「えっ君やっぱり邪神なの」
ヒーローが触手イカ(♀)でヒロインが半熟勇者(♂)でとりあえず触手がうにょうにょしてヒーローは女の子がだいすきです。えっちいことはしませんが、巻きついたり拘束したり青春の味がするかもしれないのでR15になってます。
私は戦慄した。
「ああ、あたし今最高に輝いてる!必要とされてる!承認欲求満たされまくってアガペー溢れまくってるよぉ!
この世界の全てを今すぐ私の触手(人間的には足の部位)で包んで愛でて癒してあげたいくらい!」
「正気度0の狂人かよ・・・」
目の前でうねりにうねり悶えるのは私の同僚の(手足が)イカ娘。
どこかの一部の界隈で人気を博しているとかいないとかの、いわゆる触手俳優だ。なんだそれ。
仕事内容は主にダンジョンでトラウマ貰っちゃったり私生活に刺激を求めてたり仕事のストレスで魔物になっちゃいそうな女の子達に、ヒくくらい器用で多機能な触手で以て色々ご奉仕すること。・・・なんだそれ。
触手って結構ナイーブな存在だし、苦手意識や嫌悪感があるのは仕方ないし、はたまたトラウマそのものです、なんて子も結構いるから、割と細かくカウンセリングした後でその人にあったサービスを提供するんだけど
この狂人は言動と容姿と性格以外は割りとまともで、触手の自然成分たっぷり配合の美容マッサージから内視鏡紛いの体内観察、黙って上半身だけ映してれば自称癒し系傾国ハニーフェイスで何時間でもお悩み相談に乗ったりと、かなりデキるヤツなのだ。手足イカだけど。
もちろん薄い本展開もこなしてみせる。お姉さま攻めやら男装までして俺様執着とかキャラ付けまで合わせるプロっぷりには頭を下げざるを得ない。色々な意味で。
その評判と仕事ぶりは上々で、今や姫騎士界や冒険者界から指名つきで密入国してくるお客様もいる程だ。
ちょっと知名度が上がりすぎた上に自国のお姫様がお得意様になってしまったことで人間界の王様からは
『第三魔界特殊診療科・魂魄浄化看護師』なんて言うちょっと何言ってるかわかんない肩書きと勲章なんか貰っちゃったりして国営事業化しているのだから笑えない。
本当に何を言っているんだろう私は。
って言うか何してくれてるんだろう人間は。
「世の中の触手嫌いな女の子をみんな触手で包んで悲しいこともつらいことも全部あたしが触手で消して
触手様あいしてる私のことお嫁さんにしてって言わせたいなあああああああ怖くない触手もいるって
空から全世界に伝えたいな語りたいな洗脳したいなああああああああ」
「なにその超弩級精神災害・・・絶対やめてほんと」
そして今現在このイカ娘、かなり大きな仕事を無事にこなして最高にハイになってる状態だった。
まあ確かに勇者ハーレムの構成員なんて聞くだけで胃痛な集団、診て納得とどんびきの穢れっぷり(コンパクジョーカカンゴシ殿はむしろ燃えていたけれど)の患者を丸二日掛けてたっぷりお相手して魔物化を防いだんだから達成感もひとしおだろう。
後片付けとカルテ作成も終わったところで私は聞き役に徹することにしたのだが、相槌については容赦して欲しい。
世界がイカの触手(美容成分から腐食液までこなす)で包まれることにハイハイ言うわけにはいかないのだ。
この謎に高性能なこの娘のこと、オッケーもらったし世界征服しちゃいました☆なんて展開が絶対無いとは言い切れない。
いつか侵撃してくるかもしれない触手系宇宙人が触手に包まれたこの惑星を見て「ドウルイ ノ ホシ・・・アイサツ イク・・・」なんて展開になったら目も当てられない。
よって私は意識を遠くにやってイエスマンとなることは許されずこの狂った戯言を正気のままで聞いて判断して手綱を握らなくてはいけないのだ。
今わたしに世界の命運がかかっているかもしれない。
そう思うと緊張とイカ娘が寝た後の疲労感で頭がおかしくなりそうだった。
そんな一時的狂気が刻一刻と迫り来る中、鳴り響いた緊急放送の音は果たして救いだったのか受難の始まりだったのか。
『あー、あー、こちら第三魔界特務室二班班長レイスール・ク・フラベル以下略っす。ちゃんと仕事してるっスかー。サボってたらおしおきっスよー。
脅しはさておき緊急呼び出しでーす。
クラルケルシュペート・ハルヴュルフルヴァッファ=En/microcosmusさーん、・・・あれ、何か違うか?
まあいいや、急患でーす。
クララ、ルケル、シュペイト・・・ハ、ハルぶルフル・・・フル?ヴぁ、En/microcしゅ、あっ噛んだ。
・・・とにかく、クララさーん、マッハで特別治療室までおなしゃーす!
以上!
・・・・・・はー終わった終わったーつーかクララさんってこんな名前だったんスねー。ちょー呼び辛ッ!(笑)
でも急患とかカッケーなー、あーしも使ってみよっかなー。
あーって言うかどうせならクララ先生とか言えばよかった!
ん?あれ?これまだ切れて無』 ぶつっ。
緊張感と緊急度合いと特務班の尊厳が皆無の放送に呆然としていた私の傍で、
クラルケルシュペイト・ハルヴルフルヴァ=En/microcosmusことクララは
既に1本の触手で身体を清めてもう2本で鞄の用意をして触椀で白衣ならぬ黒衣を羽織っていた。
さっきまでの精神疲弊魔法の具現化みたいな言動と表情は何処へやら、本当の看護師さんみたいなカオをしてるけど途轍もないシリアスの無駄遣いだといわざるを得ない。
なんだその切り替えの早さ・・・。
「ん。いこっか、おーちゃん」
まだ現実に追いつけないおーちゃんこと私は人間の手に似せた触椀に手を取られる。
なんだその気遣い・・・。
「大丈夫?あたしひとりでいけそうな人間だったら状態確認した後は
モニター室で寝てていいからね」
ほんとうに!こいつは!もう!
「てつだうよ。いっしょいく。ほんと君ってタチが悪いよね!」
「? まあ、邪神はみんなタチ悪いよぉ。じゃ、もう一仕事がんばりましょー!」
「えっ君やっぱり邪神なの」
やっぱりあの緊急放送の音は救いじゃないほうだったのかもしれない。