どうしよう
ちゃんと紹介しろ、という目でチハルを見ると「クラスの」とだけ答える。やっぱり同級生か。
女子3人いっぺんにばあっと挨拶されて思わず半歩引いてしまったが、にっこり笑って「こんにちは」と挨拶する。1コ下の女子たちにしっかりした姉に見られたい。…ていうかこの子たちは、私が姉だって事をちゃんと知っているんだな…
「もう~~」とB。「キョーダイで買い物とか仲良過ぎ~~~」
「ほんとほんと」とC。「一瞬彼女連れてるのかと思ったらお姉さんで安心した」
「チハル君?」とAがチハルの手元を見ながら聞く。「何買ったの?」
「あ~…」と私をチラッと見るチハル。
「「教えて教えて~」」とBとC。
私が買ってやったヤツだって言わないで欲しい。カレカノに間違えられるのも困るが、姉と一緒に買い物に来て誕生日プレゼントを買ってもらってるなんて、クラスの女子から結構気持ち悪いんじゃない?
「ごめん」とチハルが3人に言う。「悪いけどちょっとオレら急いでるから」
「「「え~~~?もう行っちゃうの~~~」」」
あからさまに嫌な顔をするチハル。それには全く動じず、「これからどこ行くんですかぁ?」とちょっと甘えた声で私に聞いてくるC。
チハルは相変わらず愛想がよくなくて、私だったら声かけたくない感じだけど、さすがに女の子3人寄ると強いな。「え~と…」とどう答えようかとチハルの顔を伺ってしまう。
「いいなぁ~お姉さん羨まし~~」とB。「チハル君とお買いもの来れるなんて!ほんと仲良いんですね~~」
んん~~~…「いや、そんな事はないんだけど」
「そんな事あります!」とC。「この間も女子に誘われてたの、お姉さんと約束あるって断ってたし」
チハルをまじまじと見てしまう。止めて欲しいなそういうの。普通に用事があるって言えばいいじゃん。
「お昼もお姉さんとこで食べてるって」とA。
「1回だけだから!」力んで答える私。「1回しか一緒に食べてないよ」
「え~、じゃあチハル君お昼いつもどこ行ってんの?」
「だから」とB。「チハル君、スマホの壁紙お姉さんの写真にしてるって噂まであるんですよ?」
「ウソでしょ!?」
大きな声を出してしまい3人がビクッとした。
チハルを睨んでわき腹をこずくとチハルが3人に言った。「それはしてない」
当たり前だ。気持ち悪い。
「悪いんだけど」とまたチハル。「オレら急いでるから」
「お姉さん」とB。「チハル君、クラスでライン交換したんだけど女子にはなかなか返事くんないんですよ~。なんか、くれても『了解』とかだけで」
「あ~~…そうなの?」としか答えられない私。
でもあれからライン交換するはめにやっぱなっちゃったんだね。
「お姉さんとかだと、ちゃんとすぐに返事帰ってくるんですか?チハル君」とCが聞く。
「しないよ。もともとそんなに連絡しないし」と答える私。「全然無視するよ。自分が用がある時だけ連絡してくる」
「「「え~~可愛い~~!」」」
可愛くないわ!
「いいないいな。どんなですかどんなですか?」勢い込んで聞くA。
「いいから!」とチハルが遮った。「じゃあな、姉ちゃん行こ」
私の腕を掴んで引っ張り先に歩き出すチハル。
「「「きゃあ」」」と女の子たち。
「『きゃあ』って言われてたじゃん、あんた」
チハルの掴んだ手を振りほどきながら言うと、ああいうのは嫌いだと本当に嫌そうに言う。
「嬉しくないの?」
「オレが一人の時にあんな感じで声かけられたら仕方ねえって思うけど、ツレがいる時にああいうのはウザい」
そっか、結構まともな答えだな。
それにしてもこの短い区間に人に会い過ぎだ。いたるところにモンスターがいる、みたいな感じ。
「ねえ」とチハルに言ってみる。「頼まれたのパパッと買って、もう帰らない?」
なんでかと聞くので知り合いに会いがちだからと答えると、オレは別に構わないとチハルは答える。
「嫌じゃないの?」
「全然。むしろ嬉しいけど」
「…なんで?」
「キョーダイの仲の良さをアピれて」
「…あんたそれ、本気で言ってんの?」
「本気本気」
「…」
それでも買い物を済ませて、昼食は父の分も買って帰ってうちで食べようと言うとチハルも賛成した。さすがに土曜なのでフードコートも人がいっぱいでゆっくり食べられそうにはなかったから。
来た時と同じようにバスに乗って駅のロータリーへ着くとすぐに父に電話した。迎えに来てもらうためだ。が、ロータリーの脇にあるケンタッキーで昼食を買う前に、父のケイタイにかけても家電にかけても父は出ない。
「どうしよう?」とチハルに聞く。
「歩いてもそんな大した距離じゃねえし」チハルは歩く気だ。
それは別に私もいいのだが、父はどうしたのだろう。家に帰ってチハルと二人きりかもと思うと躊躇する。父、いるのかな。電話に出られないだけで。一応父の分も昼食買って帰って…
「どうした?」とチハルが迷っている私に聞く。「歩くの嫌なん?」
「そうじゃないけど…」
「姉ちゃん心配してんの?帰ってオレと二人かもとかって」
「ううん!」首を振る。「そんな心配してない」
「なら帰ろう」
「…やっぱここで食べて帰る?」
「父さんいるかもしんないじゃん」
「…」
持ち帰りを持って店を出るとすぐにチハルに腕を掴まれてビクッとするが、それは車道側を歩いていた私と入れ替わるためで、ありがたいとは思うけれど無言でやるのは止めて欲しい。
ケンタッキーのチキンの匂いが、チハルの持ってくれている紙袋から漏れて来る。
「お腹空いたね」と言ってみる。
「あ~~…」
なんだその気のない返事は。間が持たない感じがして話しかけてんのに。
「あんたさぁ…キョーダイの仲良いのがわかるのはいいって言ってたけど、あんまり極端だと本気で気持ち悪がられるよ。帰って普通に見られない」
「あ~~~…」
帰ってからもしかしたら二人かと思うと、ここははっきり言っておいた方が良いと思って言う。
「もうちょっと普通に出来ない?」
「出来ない。だって本当のキョーダイじゃねえし」
「だから余計にでしょ?」
「だいたい普通ってなんだよ?普通にもいろいろあるじゃん」
「あんたが言いだしたんじゃん!これから普通に仲良くしていくって」
「あ~~まあそうか」
何が『まあそうか』なんだよ。




