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ごっつんこ

 「告られた?」とチハルが声を押さえて聞いてくる。

ドキっとする。

 好きとは言われてないけど、大事だってヒロセは言ってくれた。

 妹がいたとしてもオレはキモトを大事にするのにって言ってくれたのだ。それは私たちが付き合ったとしてっていう事が前提になってるんだよね?そうとっていいんだよね?私を好きだと思ってくれているから、そんな事言ってくれるんだよね?

 それでもチハルが笑っているのがムカつく。今チハルが私を好きだと思ってくれているからなのはわかるけれど、それでもヒロセに態度が悪過ぎだ。

「ヒロセが勉強してるとこ邪魔して悪かったって、あんたに言っといてって。あんたはヒロセにすごく態度悪かったのに…」

私も声を押さえて話す。



 「へ~~…なんか余裕見せてくるじゃん。で?告られはしなかったの?」

「…」

「告られたんだ?」

小さく首を振ってから答える。「ヒロセは簡単にそんな事しない」

「ふ~~ん。で?ヒロセさん帰ったの?」

黙ってうなずく私だ。そして私は一旦腰かけた椅子から立ち上がり荷物をまとめにかかる。

「なに?」とチハルが言う。「やっぱヒロセが待ってんの?」

「違う。もう勉強はいい。帰ってする。先に帰るから。あんたはおばあちゃんちに直接帰るの?」

「なに急に」とチハルが目を見開く。「告られはしなかったけどヒロセと何かあった?」

「ヒロセさんね!あんたが呼び捨てにすんな。何もないよ。あんたのせいで何もなかったの!」

「あそう。ならいいんだけど。よしじゃあ帰るか」

「あんたはまだ勉強すりゃいいじゃん」

そう言った私を見つめるチハル。「何か言われたの?オレとの事」

オレとの事って何だっつうんだよ。

「何も」と答える。「全然何も」

言われたけどね。教えないよ。

「じゃあ」とチハルが聞く。「もしかして話したの?オレとの事」

「話さない。話すわけない」

 だからオレとの事とか言うな。気持ち悪い。



 「…ちょっと話そうかと思ったけど、話せるわけなかった」

「ん。ならいいんだけど」

「何がよ?なにがいいの?あんたほんと、どういうつもりなの?」

少し大きめの声を出してしまい、周りの子たちがチラッとこちらを向く。その様子で少し離れた所にいた学習室の監視役の、30歳くらいの司書の女の人もこちらを怪訝な顔で見ている。

 「じゃあね!」と突放すように言って、私は片付けたカバンを持ち学習室を出た。





 ヒロセ!

 図書館を出て、自転車置き場に向かおうとしてその向こうにある自販機の前にいるヒロセを見つけた。

 ヒロセ、まだいた。

 ヒロセは自販機に小銭を入れながら、電話をしている。今呼んだら電話の邪魔だよね…それで呼んでどうする。さっき一旦別れたのに今また呼び止めて、わざわざ私とチハルの事を今さら話すのか…

「私…弟とヒロセ、どっちを取ったらいいんだろ…」

ふいに気配もなくそう耳元でささやかれて驚いて振り返り、私は頭を思い切りぶつけた。




「「いぃったっ!」」

打った相手と同時に叫んで、打ったところを手でさすりながら見た相手はサキちゃんだ。

「サキちゃん!?」

「いったっ!もう~~チナ、バカじゃんゲロ痛い」

サキちゃんも頭をさすっている。


 もちろんサキちゃんの突然の登場に驚いている私だ。「サキちゃん!?」

「見に来た」

「…何?」

「後輩のツイート見て、見に来た」

「後輩!?」

「『デライケメンに数学教わった。来年やまぶき高校受験します!』ってやつ。近くに中学生いたでしょ?あれ中学の時の後輩」

あのムスメたちが!?サキちゃんの後輩…恐ろしい。サキちゃんの情報網と私の世界の狭さが恐ろしい。

「他にも様子上げてる子たちがいて、『お姉さんと図書館来てるイケメン』て。これは絶対チナ達の事だと確信して超急いで覗きに来た…ヒロセ~~~!!」

「サキちゃん!!なんでヒロセ呼ぶの!」

「ヒロセ~~~!」手を振るサキちゃん。

私たちに気付き、「お~~~~~」と言いながら、そして買ったばかりのジュースを手に持ってこちらへ戻って来るヒロセ。

「どうした?ワタナベも来てたの?」

「うん今来た。キモトキョーダイを…」

「サキちゃん!」

慌ててサキちゃんを止める。

「どうした?」とヒロセが笑う。「ワタナベもキモトキョーダイの仲裂きに来たの?」

「へ?」とサキちゃんが驚く。

「キモトんちほんと仲良いからな。腹立つくらい。偶然会った同級生より俄然キョーダイ優先だから」

「それってヒロセの事?」

「そう、オレの事!」

口調から冗談のつもりで言ってくれているのはわかるけれど、胃が痛い。

 サキちゃんが笑った。「それはヒロセの押しが弱いからじゃないの?早くチナに告ればいいのに」

 わ~もうサキちゃん…なんで来たかな。

 そう思って睨んだのに、サキちゃんは返って面白そうに「ねえ?」と私に振ってくる。


「ほらヒロセ~~」と面白そうに言うサキちゃん。「チナもこんなに可愛く顔赤くしてんのに…」

「姉ちゃん!」

 あ~…チハルまで出て来た…もう~~~



「サキさん、こんにちは」

さっきのヒロセへの態度からは考えられないような明るく行儀の良い挨拶をサキちゃんにするチハル。案の定ヒロセが、何だこいつ?、っていう顔で私を見てから、チハルに言った。

「悪ぃな弟。まだいたわオレ」

「弟クン、こんにちは!」サキちゃんが恐ろしく明るい笑顔で言う。「今から家に遊びに行ってもいい?」

「「え?」」

サキちゃんの突然の要望にチハルと声を揃えてしまった。

チハルが私に目で確認する。いや、私だって今驚いてるって。

首の代わりに目をちょっと揺らして『断れ』と合図する私。





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