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チナ

 入学式での入場でチハルは目立っていた。

 いや、その前に母と学校に着いて体育館の前の受付に向かったら、先に受付を終えて移動しようとしているチハルがチラっと見えたが、その時も目立っていた。

 目立つと言ってもきちんと普通に制服を着ているし、髪の毛だって校則違反無しのほんの少し襟足が長いくらいのショートで他の大多数の子たちと変わらない。

 

 『やまぶき高校』は都会でもない、田舎過ぎもしない中途半端な地方都市のごく一般な進学校なので、みんなだいたい良い感じでまじめなのだ。中には髪をワックスでセットしたり、校則だと少し変形とみなされる髪型をしている子もいるけれど、その子たちよりチハルの方が目立って見える。

 まず背が高いせいもあるし、家族になった頃は女の子みたいだった顔も、成長にともなって男の子らしい顔つきに変わったけれど、それがもともと母似で結構整っているから目を引くのだと思う。

 まあ自分の弟だから見つけやすいっていうものもちろんあるとは思うけれど。



 私のように、なんとなく自分の母に似てて、タナカさんも母に似てるから、タナカさんにも似てるよね~、みたいなおおざっぱな感じの似ているではなく、チハルとタナカさんは本当の親子だから、きちんとタナカさんの遺伝子が伝わってる感じの『似ている』だ。チハルの、亡くなった本当のお父さんの写真も見た事があったけど、なかなかにカッコ良かった。まぁ私は身内のひいき目で私の父

の方が断然好きだけど。

 成長したよねチハル…本当にしばらく見ないうちにっていうか、一緒に暮らさないうちに。



 …私が母にちょっと似てるって事は私とチハルも似てるって事かな…

 いやぁ…似てないよね!私とチハルは全然似ていない。

 朝、母に似てると言われたのもシモヤマのおばさんのお世辞だ。

 それに私は、母が口にした『ダメでしょ。我慢できないよ』という言葉が、ずっと頭の中でうっすらとリフレインしていて、悲しい気持ちと寂しい気持ちと腹立つ気持ちとが混ざり合って、チハルの姿を見たらイラっとしてきた。



 体育館の中へ誘導され、ざわざわと席に着く私たち在校生と保護者。

 やっぱり1歳下の弟が同じ学校に入るのなんて2年生では一人きりなんだろうな。

 キョーダイで同じ高校ってそこまで多くはないし、私の友達や知り合いに限って言っても年子のキョーダイがいるのは私だけだ。

 しかも義理の姉弟、なんて絶対うちだけだし。




 チハルがうちの高校に合格が決まった何日か後、入学式に参加しようと思っている事をラインでチハルに伝えた。

 その時既読は付いたけど返信は無くて、私はコイツまたか、またこんな感じか、と思って、じゃあチハルがどんなに嫌がっても絶対入学式に参加しようと決めたのだ。どんなに嫌がっても、っていうより、ムカつくチハルに嫌がらせがしたかっただけだよね。



 それでチハルの合格が決まった後、高校へ物品販売に行くのにちらっとうちに帰って来た時に言った。

「入学式、私も出る事にしたから」

 チハルが嫌がると思ってちょっと顔が笑ってしまう。

 嫌がれ。

 嫌がっても行くからな。


 でもチハルは「あ~~」だけの返事。

 喜びも嫌がりもしない、どうでもいいような感じ。

 ちっ、と心の中で舌打ちをする。姉ちゃんが式出るつってるのに。

 それでもやっぱり本当のところは嫌だと思ってるんだろうなと思ってわざと聞いた。

「…やっぱ私が出るの嫌?」

「…」答えないチハル。

 何て答えたって出るけどね!

 ふふっと笑ってしまう。なんか、勝ったような気がする!

 が、チハルが私を呼んだ。

「チナ」



 チナ?

 …いや私はチナだけど。

 今なんで私の事を呼び捨てにした?お前って言われるのもどうかと思ってたけど、いきなり名前で呼び捨てって。

 仮にも私、姉なのに。借りじゃないけど義理だけど。


 じっとチハルを睨みつける。

「あんた、何で私の事急に呼び捨てにしてんの?」

 ちゃんと怒らないとね。私よりデカくなってかなり威圧感あるけど、半年だけでも私が姉なんだから。

 名前を呼び捨てで呼び合ってるキョーダイは私の友達にもいるけれど、うちはダメだと思う。…だって本当のキョーダイじゃないんだもん。呼び捨てで呼んだりしたら、あからさまに他人という感じがしてしまう。


 「だってチナじゃん」

当たり前の顔で当たり前のように、ちょっと笑いながら言うチハル。

 なんか…すごくムカつく。

 ので、睨むと睨み返された。…なんか負けそう…。


 それでも頑張って睨み返すがやっぱりチハルに言われてしまう。

「今日からチナって呼ぶ」

 なんで今日から?「止めて」

 頑張って落ち着いた声を出して言って見るがチハルも同じように事務的に言った。

「でも呼ぶ」

「止めて」

「呼ぶ」

「止めて」

「呼ぶんだって」

「止めてって言ってんじゃん!」

「止めねえって」

「…お母さん!」

やっぱり負けそうなので母にすぐ言い付ける私だった。



 「お母さん!」と私は母に泣きついた。「チハルが私を呼び捨てにした!」

「あら~~~」と笑う母。「ダメだよチハル『お姉ちゃん』て呼ばなきゃ」

チハルは母をじっと見つめる。母もチハルを見返す。

 私はさっきこれで負けたよね…

 二人とも無言だ。

「チハル?」と母がチハルを見つめたままキツい感じで言った。「『お姉ちゃん』て呼ばなきゃ」

そしてまた見つめ合う二人。

 …二人とも怖い。


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