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そんな事ない

 「あ~~」と言いかけるチハルを今度は無視してヒロセに言うサキちゃんだ。

「ヒロセ、家まで送る気だったんでしょ?チナの事」

「…あ~~」と今度はヒロセが言いかけて私を見た。

「いや、」とチハル。「大丈夫ですよ。オレが送るんで」

ふん?とサキちゃんとヒロセが顔を見合わせ、「「送る?」」と聞き返す。

 「あ、」とチハル。「いや、オレが一緒にいるんで」

「いいじゃん」とサキちゃん。「私一人だと気まずいからさ、ヒロセも一緒にチナんち行こうよ」

「いや、サキちゃん、ちょっと待って、今日うち親もいるし…」

私たちが家を出る前にあんな感じだった父と母の前に、サキちゃんと、そしてヒロセを連れて帰ったりしたらどんな反応を示すのか怖い。



 「いいよ」とサキちゃん。「キモトキョーダイのチチハハ見たい」

「ワタナベ、」とヒロセが呆れたように言う。「そんないきなり訪ねたらやっぱ迷惑だと思うけど」

「え~~。うちにチナが突然来ても私、すごく嬉しいけど。チナは嫌なの?」

そんな言い方されたら絶対嫌とか言えないじゃん!

 それにチハルと一緒じゃなかったら普通に嬉しいんだと思うんだけど。

 「じゃあやっぱ遠慮しようかな今日は」とサキちゃん。「ごめん、ヒロセ呼び止めたりして。チナがさ、ヒロセの事呼び止めようかどうか迷ってたから」

「キモト…」とヒロセが何か言いかける。

そのヒロセを見つめてしまった。

 

 「チナ」とチハルが言う。「どうすんの?連絡しといたら母さんたちに」

 …母に連絡したら、絶対ヒロセを連れて来いって言いそう。あんな…『チハルでいいの?』って血迷った事言い出して来てたけど、でもヒロセの話をしたら、絶対連れて来いって言うはず。

 「ほら」とサキちゃんがオレンジ色に黒い大きな犬の絵がのったエコバッグの中を見せた。

「おみやげも持ってきたのに~~。うちの店のやつなんだけど、ロールケーキ」

サキちゃんの家はケーキ屋さんなのだ。



 …もう連れて行くしかない。サキちゃんだけだとチハルとの事を根ほり葉ほり聞いて来そう。母たちにまで臆面もなく聞いてきそう…

「あの、」と私。「ヒロセも良かったら寄ってくれない?」

「いいの?」とチハルをチラッと見るヒロセ。「なんか…弟が嫌がってる感出してるけど」

「そんな事ないよ!」慌てて言う私だ。「さっきはすごく感じ悪くて本当にごめん」

「もう…またキモトがそんな風に」

ため息をつくように言うヒロセだ。

 「サキちゃんだけだとアレだからヒロセも来て」と私が言うと、ヒロセが返事をする前に「アレって何?私だけだと何でマズいの?」とサキちゃんが聞く。

「うちに来たら」とチハルがちょっと笑って口を挟んだ。ヒロセに向かって言っているのだ。

「本当にキョーダイ仲良いのがわかって、ヒロセさん嫌になると思いますよ」

「そんな事ない!」

私が大声で否定してしまって、ヒロセとサキちゃんがビクっとした。

「へ~~」とヒロセ。「なんかオレもいろいろ確認したくなってきた。どっちにしろ送りたかったし、行くわオレも」




 4人でだらだらと歩く。チハルは自分の自転車を、ヒロセが私の自転車を押してくれた。

 そしてしばらく行ってサキちゃんが、「ヒロセ、後ろ乗せて!」と言う。

「「え…」」言った私とヒロセが顔を見合わせてしまった。

「ウソだよ」とサキちゃん。「チナ、早くヒロセの後ろ乗りなよ。私、弟クンに乗せてもらう。いい?」

「あ~~…」少しためらいながらも答えるチハル。「はい、どうぞ」

「ふん?」とヒロセも押してくれていた私の自転車にまたがり、私が後ろに乗るのを待つ。

 

 …あ、ダメだ私…チラッとチハルを見てしまった。チハルがまたヒロセに何か言い出すんじゃないかと思って…。

 それに気付くチハル。何か言うかと思ったが何も言わない。そしてそれをサキちゃんにも見られる。

 バカだ私。

「ほら」とヒロセが言った。「横乗りして、オレの腹に手を回して」



 ヒロセのお腹に手を回す…

 なんか…だめだ、いきなりキャパオーバーだ。私はこんなにバカなのにやっぱり嬉しいし恥ずかしいし、今は静かなチハルの反応が怖いし、サキちゃんが笑ってるし。

 それでも言われた通りにする。わ~~、わ~~、わ~~、と心の中で慌てふためきながら。

 乗った!ヒロセと二人乗り。好きだなって思う男の子とこんな風に二人乗り、ずっとしたいと思ってたんだけど…もろもろの気持ちで尋常じゃなく心が揺れて、嬉しい気持ちもぎくしゃくしている。

 もったいない。こんな事もうないかもしれないのに。






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