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やっぱやだ?

 母をじっと見つめる。

「おばあちゃんてその…」聞きにくいが聞く。「チハルが私の事をその…キョーダイとしてじゃなくて好きだって知ってるんでしょう?なのになんでみんなで行こうとか…」

おばあちゃんは私たちの事を子供扱いして、チハルの『好き』がなんとなく可愛いものだと思ってるんじゃないの?

 ハハハ、と母が笑って言う。「知ってる知ってる」

笑いごとじゃないと思うけど。


 「おとといおばあちゃんとこ行ったら、」と母。「おばあちゃんそう言い出したから、それでチハルにはまだ言ってないって言ってたんだけど、それでも本当はチハルが言い出しておばあちゃんに言わしてんのかと思ってカマかけたのよ。おばあちゃんがいる前で、お父さんは連休中出張で私はおばあちゃんと親戚のうちに行くからって。チナちゃんは友達のうちに泊まるらしいからあんた一人で大丈夫かって聞いたら、大丈夫って真顔で答えた。まあもちろんチナちゃんが誰の所に行くかってすごい聞いてきたけど。おばあちゃんが言うには、家族で行くんだからチハルがいくらうまくやろうとしても簡単にチナちゃんに温泉で手は出せないだろうって」

 『温泉で手を出す』っていう表現止めて欲しいな。

 一応聞きにくいが聞いてみる。「それはあの…ごめんなさい。おばあちゃんとチハルが口裏合わせてるとかそういう…」

「あ~それはない」言い切る母だ。「おばあちゃんのウソは見抜けないけど、チハルのはすぐ見抜ける」

そう言って意味ありげに私をじっと見つめる母。

 …それは私の嘘もって事?

 怖過ぎる。



 祖母との旅行は家族に成り立ての頃と私が中1、チハルが小6の時以来だ。その時には父と母が交替で運転して、普通車でちょっと狭かったけど、後ろにおばあちゃんを挟んで私とチハルが座って、おばあちゃんが持って来てくれたお菓子を食べて…楽しかったな…


 「やっぱやだ?」と母。

 やだって言うか、それは禁断モノのマンガでいうとお約束のやつじゃん。想いを隠したままの家族旅行とか、二人の想いを知らない親が法事に出かけて家に二人きりとか、嵐の夜に親の帰りが遅れて一挙に想い爆発!とか…考えながらもしらけている私だ。うちはみんな知ってるもんね。チハルが私をどう見てて今どう想っているかを。それなのにその家族と旅行とか、どんな顔で行くんだ私。

 「部屋も女子組男子組に別れるから心配いらないよ?」と母。「まあ心配いらないよって言ってる時点で家族としてはまあまあおかしいけどね。ちなみにお父さんは行く気満々だから。ほら、去年行った時にはチハルが行かなかったから。家族みんなで行きたいんだってさ。息子と男同士でお風呂入りたいんだって。チナちゃんの気も知らないでね~~」

「…」

「やっぱやだ?」

せっかくヒロセがまた誘ってくれてるのに。


 「どうしよう…」と母がちょっと高めの声で言い出す。「私を好きだって言ってる弟と家族旅行…お母さんはああ言ってるけどチハルに何かされるかもしれない…」

あっけに取られて母を見つめるが母はちょっと高めの声で続ける。

「私が行かないって言ったら義理の母は気にするし…何より言い出したおばあちゃんに悪い。お母さんの方のおばあちゃんだから私と血がつながってない分余計、一緒に行けない事をおばあちゃんは嫌に思うかもしれない…って事考えてんでしょチナちゃん?」

そうだけど…。「…お母さん、私の状況を面白がってるでしょ?よくそんな…」

「それで」とまだ母は続ける。「こんな事ヒロセ君にバレたらどうしよう…ってとこだよね?」

その通りです。ヒロセには家族ではどこにも行く予定ないって言ったのに。


 母が言う。「チナちゃんがどうしても嫌ならチハルをはずそうか?」

「え?」

「チハルだけ残してさ、後4人で行こ。だって私チナちゃんに行って欲しいもん。一緒にお風呂に入りたい」

「そんなの!おばあちゃんがうんて言わないよ。チハルが行った方がいいよ、私が残る」

「あ、やっぱチハルと一緒は嫌なんだ?でもダメです。おばあちゃんと私とチナちゃんで温泉入って女子会するんです。お酒たくさん飲も!あ~~チナちゃんもお酒飲める歳だったらな~~」

「…」

「ね?そうしよ?チハルをはずそう。あいつ急に機嫌悪くなって雰囲気ブチ壊したりするし」

…お母さん…私にどうしても一緒に行くって言わそうとしてるでしょ?


 小首をかしげてニッコリと笑い私の返事を待つ母。

「…チハルは何て言ってるの?」

「いや、チハルにはまだ話してない。チナちゃんが本気で嫌がったらやっぱダメだと思って」

「お母さん…私…ヒロセと連休中に会う約束したの。それでね、話したのうちの事。今までこっちに越して来てからはチハルと義理の姉弟だって誰にも言ってなかったんだけど、ヒロセとサキちゃんには話したの」

「そっか。それで?ヒロセ君はチハルに負けないように頑張ってくれるって?」

そう言った母を無表情で見つめる。

「頑張ってくれないの?」

「…お母さんは本当のところ、私とチハルの事をどう思ってるの?」

「ふん?じゃあチナちゃんはどう思ってるの?ヒロセ君とチハルの事。ヒロセ君の彼女になりたいんじゃないの?」


 ヒロセの彼女に…なった自分を想像した事はもちろんある。

 おはようって言って、休み時間もそれとなく二人窓際とかで話したりして、宿題見せ合ったり二人きりでお弁当を食べたり、どこか行く約束をしたり、ヒロセの部活を覗いてみたり試合の応援に行ったり、夏祭りに浴衣で行ったり、夏休みに泳ぎに行ったり、体育祭でハチマキ交換したり、文化祭で一緒に回ったり…クリスマスやバレンタインだって…

 想像したどのヒロセも優しくて誠実に私に対応してくれた。でもチハルの事をバラすまでの話だ。ヒロセは最初から教えて欲しかったって言ってくれたけれど、最初から教えていたらここまでヒロセと近付けなかったと思う。


 「早くチハルに彼女が出来たらいいのに」

つい口に出して言ってしまった。

「あ~~…」と母。「そうかもね。そしたら安心してヒロセ君と付き合える?」

「安心は出来ないよ。ヒロセとだってずっと仲良く出来ないかもしれないし。お母さんがこの前言ったように、ヒロセみたいな良い子、私よりちゃんとした子にもいいなって思われて、誰かに先取りされるかもしれないし。私すぐに負けてしまう」

ネガティブな私を母が笑う。そりゃ笑われるよね。付き合う前からこんな事言ってたら。

 「でも私は嫌かも」と母が言う。「チハルの見た目だけで寄ってきた子に『お母さん』とか言われたら」

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