序章④
そう思っていると足音が聞こえた。
誰かがくるのか?
-コン、コン。
ノック音が聞こえる。
「なんでしょうか」
俺は久しぶりに声を発した。
ああ、のどがカラカラだ。気がつかなかった。
-キーっ
ドアが開くとそこには一人の青年が立っていた。
いやいやいやー、そこは絶世の美女がいるべきでしょーという心の叫びは置いておく。
年は18歳前後だろう。髪は若干長めか、耳までかぶっている。
身長はいたって平均的、いや若干高いか?
光に反射すると青い髪に見える、ブルーアイの学ラン服がそこにいた。
…まてよ。青い髪に青い瞳…。
髪を染めてカラコン、ってわけでもないよなー。日本人か?言葉は通じるか?
なんて考えていると声をかけられる。
「よかったー。目を覚ましたのですね!」
「あ、俺の名前は酒井幸太っていいます」
日本語だ…。しかも日本の氏名…。
「俺は、ケンシだ」
「ここは…。いや、その前になんだか世話になっているみたいだな。すまない」
かろうじて言葉を発する。
心臓がバクバクいう。
若干背中に冷や汗が流れているのがわかる。
ココハ…。ドコダ…。ドコダドコダドコダドコダ。
どっどっどっ。
静まれ、俺の心臓よ、静まれーっ!!
冷静に先ほどまで分析していたが、こいつに会ったことにより、
異世界へと迷い込んだ説が最有力候補になったような気がする。
まあ、俺の貧相な妄想力では計り知れない他の何かかもしれないが。
さらに足音が聞こえる。
先のコウタとは違い、小さな音。
音が止まる。正面を見る。
おお!…これぞまさに俺が求めていたこと。
身長は低めでやせ気味、薄ピンク色の髪をした美少女がそこにはいた。
髪の長さは腰くらいだな。決してふくよかな胸とは言えないが、年齢相応だと思う。
どこぞのアイドルグループとは比較にならない位整った顔立ち。
学校で言えば全校生徒で1番、2番位の美しさである。
もっと言うならば、某恋愛シミュレーションメインヒロインを幼くした感じが一番適切だ。
ちょっとだぼつかせたセーラー服のリボンがこれまたものすごくかわいらしい。
美少女とは、この子のためにある言葉だと思った。
最後になったが、ぱっと見た目、中学生から高校生に見えた。
…また不思議な色の髪か。ほんとここはどこなんでしょうね。
アニメかゲームの世界?あー、だとしても異世界ってことになるか。
「おにいさん…。」
俺をみて美少女が呟く。
おお、スーパーあこがれのシチュエーション。これはもう死んでもいいくらいに嬉しい。
かわいいはまさに正義である。
…いやものすごーく残念なことに、俺に向けて発せられたのは違っていた。
よく見てみると、その視線の先は俺の後ろにいたコウタへと向けられていた。
なんとまあ、美系な兄妹だこと。
兄弟といえば、男兄弟しかいない俺にとってはうらやましい限りで。
ただ、実際のところリアル女兄弟がいるやつに聞くと正直そうでもないらしい。
奥が深いと思う。
何度か妄想で、義理の妹ができる夢を見たことがあるが、現実的に両親の離婚はあり得ないし、考えるだけで無駄なんで、この話はここまでにしておく。
「そちらのかたは…?」、
「えっと…」
コウタがどもる。無理もない。俺たちは会ったばかりだ。
「俺は、ケンシだ。どうも君の御兄さんに助けてもらったらしい」
「そうなんですか…」
桜色の髪の毛がはねる。
うわーいいにおいがしている…気がする。
俺と少女の距離は、体感2m。香りはしないはずなので多分思いこみ。
でも絶対いいにおいがすると思う。
「私は真美子っていいます…。加茂川真美子です」
おお、まみこってぃ。…カモガワ?あれ、コウタはサカイコウタだよな。
兄妹のはずなのに…。義理か?
まあ、他人の家庭事情なんてどうでもいいか。
「それよりおにいさん、そろそろ学校が・・・」
―学校。今日は平日か。というより異世界にも学校があるんだな。
いやいやいやいや、コウタは学ランだし、まみこってぃもセーラーだから当然か。
と、いうことはいまは朝?だよな。
「あー。もうそんな時間か。ケンシさんはよかったらその部屋で休んでいてください。
俺とマミコは学校に行くので」
「…ゆっくりしていってください」
「悪い」
そう言葉を交わすと、コウタとまみこってぃは部屋を出て行った。
俺が何か盗むとかそういったことは考えないのだろうか、と思った。
さて、一人になったし、今の状況を再度確認してみよう。
まず、俺。俺は俺のままのようだ。
一部身体に怪我を負っているが、そこまで大事には至っていない。
怪我もどうもどこかから落ちたような、多分打撲程度だと思う。
思考回路は…多分問題ないだろう。いつも通りだ。
そして場所。ここの家は安全だろう。これからも警戒は必要だが。
コウタは良い奴だし、マミコはかわいい。かわいいは正義だ。
普通と違うところは髪の色、眼の色。それ以外は日本語が通じる。
世界観がつかめない。過去?未来?少なくとも家を見る限り、未来ではなさそうだ。
とにかく情報が少なすぎる。
まあ、今はコウタの好意に甘え、体調を戻すことを先に行おう。
―そう考えているうちに俺は睡眠についた。