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第一章.00 運命の日

     第一章 00.運命の日


1941年12月7日 アメリカ合衆国領・ハワイ諸島 沖合い 

日本海軍 空母 赤城 艦橋


 目映い朝日が地平線より顔を出し、その光が艦橋に差込み、そこに居る人間達を照らし出す。

 みな黒い軍服に身を包み一言も言葉を発することなくただ、朝日を眺めていた。


「もうじきですな長官」


 窓のそばに立ち、険しい表情を崩さない。初老の男はその声にゆっくりと頷いた。


「波が高いな。これでは攻撃隊の連中は出だしからたいへんだろうに」


 強くゆれる床にしっかりと立ちながら男――\"南雲忠一"は視線を甲板へと移した。

 朝日に照らされた木製の甲板上では、整備兵が機体の準備に奔走していた。甲板の傍らでは搭乗服を着た若いパイロット達が、

攻撃の手はずを真剣に確認している。


 甲板の連中に急かされるように予定時間が刻、一刻と迫っていた。


 真珠湾奇襲作戦、それこそ彼らが日本から託された作戦である。


 国土の劣る島国が、大国アメリカに挑む。その初戦、彼らにしてみればこれ以上にない名誉でありそして、

今まで艦隊の護衛程度としか思われていなかった航空母艦搭乗員にとって航空機を主力として投入される本作戦はまさに晴れ舞台である。

だからこそ、搭乗員、整備兵、艦に居るすべての人間がこの作戦をなんとしても成功させようと意気込んでいた。そんな中、当の艦隊指令

である南雲は大きなため息をついた。


「上手くいけばいいが・・・・・・」


 意気込んでいる兵とは裏腹に南雲は不安だった。日本を出航してここまで無事につけたからいいもののここはまさに敵地の真っ只中である。

いくら航空機の航続距離あると言っても、航空機は兵器として運用されるようになってまだ日が浅い。その性能は未知数なのだ。

 もし、攻撃が失敗した時の事を思うと、南雲は胃が張り裂けそうだった。


「大丈夫ですよ。山本長官を信じましょう」


 南雲の不安を察し、参謀長 草鹿 龍之介は励ましの言葉をかけた。


「山本長官も人が悪い・・・・・・私は水雷畑の出身なのに航空艦隊の司令官とは」


 どうやら山本の名を出したのは逆効果だったらしい。草鹿は慌てて弁解する


「ちょ、長官は指令の艦隊運用手腕を評価されて今回の件をお任せに成られたのです。指令にはそれだけの力があります」


 南雲は草鹿の顔を見てまた俯いてため息を漏らした。


「・・・・・・こんな事なら、二航戦の山口にでも変わってもらうべきだった。どうして小沢さんが南遣で俺は専門外の・・・」


「長官っ!!」


 弱気な南雲に草鹿は悲鳴にも似た声を上げた。




 沈み込む南雲を必死に慰めるという大任を草鹿が行っている頃、赤城の飛行甲板の先端にただ地平線を眺める人の姿があった。


 長い黒髪を海風になびかせるその姿は、少女らしい。それは異常な光景だった、軍艦に少女が乗っているだけでも驚きだと

いうのに、周りの兵士達はそんな事など知らないかのように作業に徹している。

 少女の年齢は十代半ばほどだろうか、小柄ともいい難いが、長身ともいえない身長、着ているのは海軍の指揮官が着用する紺色の

第一種軍装だ。

 袖から見える白く華奢な手の先には軍刀があり、その軍刀の柄に両手をかけて彼女は敵に対して仁王立ちするかのように

航空甲板に立っていた。


「赤城」


 少女はゆっくりと後ろを振り返った。そこには、少女と同じ服に身を包み同じく軍刀を携えた少女が立っていた。


「加賀」


 加賀と呼ばれた少女は口元で小さく微笑むと、赤城の横に立った。


「ずいぶんとやる気みたいじゃない。」

「あなたが、それを言うの?顔は笑ってるけど、目が笑ってないわよ。」


 加賀とは奇妙な縁だが、長い付き合いだ。彼女が何を考えているかなど、手に取るように赤城には分かった。


「やっぱり分かる?」


 加賀の表情から一瞬で笑顔が消え、変わりに邪悪な笑みを浮かべた。


「ようやく、連中に借りを返せるんだよ?これが楽しみじゃなくて何をたのしめばいいの?

あんたもそうでしょ。赤城」

「私はあなたほどじゃないわよ。この船体(からだ)も、割と気に入ってるし」

「赤城はやさしいね。いや、真面目なだけか」


 加賀は笑いながら吐き捨てるように呟いた。本来ならここで赤城は反論するなり、殴るなりするのだが、

今日はそんな気分にはならなかった。

 彼女がこんなにも荒れる理由を赤城は知っている。それは少なからず、自分も持っている感情だからだ。


「あたし達をこんな船体にしやがった奴らに教えてやる。お前達は味わう必要がなかった恐怖を

そして、土佐の無念を」


 そう――これが、加賀の憎しみの正体。加賀と赤城は本来、航空母艦として生を受けたわけではない。日本海軍の八八艦隊計画の

戦艦、巡洋戦艦として生を受けるはずだった。しかし、時代の流れと欧州列強達はそれを許してくれなかった。ワシントン軍縮条約の

締結により、主力艦の保有数を決定され、建造途中だった。加賀、土佐は生まれるまもなく破棄が決定。巡洋戦艦だった赤城と天城は

空母への改造が決定した。


 これは、戦艦として生を受けた加賀達にしてみれば、屈辱以外の何ものでもなかった。大海原に出て敵艦との熾烈な艦砲による殴り合い

その先に果てようともそれが、戦艦として生まれた自分の本懐であり生きる意味だった。それを、加賀はすべて奪われた。

 そして、悲劇は続いた。空母への改装途中だった赤城の姉妹艦、天城が関東大震災の影響で破壊されたのだ。急遽、その穴を埋めるために

加賀は航空母艦への改造が決定された。しかし―――それは加賀にとっては妹である土佐との別れを意味していた。


 結局、加賀は空母に改造されることになり、姉妹艦の土佐は射撃訓練の標的され、味方の手によって海没処分となった。

 加賀はあれ以来、自分と妹の運命を弄んだアメリカをイギリスを憎んでいる。だからこそ、この作戦に対する彼女の思いは強い。


「がんばりましょう。加賀」


 赤城はたった一言、そう告げると前を向き直った。この地平線の先に自分達の敵がいるその敵を直接見て戦うことは航空母艦たる

自分達にはできない。しかし、心は同じだ自分達は常に前線の兵達とともにある。

 赤城は軍刀の柄を強く握り締めた。


「この初戦、絶対に勝つわよ。」


 赤城の決意に加賀はゆっくりと頷いた。

 はじめまして桐生むらさきと申します。まず初めに

このような拙い小説をご覧いただきありがとうございます。

 戦史ものを書くのは初めての経験なので、至らない所も多々あると思いますが何卒ご容赦、ご指導の程をよろしくおねがいします。


 

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