表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/114

父?

 「…わかったよ」とチハル。「じゃあ一緒にサッカー見よ」

しょうがないって感じでため息をつくように言ったチハルが、掴んでいた私の肩を離した。いや、別に一緒に見たくないし、と思う。

「いい。一人で見る」

「一人で見させたくねえわ。せっかく一緒に来てんのに」

「一緒になんて来たくなかったもん!私はお父さんとお母さんのために来てんの!もうずっとあんたが普通にするから私も昨日の事考えないようにしようと思ったけどっ…もうわけわかんない。昨日の今日でそんなに機嫌よく話しかけてきてさ」

「昨日の事があったからオレは機嫌がいいの」

実際機嫌よくそう答えるチハルにすぐに言葉が出ない。最低!

「それでも姉ちゃんはオレの事そんなには嫌がれないよな」

「はあっ!?何言ってんの!?嫌がるよ!嫌がるに決まってるでしょ!?」

チハルが私のその言葉に、ふっ、とバカにしたように笑うので腹が立つ。

「私は…好きだなって思ってる人がちゃんといるから。だからもう昨日みたいな事絶対しないで」

「ヒロセの事でしょ?」

「呼び捨てにするな」

「ヒロセさんな」と笑うチハル。

「なんかあんた、ほんとバカにしてるよね私の事。だから今もこんな風に普通でいられんの?」



 ポンっ、と軽い音がして見ると、向こうでキャッチボールをしていた親子の球がそれて、私たちの近くへ転がって来るところだ。

 チハルがボールの方へ走る。転がって来た球を掴んで投げる。そしてまた私の方へ走って戻って来る。

そして私の手首を掴んで言った。

「ここ邪魔になるし、危ないからもうちょい向こう」

掴まれた手首をぐいっと引いてもチハルに掴まれたままだ。が、そのまま運動公園からは出て遊歩道へは向かわず、出たところで手は離された。



 「ほんとはな、ダメかと思った」とチハルが私の目をちょっと反らして言う。

「昨日みたいな事したら。もう何もかも終わりなんじゃないかと思ったけど我慢出来なかった」

立ち止まったが、歩きながら聞けとチハルが言うので仕方なく歩く。

「オレがあんな事したらなんかいろいろ変わって、姉ちゃんも変な風に曲がるかと思った。けど、姉ちゃんは姉ちゃんだなってわかった」

だから今日から普通に『家族』って感じにしてんの?

「オレを許してくれるんだなって思った」

何言ってんのビックリする。

「いや許してないからね。何言ってんの!?ていうか今日ずっと何言ってんのあんた」

「ハハハ」

「ハハハじゃない!」

「チナ」

「…」何コイツ!

「姉ちゃん」

「…」何コイツ!!



「それで最終的にな」とチハルが言った。「キョーダイで良かったなと思った」

はああっ!?

 いやもうわけかわらんな。

 どういう事かもちろん気になったがもう絶対『どういう事?』とか聞いてやらない。



 そこでスマホを取り出すチハル。「母さんが飯だって」

 そのまま父と母のところまで無言で戻る私たち。

 戻るともう敷物の上に弁当が開けて並べてあって、父と母は私たちを待っていてくれた。

「ほらチハル」と母。「こっちがチナちゃんが作ったサンドイッチだから」

母が渡してくれたお手拭きで手を拭くとさっそくサンドイッチに手を伸ばすチハル。父はまだ少し眠そうな顔をしている。


 「どうチナちゃん」と母。

おにぎりを口にしたところで言われたので美味しいと答えると、「違う違う」と母が言う。「デートの練習になった?」

「ならないよ」即答する私だ。

「あれ?チナちゃん機嫌悪い?チハルになんかされた?」

またお母さん…こんなとこまで来てまだそういう事言うから…

「なにもされてません」無表情で答える私だ。

 やっと箸を持った父が口を挟む。「なんか運動公園の裏の方に良い感じの遊歩道があるらしいよ。そっちの方とかカップルで行ったらいいんじゃないかな。行っておいでよ昼ご飯の後、チナとチハル君二人で」

「「「…」」」動作を止める父以外。



 二人で?何言い出してんだ父。

 チハルと目が合ってしまって反らす。

「そういうところからだよね。チハル君」と父がチハルに言う。

「はい」と素直に答えるチハル。そしてチハルは私に言う。「サンドイッチうまいよ」

それには答えない私は父の言葉の真意を探ろうとするが逆に「チナ?」と言われる。

「チハル君が美味しいって言ってるじゃないか」

「…聞こえた」

「ダメだな~~」と父。

なにがだよ?と思った瞬間、「なにが?」っと母が異様に冷たい言い方で父に聞いた。

「チナちゃんの何がダメなの?」さらに冷たく聞く母。

「いやダメじゃないけど…」ともごもご答える父だ。

「だって嫌よね~~」と母が私に言う。「そういう雰囲気ある場所は弟なんかと行ってもねえ?好きな人と行かなきゃ何の!意味もないよね~~~」

「アツコちゃんはなんで」と父が言う。アツコというのは母の名前だ。

「アツコちゃんはなんでそうやってチハル君の気持ちを否定するような事ばっかり言うのかな」

…父?

 


 …これは…父もチハルが今も私を好きだって事をはっきり認識してるんだな?

 母が父に言い返す。「私はチナちゃんがちゃんと、自分の気持ちをはっきりと言えるような環境に置いて上げたいだけです」

 睨み合う父と母。

 それでどういうわけか父はチハルの気持ちを容認しているような感じがするけど…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ