次から次に
じゃあな、邪魔して悪かった、と言って去っていく水本と、ニコニコしながら手を振る髪の長い弟。通路を行き来する人たちも結構水本弟の髪を見ているけれど、本人たちはそんな視線なんか一向に気にならない様子だ。
「先生たちこそキョーダイ仲良いじゃん。ねえ?」
あれほど普通にと思って、ちゃんとそう出来ていると思っていた矢先に、偶然会った担任からカレカノみたいだと言われた気まずさに、チハルにそう同意を求めながら、水本弟の髪の長さの余韻に浸って少し歩いていたら、また「キモト?」と後ろから呼ばれた。
え!?とパッと振り返る。ヒロセの声に似ていたのだ。
「やっぱキモト」と言った私たちと同い年くらいの子は、私の知らないチハルの中学時代の友達らしかった。3人連れだ。他の二人も私は知らない。
「やっぱキモト」とその友達が言う。「久しぶりじゃん」
「あ~久しぶり」とチハルも答えて、寮で一緒だった子とその友達だと私に教えてくれた。
いかにも進学校に通っていそうな無難に崩れのない服装に、ざわついたショッピングモールには少しそぐわないほど、高校生にしては落ち着いた雰囲気の3人だ。
「こんにちは」と勤めて明るく挨拶をする私。
本当は初対面の人は苦手なんだけど、一応姉だから。しっかり挨拶しておかないと。
「「「こんにちは」」」と3人もにっこり笑って返してくれた。
が、3人ともうっすら笑って私を見ている。
…これはもしかして水本の弟のように私たちをカップルだと思ってるんじゃあ…
そう思ったので自分から言った。「チハルの姉です。はじめまして」
「「「姉ちゃんか!!」」」
3人から同時の突っ込みにビクッとしてしまった。
やっぱりか。まぁ…似てないから仕方ないか。
「キモト~~」と寮で一緒だった子Aが言う。「仲良く歩いてっから彼女かと思ったわ。姉ちゃんかよ」
「あれ?」とB。「キモト、前キョーダイいないって言ってなかったっけ?」
その言葉にチハルを見る。
「あ~~」と気まり悪そうなチハル。「言ってたっけ」
「それで他校に彼女いるって言ってたからお姉さんすみません、彼女かと思いました」とC。
またチハルを見てしまう。
「お姉さん、こいつ、うち男子校だったのに、高校と合同の文化祭とかで、やたら一人だけ他校の女子から声かけられてて、男全員から反感買ってました」
Bが私に面白そうに教えてくれるのを、「大げさに言うな」とチハルが睨む。
「今共学だろ?」とB。「すげえモテてんじゃね?ねえ?お姉さん。どうですか?」
「あ~~…と、どうだろ」いい加減な受け答えをしてしまう私。
「他校の彼女って言ってたの、もしかして今同じ高校?」とC。
「あれは嘘」とチハル。
「「「ウソかよ」」」と声をそろえる3人。
「でもお姉さん、アレですね?」とヒロセの声に似ているAが言う。「姉っぽくないっつか…もしかして1コくらいしか違わない感じですか?」
うん、とうなずく私。実際半年しか違わないし、大人っぽく見られた事も1回もないもんな私。貧乳だからかな…
「うらやましいわ共学」とC。「お前だけ楽しい毎日送ってるかと思うとほんとムカつくわ!っていうかオレらにも紹介して欲しいわ」
「アレですよね」とA。「1コ上でもなんか可愛い感じですね、お姉さん」
ヒロセに似ている声で言われてドキッとする。
「じゃあ」とチハル。「オレらまだ用があるから行くわ」
「そんな」と私が言う。「せっかく友達に会ったのに…私、先に帰ろうか?」
「「「え~そんな」」」と3人の子が言った。
Aが言う。「じゃあせっかくだから5人でメシ食いません?」
いやぁ…それはちょっと。チハルの中学時代の事が聞けて面白そうだけど…
「うらやましいわ」とC。「オレもこんな可愛くて優しい感じの姉ちゃん欲しい」
「オレもオレも」とBも言ってくれる。
ハハハ、と笑ってしまった。1コ下の男の子たちが友達の姉ちゃんだと思って、律儀に褒めてくれてるのが可愛い。みんな社交的な良い子たちだね。
「別にこいつ、優しくはねえからな」とチハルが言う。
「ちょっと…」と注意しかけるとAがチハルに言った。
「笑うと余計可愛いじゃんお姉さん」
「じゃあな」と3人に手を上げるチハル。「また連絡する」
「うそつけお前」とA。「こっちから連絡してもあんまちゃんと返さねえくせに」
「お姉さん!今度家に遊びに行ってもいいですかあ?」とB。
うちにはチハルいないんだけどな、と思いながら答える。「どうぞどうぞ」
「どうぞじゃねえよ。勝手に答えんな」とチハルが言った。「じゃあな」
私の背中を押して、チハルがその場から離れようとする。
「「「お~~またな」」」愛想の悪いチハルに3人は言ってくれる。そして私にも。「「「お姉さんもまた~~~」」」
振り返ると3人とも手まで振ってくれたので、頭を下げて挨拶をした私の背中をまた押すチハル。
「あんたの中学の頃の友達初めて見た」と私。「みんな可愛いね。落ち着いててきちんとしてるし。一生懸命褒めてくれてた私の事」
チハルが、『キョーダイがいない』と言っていた事に関してはもう今さら責めない。
「オレが可愛いっつうと気持ち悪いとか言うくせに」
「…」
「ほんとにオレがいない時に家に来たらどうすんだよ」
「家知らないでしょ。でも呼べばいいんじゃないの?あんたがうちに帰って来てる時に。ジュースくらい運んであげるけど、お母さんいなくても」
「しなくていい」
「…」感じ悪!
10メートルも歩かないうちに、「「「きゃあああ」」」と急に近くで声が上がってビクッとする。
「「「チハル君~~」」」通路脇の雑貨屋から出て来た女の子3人組だ。
お~~、なんかキラキラしてる。高い声でチハルを呼んだ可愛く着飾った女の子3人組はきちんとお化粧もしていた。
「やだこんなとこで会うなんて~~」と髪のさらさら長い、クリーム色のヒラヒラミニスカートのA。
「やだ私服もかっこいい~~~」とツインテールのデニムのショートパンツのB。
「やだ買い物なんてするんだ~~」とAと同じくらい長い髪を緩く巻いているC。
3人のそれはチハルに言っているのだが、3人の目は私をチラチラ見ている。
クラスの子かな。ペコンと一応お辞儀をすると向こうもペコンペコンペコンと返してくれる。
「「「お姉さん、こんにちは~~」」」




