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写ってないヤツ

 名前までは覚えていなかったし、当時もフルネームは把握してなかったうような気もするけど、顔は覚えていた。チハルから聞いていたとおり同じ班だった事があった。私が6年の時だったと思う。

「チハル君と高校が一緒になってびっくりしたんですよ?」とハヤサキマイちゃんが言う。「小6の時にはクラス違ったんですけど、中高一貫に行くって聞いてすんごい女子たちガックリ来てて。難関だったのに受かっちゃったし。もうそのままそこの高校にもちろん上がって、きっと大学も東京の大学とかに簡単に行っちゃうんだろうなって思ってたけど、ここの高校でまた会えるなんてびっくりで」

「あ…うん」下級生相手にこれくらいしか相槌を打てないコミュ力の低い私。

「入学したての頃、お姉さんと一緒に帰ってるとこ見ました。相変わらず仲良いんですね」

『相変わらず仲良いんですね』…マイちゃんの言葉を心の中で繰り返すが、小学高学年の時にはもう、そんなに仲良くはなかったよね。


 「や、実は…」とマイちゃんが言う。「私、チハル君に告ってしまいました。なんか…好きだって思ってた子とまた会えて、あの頃より格段にカッコ良くなってて、やっぱ好きだわって思ったし、他の、高校になってチハル君の事、ほんのちょっとしか知らない子たちまで騒いでるの見たら我慢できなくなって」

「…」

「あれ?リアクション薄い…。もしかしてお姉さん知ってました?チハル君、私の事何か言ってました?」

「あ、…えと、うん。小学一緒だった子がいたって。私も知ってるかもって」

「ふ~~ん…。そうなんだ。なんか女子がチハル君見て騒いでるのを見るとムカついちゃうんですよね私。私なんか小学ん時から知ってんのにって思って」

そう言って、へへっ、と笑うマイちゃん。


 「温泉に旅行に行くって言ってたんですけどチハル君」とマイちゃんが言うのでドキッとする。

 結構喋るな、この子。初対面じゃないけど、むかしもそんなに絡んだ事はなかったのに。

「付き合うのは速攻断られたんですけど、じゃあ1回ゴールデンウィーク中にデートだけして欲しいって言ったら、家族で出かけたりするからって。写真送ってって言ったんですけど、それも送ってくれなさそうなんで、お姉さんからも送ってくれるように言ってください」

「あ~~うん、まあ…でも私の言う事はあんま聞かないよ」


 「なんかチハル君」とまだマイちゃんは話を続ける。「小学一緒だった子は他にいないから、私がいたのがわかった時、もっと懐かしがったり喜んでくれたりすると思ったのに全然だったんですよ?告っても『あ~~、ごめん』てすぐ言ったし。ひどいと思いません?」

「う~…ん…ひどいね」

「やだお姉さんもですよ~~~」とマイちゃんに言われてまたドキッとする。「もっと『あぁっ!!』みたいな感じで覚えてて、懐かしがってもらえるかと思ってました。もう~~…ちょっとショックですよ~~」

 見かけはクールな感じなのに、結構くったくなく喋る子だ。

「うん、ごめん」と謝る私。

 それに答えてふふっと笑うマイちゃん。あ、笑うとちょっと幼い感じが出て可愛い。


 「なんかほんとうらやましいな…」微笑むマイちゃん。

「…何が?」

何言われるんだろう…ていうかチハルがすでに私の事を好きだとかこの子に言ってるんじゃ…

 マイちゃんが続ける。「引っ越してきた頃も、クラスの子たちが放課後遊ぼうって言うと、『姉ちゃんも帰って来るから』って答えてて、姉弟でちょっとずつこっちに慣れていくようにしてるから、そのうち一緒に遊ばして、みたいな事言ってて、今もまだ仲良いし、私兄弟がいないからすごく羨ましいんです。…でもチハル君が世話やいてる感じで言ってたから、みんな『姉ちゃん』て聞き間違えで、最初は妹がいるのかと思ってたんですよ?」

 ダメなやつじゃん私。こっちに越してきてすぐは、私がすごく人見知り起こしてたから。

「あ~~…」しかまた言えない私。

「お姉さん、私!結構小学からほんとにチハル君の事気になってたんです。だからあきらめないでこれから頑張ってアピっていきますからよろしくお願いします!」



 

 そして夜9時過ぎにヒロセから電話があった。

 電話が鳴ってヒロセの名前を見て、ひるむ私だ。どうしよう何言われるんだろう…

 ドキドキしながら出ると、「キモト」とヒロセに呼ばれる。

「…うん」

「なんだよ、なに元気ない声出してんだよ。今日もずっとオレの事見て来てた割には話しかけてこねえし」

「…」

「ていう文句の電話」

「…」

「いやもうキモト…そんな無言でいられると、オレが本気で文句の電話かけてるみたいじゃん困るわ。あのほら…日曜のアレがあったからこの電話、オレがどんだけ勇気出してかけてるか想像してみ?」

わかってる。だから私だってこの電話に、うわぁって思ったし、ずっと学校でも話しかけられなかったし、ラインだってスルーされたらもうチラ見すら出来なくなるかもと思ったら…

「…だって…なんか…いろいろ…」

答えながら『はっきりしないなぁ!』と自分で自分を怒鳴りたくなってくる。

「前さぁ、」とヒロセ。「オレが話しかけにくそうな時にはキモトから話しかけて来てって、オレ言ったじゃん」

「…うん」

前、ヒロセを意識し始めた頃、ふざけた感じでそう言ってくれた。


 が、「今日キモトの弟が、」とヒロセが言うので胃がぎゅうっとしてくる。

「部活終わった後オレんとこへ来た」

 やだもうチハル何を…

「わざわざ『旅行に行きます』って言いに来た」とヒロセが言う。「そいでオレが前言ったように、キモトが困るような事はしないから取りあえずこの旅行だけは、ばあちゃんも楽しみにしてたから心配しないで行かせて欲しいって」

「…」

「その他にもいろいろな!いろいろ言って来たけどアイツ」

「何を!?」

「いや、それは言わない」

「なんで?チハル、何言って来たの?またヒロセに嫌な事…」

「なあほんとに!…ほんとにキモト、ちゃんとしろよ?ちゃんとしろよって言う言い方おかしいけど、アイツを気まずさとか親に対する遠慮とかで甘やかしてなんでも受け入れるなよ?」

「うん」

「すげえ心配してんだからな。それに…」

その後をヒロセが言わない。

「それに何?」不安になって聞く。

「何でもない。とにかく気を付けて行ってきて。…あ、写真とか途中で送って」

「うん!」

「弟が写ってないヤツな」

 



 

 

 



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