数々の問題を追求され、東條以下、陸軍内の好戦派は抑えられ、陸軍の発言力が低下し逆に海軍が盛り返しを図っていた。

 

これは少なからず、吾郷達のお陰でもある訳だが、


・・・・・・早いとこ油を確保しないとな


 日本がマレーを攻略できなかったと言う事は痛恨の痛手である。日本は資源をもたない国だだからその殆どを輸入に頼っていた。だから、南方の攻略は石油などの資源の調達のために絶対に欠かす事の出来ない事だった。


 しかし、マレーが攻略できなかった以上、南方の資源は得られない。と言う事はいずれ艦隊をや航空機を動かす燃料にも事欠くというまさに兵糧攻めも同然の結果に陥ってしまう。


 そこで吾郷達はある情報を日本に提示した。それが海軍の発言力を上げる結果に伝わったのは言うまでもない


「大慶油田の発見は史実にはまだ先の事だがな」


 吾郷はカップを手に取った。


 吾郷達が教えたのは大陸に眠る手付かずの油田の事だった。さっそく、海軍が調査団を作って指定された地域を調べてみると、確かにそこには今日本が欲している何十倍もの原油が眠っている事が分かった。


 これに海軍は狂喜しすぐにその土地の開発を命じた。


・・・・・・油が確保されれば、後は金属類か


 燃料の問題は解決したものの、まだまだ確保しなくてはならない資材は山の様に残っていた。

 その確保の事で吾郷は悩んでいた。


「どうしたんです。難しい顔して」


 視線を向けるとそこは同じようなカップを持った芳野がいた。


「ノックぐらいしろよ。」


「しましたよ。まったく歳を取って耳が遠くなったんじゃありません?」


 カップに口をつけて芳野は目を細める。


「お前だってそんなに――」


 次の言葉を発する前に芳野の鋭い視線が吾郷を射抜く


「そんなに――なんです?」


「いや、お前はいつまで経っても綺麗だよ。」


「あら、うれしい。」


 笑顔を引きつらせながら言う吾郷に芳野は冷たい視線で返した。


「あぁそうです。指令」


 急に思い出したように芳野は持っていたカップをテーブルに置いた。


「――例の技術提供の件、上手くいってますよ。最初はあるはずのない物に

手間取っている人も多かったらしいですが」


 技術提供と言うのはそのままの意味で現在、帝国側に行っている支援措置の一つだ。


「そりゃあな。まだあるはずのない設計図が目の前にあるのはさぞ、不思議だろうよ」


 吾郷はニヤっと口元を吊り上げた。

 

 吾郷達がもう一つの支援策として日本側に渡したものはこれから開発される兵器の

設計図とその実験データである。


 それは並列世界の日本からこちらの日本の技術陣へもしもの時は渡してくれと頼まれていた

ものだった。


「本来なら兵器の開発年月が縮まるのは歴史的にもあまりいい事じゃないんだがな」


「それでは世界の均衡が崩れてしまいますよ。他国はすでに次世代戦闘機の開発がほぼ終了し

テストに移っていると聞きます。」


 すでに欧州各国は並列世界の人々の技術提供を少なくとも一年は受けている事になる。つまりそれほど、日本は出遅れているのだ。


「もともと、日本国は我が艦隊に情報を提示する条件として本土防衛を要求してきたのですよ?それも我が艦隊が向こう数ヶ月は行動不能である事を承知の上でです。だから、あのような物を渡して少しでも自ら身を守れるようにと考えたのでしょう」


 並列世界では常世から分かれた人々の手によって兵器の進歩が格段に進んだ。それは日本も同様であり、本来の歴史では実験段階にあった兵器や概念実証がまだ終了していない兵器もすでに完成しその多くが実戦に投入された。


「芳野、忘れるなよ。その技術の跳躍が何をしでかしかを」


「忘れませんよ。でも、これで少しは楽になるといいのですけどね」


 現在、三菱や中島といった兵器会社はもたらされた設計図と資料と睨めっこしている。

当然だが、いくら資料と設計図があったとしてもすぐにそれの要求道理の物が

作れるはずがない。


 現在、各メーカーはその設計図を元に新兵器の開発に勤しんでいる。


「まぁ一理あるわな、それで?その報告をしに来たんだろ?」


「あぁ、そうそう、三菱の方で製作に入っていた。新型の艦上戦闘機、十七試艦上戦闘機の一号機が初飛行に成功したそうよ。」


「十七ってと、"烈風"か」


 思い出したように吾郷はその機体の名称を言う。


「すでに海軍の方から増産要請が出てますから、もうじき配備が始まると思います。」


 史実では十七試艦上戦闘機がようやく完成したのは戦争末期の話だ。高性能、高性能といわれながらも登場が遅すぎて、試作機を作っただけで終戦を迎えた。もし、もう少し登場が早かったらなどと言われるが、当時、すでに連合国側の戦闘機は烈風の一歩も二歩も先を言っていてとても太刀打ちできるとは思えないというのが実状だった。


「彗星、天山に続き、烈風か、いやいや昔の戦史オタクが聞いたら泣いて喜ぶなそりゃ」


 すでに増産体制の整いつつある新型艦爆と艦攻の名を出した。


「ついでに、赤城と加賀の改装もようやく一区切りつきそうらしいわよ」


「そりゃいい。もう少し掛かると思ってたんだが」


 ハワイ沖で被弾した赤城、加賀両空母は現在、改修工事を受けている真っ最中である。

加賀はそれほど被害を被った訳でもないのだが、速力の遅さなどが目立っため、赤城と同様の

改修を受ける事に決定した。


「完成すれば、世界初のアングルデッキを備えた航空母艦となる予定です。油圧式のカタパルトも装備される予定ですし、外見は一変すると思いますよ」


「怪我の功名ってやつか、まぁ何はともあれ戦力が強化されるのは悪い話じゃないな。」


 と――吾郷が感想を述べたとき、部屋のドアが開き茶色いウェーブヘヤーの女性が入ってきた。


「――失礼します。あら?おばさんも居たの」


弓枝(ゆみえ)・・・・・・」


 気落ちした声でいいながら芳野は自分の額に手を当ててた。


「よぉ弓枝、相変わらずその豊満な胸を見せびらかしに来たのか?」


「何?おじさん触りたいの?」


 征服の前を完全に空けてその下は胸に巻かれるようにある黒い布地一枚である。

胸下からへそまでは完全に肌を晒している。

 

「そりゃおめぇ、さわ――」


「弓枝っ!!」


 吾郷の次の言葉を聞く前に芳野が声を上げて、弓枝の制服の襟を掴むと

胸を隠すように無理やり前を閉じた。


「ちょっと、おばさん。」


「黙りなさいっ!!あなたは年頃の娘なんですよ!?それが何です。こんな娼婦のような服装

私はあなたの母代わりでもあるんですよ。」


「反抗期って素敵じゃない?おばさん」


 前のボタンをしめる芳野に弓枝は口元を吊り上げて笑う。


「どこがよっ!?あなたにはあんな風になって欲しくないのよ!!」


「おい、何でこっちを指差しながら言うんだよ」


 迷いもなく指された指先を見ながら吾郷は言う。


「それは、おじさんが私をこんなにしたから」


「なんかやらしいぞ。弓枝?それじゃ俺がお前によからぬ事してたみてぇじゃねぇか第一、おめぇがぶっ飛んでのは俺のせいじゃねぇ」


「ぶっ飛んでなんかいないわよ。周りがバカなだけ、誰もわたしに付いて来れないだけよ!」


「誰も付いて行かないわよ!!いいから前を閉めなさい。何で開けるの!?」


 せっかく閉めたボタンをまた外して弓枝はまた肌を晒す。


「これはファッションよ。おばさん、古臭い軍隊の規制なんて賢い私には必要ない。すべて無用なのよ」


「規律を守らなかったら組織としてなりたたないでしょ!」


「なら、私が規律よ。みんな私を崇めるといいわ!あぁいいわねそれ!今度うちの艦でやってみようかしら」


 そんな中――


 高らかに笑う。弓枝の後ろにゆっくりと影が迫っていた。


 その影は弓枝の後ろに立ちそして・・・・・・


「何だよ朝倉、今日は随分厚着じゃねぇ?」


 弓枝の胸が後ろから現れた五指に持ち上げられた。


「フフフっ相変わらず、暗殺者並ね。"天原清正"(あまはらきよまさ)」


 胸をこね回されながらも弓枝は冷静に男の名を呼んだ。


「相変わらず、胸でけぇな朝倉、お前の祖先は牛か?牛だなこりゃ」


「人の胸、揉んどいてその言い草、あんた確実に死ぬわよ。この愚か者」


「死なねぇよ俺は、まだ、あいつに、エロい事一つもできてねぇもんよ。聞いてくれよ朝倉、

あいつさぁ」


「知るか―――っ!」


 次の瞬間、弓枝は清正の腕を掴んで力任せにぶん投げた。清正の体は空中で弧を描きそして、目の前に座る吾郷へと突っ込んでいった。


 ヘヤにカップの割れる音が響き、吾郷と清正は仲良く床に突っ伏していた。 


「あぁ、そう言えば、おばさん。」


 服に付いたシワを伸ばしながら弓枝は芳野の方に顔を向けた。


「さっき哨戒班から連絡でアメリカ艦隊が真珠湾を出航したって言ってたわよ。」




 


 次回からようやく戦闘に移ります。ご期待下さい。


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