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ヒロセと寄り道

 「なぁキモト」

「け?」

「ハハハ!」ヒロセがデカい声で笑った。「『け』って何だよ、『け』って」

「ちょっと!笑い声デカい!」

 チハルの話をしているのを聞きとるのに気を取られてぼんやりしてたから変な声が出たのだ。椅子を運びながらヒロセを睨み付ける。

「お前の弟すごかったじゃん」

「うん」やっぱり誇らしい。

 

 けれどヒロセに愚痴を言う。「でも私、挨拶の役なんかするの全然知らなかったんだよ」

「マジで?なぁ、この後親と帰んの?」

「いや、先に帰るよ。待つの長くなりそうだから」

帰りくらいは母と弟だけにしてあげたい気もするし。

「なあ…キモトが嫌じゃなかったらだけど、帰りにどっか寄って帰らねえ?」

「…私と?」

ビックリ。

「うん。ていうか何?そんなに驚いた顔されるとオレちょっと今心折れるわ」

「あ、ごめん。ビックリしたから」

「だからビックリしたのはわかったっつうの。さらに口に出して言うな」

「…ごめん」

「いいから。行くの?嫌なの?」

「え…」

「やっぱ嫌なん?」

「…ううん」

「ふうん。じゃ、終わったら体育館の前な」



 ヒロセに急に誘われた…

 本当に実際ビックリしている。

 一緒のクラスだけれど成り立てだし、中学の頃に話した事もあったけれど、こんなに一度にたくさん話したのは今日が始めてだった。

 気を使って話易くしてくれているヒロセだけど、帰りに寄り道まで誘ってくれるなんて意外。本当にビックリ。でも嬉しい。

 約束通り体育館の前の右側の方にある柱の脇にヒロセが先にいた。

 なんか…やっぱりちょっと恥ずかしい。本当にデートみたいだよね。ニヤニヤしちゃいそうだけど我慢しないと。ヒロセはただ普通に寄り道で誘ってくれてるだけなのに。



 それでも黙って近付いて行くのが恥ずかしくて、「ヒロセ」と呼ぶと近付いて来てくれた。

「なんかどっかに寄るっつったけど、」とヒロセも少し恥ずかしそうに言う。「女子と帰りにどっかに行くとかした事ねえからオレ。誘ったはいいけどどこ行ったらいいかわかんねんだけど、どうする?」

「私だって分かんないよ。私、家が近いから、女の子の友達ともあんまどこも寄った事ないよ」

「そっか…じゃあどこ行きたい?」

 つってもねぇここからじゃ駅ビルの中にあるアイス屋さんとかクレープ屋さんとか?でもヒロセ、アイスとかどうなんだろ…女子の私と二人でアイスとか…嫌じゃないかな。嫌っていうか恥ずかしいよね。なんかちょっと、本当にデートみたいじゃん。



 一応聞いてみる。「でもヒロセもお母さんと弟が帰ってきたら一緒にご飯食べるでしょ?」

「いやぁ、そんな別に。弟もどっか帰り行くんじゃね?中学からのツレとかもいるから」

そっか、そうだよね。チハルみたいに他の地区の中学校から来ている子の方が珍しい。チハル大丈夫かな。友達、すぐ出来るかな。心配して上げられるほど私も友達多くはないけど。小学で一緒だった子がここにも来てるかもしれないな。



 「けど、こんな」とヒロセが照れながらも言ってくれる。「こんなん一緒に行く機会、そんなないかもしんないから行っとこ」

そんな事言われると今までヒロセの事全く意識してなかったのに、なんか赤くなってしまう私だ。私まで照れてしまう。

 それにしても誘ってくれるのうまいな。相手が特別だとも、無理してる、とも思わないように感じ良く誘ってくれる。

 結局私も考えていたように、アイスを食べに行く事に決定。

「ねぇヒロセ…ほんとにアイスでいいの?恥ずかしくない?私と二人でアイスとか」

ぶんぶんと首を振りながらヒロセが言った。「超恥ずかしい」

ハハ、と笑ってしまう。「今首振ったのに」

「いや、恥ずかしいけど…勢いで行っとこ。お前こそオレと二人とかほんとは嫌なんじゃねえ?さっきすげえビックリした顔してたし」

ぶんぶんと私も首を振った。「嫌じゃないよ。やっぱすごい私も恥ずかしいけど」



 私は砕いたアーモンド入りのキャラメル味のアイスを、ヒロセはマシュマロ入りのチョコレートのアイスを頼んだ。

 端のテーブルにカップ入りのアイスを持って二人で腰かけるのもちょっと恥ずかしい。男子と二人でこんなの初めてだ。本当にデートっぽい。

 一口食べるとまだ自分のアイスに手を付けていないヒロセが言った。

「なぁ、ちょっと味見したい」

「え?」

「オレもそっちと迷ったんだよな。オレまだスプーン、口付けてねえから一口味見させて」


 ここで変に断るのもカッコ悪いよね…すごく意識してるみたいに思われるかも。

 なので「はい」と普通の顔でカップ入りのアイスを差し出す。

「うま!」と私のキャラメル味を口にしたヒロセ。「キモトも味見する?」

「…私もうスプーン使っちゃったから」

「いいよ」

え?


 普通に何でもないように、いつもしてます、みたいな感じで、「ほら」とヒロセが自分のカップを差し出してくれるけど、さすがにそれはどうかな。私本当にスプーン1回口に入れちゃったんだよね。

「いいよ、オレ気にしないから。つってもキモトが嫌か」

「ううん」慌てて言った。「嫌じゃない、ありがとう」

サクッと一口スプーンですくってサッと口に入れた。

 美味しい。けどすごく恥ずかしい!


 アイスを食べながら他愛もない話をする。

 中学の時の話とか、お互いの友達の中で相手も知ってそうな子の近況を教え合ったりとか。

 恥ずかしかったのにすぐに普通の感じに戻れて話が続くのは、ヒロセが話易くて、話うまくて、私の話も良い感じで聞いてくれるからだ。

 それでラインを交換する。

「うちの学校スマホ使えないじゃん校内で」とヒロセ。

「うん。結構みんなきっちり守ってるよね」


 私の通う『やまぶき高校』には携帯電話の使用を校内では一切禁止する、という校則があって、破ると校長室で1日、校長と二人きりで過ごしながら反省文を永遠と書かされる。その反省文に合格すると保護者も呼び出され、保護者の前でそれを読まれた挙句に保護者もさらに反省文を書かされるらしい。

 ヒロセが言う。「なんか、付き合ってるやつら、ケイタイないと最初は連絡に不便だって言ってたけど、相手のクラスまで行って約束したり、相手がわざわざ自分のクラスまで会いに来てくれたりするのがいいとかって言ってるよな」

「あ~私も聞いた事ある」



 そう言ってるうちに母から電話が来た。今家に帰っている途中らしい。今日はおばあちゃんも呼んでみんなでうちで食事をするからと母が言う。

 ヒロセにもちょうど同じような連絡がラインで来て、私たちはそこで別れて帰った。




 





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