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言ってしまった

 ヒロセとサキちゃんと、3人で中庭に向かいながら私は胃が痛い。

 昨日家にまで来てもらっておきながら、そして今もチハルに対するヤキモチみたいな事まで言ってもらいながら、私とチハルの事をまだちゃんとヒロセに説明しないでいる事が、恐ろしくズルい事をしている気になる。

 …いや、実際すごくズルい事だと思う。チハルにされた事は流したまま、ヒロセと仲良くなりたいと思い続けてもいるんだから。



 天気が良いので、中庭には結構各学年から生徒たちがお昼を持参して出て来ていた。

「よし!あそこにしよ」とサキちゃんが校舎下の花壇を指す。

下の石段があってそこには周りに人がいないし、木陰になっている。

 腰をおろし弁当をゴソゴソ開けると、サキちゃんがまた「よし!」と言う。

「いいよヒロセ。話したい事を話していいよ」

そうは言いながらサキちゃんは私とヒロセの間に座っている。私がサキちゃんの左側、ヒロセが右側。

 

 ヒロセがため息をついてから言った。「あ~…なんでオレ、ワタナベもって言ったかな…キモトと二人で話したかったわ…しかもお前真ん中入るってどういう神経してんだよ」

「いやいやいやいや」真顔で答えるサキちゃん。「私がいた方が絶対良いって」

 しばらく黙る私たち。

 食べにくい。食べにくいしサキちゃんが黙ったら超気まずい。

「なあキモト、」とやっとヒロセが口を開いたと思ったら「何買った?」と聞く。

真ん中のサキちゃんを飛び越して私を見ているヒロセを見る。

 何買った?…何も買ってない。うちから、持ってきた弁当しか持ってない。

ヒロセが私から目を反らして言った。「土曜日、弟と二人で何の買い物したのかって聞いてる」

「…!…なんで知ってんの?」

「オレはツイッターやってねえんだけど、弟がやってて1年で回ってたツイート見て教えてくれた。なんか姉ちゃんに買ってもらってすげえ嬉しそうにしてたって弟」



 恐ろしい!

 買い物してる途中であったチハルのクラスメートの女の子たちかな…いや、買ったのはその前だから…じゃあ他の誰かにも見られてて、それ、流されたって事?…ほんと嫌ホントに…

「ほんと!」とヒロセが大きめの声で言ったのでビクッとする。「仲良いな!腹立つわ。昨日もキモトの弟突っかかって来るし、まあ姉ちゃんすげえ好きなんだなって、ちょっと気持ワリいくれえだけどしょうがねえなって。で弟が言って来てなんか腹立つわでもオレが腹立ててもなって思ってたところにわざとらしく2年のとこまで辞典借りに来てまた昼休みに返しに来るっていうのを聞いてたらなんか知らんもう沸々と腹立ってきたわ」

勢い込んで機嫌の悪さをまくしたてるヒロセ。


 「そいで?」と今度はちょっと笑ったヒロセが聞く。「何?何買ってやったの?」

「…部活始めたから、それで誕生日だからリストバンド欲しいって言うから…」

小さい声で答える私。

「へ~~」とサキちゃん。「やっぱ、あげたんだ?あげるの止めたみたいな事言ってたのに」

「他に…プレゼント思いつかなかったし」言い訳をする私。

「彼女みたいじゃん」とヒロセ。

「そんな事!…そんな事ない…」

でもヒロセは言う。「わざわざ高校生の姉弟が二人でショッピングモールまで誕生日プレゼントを一緒に買い物に行くなんて、ほんと、そりゃ仲良過ぎだよ。しかも部活に使うリストバンド買ってもらうってオレだったらありえねえ、気持ち悪い」

…あ…やっぱ気持ち悪いって言われた…



 「昨日も思ったけどさ」とサキちゃんが弁当をパクつきながら言う。箸が進んでるのはサキちゃんだけだ。そして私にではなくて、ヒロセの方を向いて喋っている。

「なんかチナの弟」とサキちゃんが続ける。「可愛くはないよね」

「可愛くねえよ全然」と被せるように言うヒロセ。

「もっと可愛い感じで姉ちゃん好きかと思ってたけど、重いしさ、なんか絶対他人に取られたくない的な感じを隠してなさすぎるっていうか、それもまあドキドキはするけど、あんまり過ぎるとちょっとねえ」

「なんでキモトはそれ、嫌がんねえの?」

ヒロセ…

「なんか話変わるけどさ」とサキちゃん。「なんで弟クンは自転車で来てんの?」

「えっ!」

驚いた私をサキちゃんの向こうからヒロセがマジマジと見る。

「「なんでそんなに驚く?」」と二人が同時に私を見ながら言った。

サキちゃんがもう一度静かに聞く。「チナんち歩き通学のはずなのになんで弟クンは自転車で来てんの?」

 …どうしよう…


 「いや、あの…おばあちゃんとこに住んでるから…うちの弟」

どうしよう…

夕べの夢の中の小さいチハルが頭に浮かぶ。切ない顔をした小さいチハル。私が近付けない車の中にいたチハルだ。

 このまま本当の姉弟として気持ち悪がられるよりは…

「それはどうしてだか聞いてもいいやつ?」とサキちゃんが聞く。

でも義理だってバレて、しかもチハルがあんな感じで私に絡んで来てたら、余計にたくさんの人から変な注目を浴びてしまう…それできっと、ヒロセからは敬遠されるのだ。…いや、もう結構みんなに気持ち悪がられているから、そんな情報まで回されるんだ。




 「うち、義理の姉弟なの」

言いながら、あ、と思う。思ったよりもすんなりと口から出た。

「親が再婚で、血がつながってなくて、それで今はチハルだけおばあちゃんちに住んでる」

あ~~…言っちゃった…。言っちゃったよ。

「やっぱね!」とサキちゃん。

「やっぱな」とヒロセ。

サキちゃんが言う。「おかしいと思ったんだよ。いやマジでそうじゃなきゃ気持ち悪いもんね!逆にホッとしたよ。良かった良かった」

「全然良くねえよ!」

言い放ったヒロセが弁当を無造作に片付けながら言った。



 「何か許せねえわ」立ち上がったヒロセが私を真っ直ぐに見て言うので怖い。「そういうの、ちゃんと言ってくれりゃいいじゃん」

「…ごめん」

「ごめんとか言われるのもムカつく。腹立つわ。キモトの弟…だからオレの事すげえ敵視してたし、ちょっと勝ってる感出して来てたわけか」

「…サキちゃん…ヒロセも、あのゴメン、…他の人には言わないで欲しいの!」

「言ったら騒がれるから?」とサキちゃん。

「腹立つわ」またヒロセが言った。

「サキちゃん、ほんとに他の人には言わないでいて」

「そんなの意味ねえよ」とヒロセ。「それ、弟に言えばいいじゃん。あんな風だったらみんなおかしいと思うし、そのうち弟が自分で言い出すんじゃね?姉ちゃんを他のヤツに取られたくなくて」



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