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想像

 学習室の中を見渡し、「私あっちに座るけど」と端の方の中学生らしき女子がすでに3人腰かけている6人がけのテーブルを指す。

「お~」と言ってついて来ようとするチハル。

「あっちに座んなさいよ」男子が多めのテーブルを指して言う。

「そんなの一緒に来た意味ねえじゃん」

「…何言ってんの?意味なんかないよ。一緒に来ただけだよ」

そう言うと、チハルは私を少し睨みつけてから、私が座ろうとしていた席の方へ先に行ってしまう。

 …もう~~~。

 急にチハルに声をかけられ前に座られて慌てる中学生女子。その子たちをしり目にチハルはパッと私の方を振り向いて無言で手まねきした。私の方を見て、とたんに湿気た顔になる中学生女子。

 無視したら呼ばれちゃうのかな。呼ばれたくはないな。



 チハルの隣にしぶしぶ腰掛ける。6人がけのテーブルの左端にチハルは座っていて、その隣が私。私の横と前、その左横に女子中学生だ。チハルの前には誰もいない。

 軽く会釈をして腰かけると女子3人にガン見される私だ。「え、隣?」と中学生の小さい声。

「「「向かい合わないんだ~~」」」


 うわ…と思いながらカバンからプリントとペンケースを取り出して前を向くとまだガン見だ。横からもガン見。

 なんとなく言いたい事はわかるけど。

「チハル」

女子たちの目を避けるようにチハルを呼ぶ。こいつは私の彼氏じゃない、っていうのをまず知らしめないといけない。この3人のムスメたちに。

「シャーペンの芯ちょうだい。お姉ちゃんに」とわざとらしく言ってみる。

 チハルが怪訝な顔で私を見たが、良かった、ムスメたちのガン見の対象が私からまたチハルに移った。



 しばらくしてムスメたちの一人に声をかけられる。私の隣にいる子だ。

「あの…高校生さんですよね?キョーダイ…なんですか?」

その子は私越しにチハルを見ている。

「そうだけど…」と私。

「高校どこですか?」と向かいの子も質問して来た。「私たち中3なんです」

「やまぶき高校だよ」と答える私。

「どこですか?」

その子はチハルにも同じ質問をしたがチハルが答えないので私が代わりに「一緒なんだよ」と答えた。

「「「きゃ~~~」」」とそれでも常識的に抑え気味の悲鳴を上げる良い子たちだ。「「「うちらも受験したい~~~」」」



 「あ、でもキョーダイで高校一緒なんですか?」私の斜め前の子がこっそり、といった感じで聞いてくる。

「うん…まあ」

「一緒の高校で一緒に図書館来て勉強なんて超仲良いんですね~。ゲキうら~~~」

「…なんか萌えるかも」

「いいな~~」

口々に感想を言うムスメたちをチハルがじいっと見つめた。何かと思ったらそっと口に指を当て、「し~~」と注意する。

「「「きゃあ、やだ~~」」」と小声できゃいきゃい色めきだつムスメたち。「「「打ち抜かれた~~~」」」

何言ってんだムスメたち。



 「姉ちゃん」と私に言うチハル。「うるせえから席移動する?」

ムスメたちに対して急激に失礼な口を聞くな、と睨みつける私。たしかに年上にもいやにコミュニケーション能力高そうな子たちだけど、まだそこまでは騒いでないじゃん。

「いや私はここでいい。あんた移ったら?」

私がチハルに言ったとたんに、「「「静かにします!」」」と口を揃えるムスメたちだ。



 カリカリカリカリ問題を解く。

 …というのは嘘で、カリカリ…カリくらいの感じだ。現国や古典はそれでもまだちゃんと解ける方で、数学は教科書とノートを駆使してもあまり応用が効かない。

 前にヒロセと勉強しに来て数学教わった時の事を思い出してしまう。

 …あれは嬉しかったよね。もうないのかなあんな事。…あの時くらいからチハルがちょっとおかしな感じになって、でも昨日の話だとずっと私の事を好きでいてくれたっぽいから…だからチハルはあんな風に…そう、あの機嫌の悪過ぎた中学の時も、私の事が好きだったからあんな感じだったって、それでエッチな事を考える時も私で考えてたって…



 !!!

 何思い出してんだこんなところで!

 そう思ったら、昨日即座に頭から追い出した分余計にいろいろな事がぐるぐると頭の中で回る。

 チハルは想像で私を抱きしめたり触ったりしたわけだよね?頭の中でこの前みたいなキスも…おっぱいとかお尻とかも触ったりとかそれ以上の事も…それは私のこの貧乳で想像してたのかな…って何余計な事まで考えてるんだろう…あ、だめだ。考えたらいけない、うわ、どうしよう私バカなんじゃないの?こんな所でチハルに胸触られるところを想像したんだけど一瞬。

 

 頭をぶんぶん振って、その想像を遠い所へ吹き飛ばす。

 急に私が頭を振ったので、チハルとムスメ3人がビクッとした。だからごまかすために首をクキッ、クキッと鳴らす。首と頭が疲れた振りだ。でも問題とかなきゃと思えば思うほど、チハルが私に頭の中でしたんじゃないかって事を想像してしまう。


 「数学教えてやろうか?」とチハルが横から私の耳元にコソっと言ってくる。

「いや!大丈夫!」

 思ったより大きな声で断ってしまって自分でちょっと慌てる。それにそんな、中3の女の子たちの前で弟に数学を教わるなんていう屈辱はちょっと。

 「いいな~~」「いいよね~~~」「ありえんわ」とぶつぶつ言うムスメたち。「教えて欲しい」「教えて欲しい」「教えて欲しい」と、チハルまでには届くか届かないかの声でブツブツ言い続けるムスメたち。



 …あ、だめだ…やっぱまだ想像してしまうバカだ私!

 ガタっと椅子をずらすと、「なに?」とチハルがすぐに言う。

「トイレ」とだけ言って立ち上がりトイレに向かった。


 何を考えたんだ私。そしてさらに何を考えようとしている私。

 神聖な図書館で。さらにはチハルが横にいるのに。恐ろしい。




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