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ドタキャン

 「バスケ部の顧問の先生に頼まれちゃってさ」と水本。「キモトの弟、中学の時からやってたらしいじゃん。それで結構うまいらしいじゃん」

「…」

「…それも知らないの!?」

わざとらしいくらい驚いて見せる鬱陶しめの水本。顔は笑っている。

「それは知ってます。私は見た事なかったですけど。中学、弟はずっと寮に入ってたんで」

「へ~~。でも見に行ってやれば良かったじゃん。弟の活躍、見てやれば良かったのに」

「…そういうのすごく嫌がってたんで」

「まぁな!そういう年頃だからな。そっかそっか、やっぱ仲悪かったか~~?」

水本がちょっと嬉しそうに言うのでイラっとして、「いいえ」と言ってしまった。

「嫌がられてましたけど、すごく仲悪いわけじゃなかったですから」

「うちも弟がいるけどな」と水本。「髪が伸びるのがえらい速いやつでさ」

髪が伸びるのが速い弟…突然自分の弟の話を始めたと思ったら、思わぬ紹介の仕方に心の中で水本の言葉を繰り返してしまう。


 水本が続ける。「弟ながらそれがものすごく気持ち悪い時もあるし、そういう人と違うところをまるきり気にしないところをすげえなと思ったりしてさ。でもそんなんなら彼女とか出来ないんじゃないかって思ってたらオレより早く彼女作って、その彼女に髪の毛切ってもらってたりな」

「そんなにですか?そんなに髪、伸びるの速いんですか?」

「すんごい速いよ。尋常じゃない。それにアイツ、オレの事をあんま尊敬してねぇし…、まぁな、ながく一緒にいる分、歳の近いキョーダイはムカつく事も多いよな」

 尋常じゃない?

水本が始めた自分の弟の話に、あ~、とも、はい、とも相槌を打てないが、水本は目をキラキラさせてなぜか自慢げだ。



 「ていうことでさ」と水本。「弟に言っといてくれないかな。バスケ部良かったら見学に来てって」

急に本題に戻した!

 それでも一応「はい」と返事をするが、力のない「…はい…」だ。そこをすぐに水本に突っ込まれる。

「何だそれキモト~~」水本が思いのほか大きい声を出したのでビクッとする。「はっきりしない返事だな。伝えてくれるの、くれないの?」

「伝えますけど一応。でも私もこの前部活の事弟に言ったら、自分だって辞めたくせに、みたいな事言われたんで。私の言う事なんか聞かないですよ、うちの弟。ほんとはあんまり仲良くなかったですし」

「ハハハハ!」と水本がバカ笑いをしたのでビクッとした。

「中学離れてたんで会うことすらあんまりなかったんですよ」

「そっか、そりゃキョーダイなのに寂しいな。でも今は同じ学校だし。それに一緒に帰ってたろ?」

ピクっとする。担任にも見られていたのか…


 

「いや」と水本。「うちのクラスの生徒か~彼氏と帰ってんのか~って見てたらキモトでさ、相手誰かな~~って思って見たら入学式と対面式で挨拶してた1年で、そう言えば1年に弟入るって聞いてたなと思って。図書館からも一緒に出てきてたろ」

 …すごいな。

 どこから見てんのかな、水本といい、サキちゃんといい、チハルもだよね、さっきもヒロセと喋ってたところを見たって話しかけてきたし…

「なんか」と水本が少し笑って言う。「仲良いのか悪いのかわかんない感じだな。でもあんな感じの弟と一緒にいたら女子からいろいろ言われるだろ~」

「言われない事もないですけど…そこまでじゃないです」

「そっかそっか」と言いながらふんふんうなずく水本。


 「…じゃあ一応伝えます。バスケ部の事」

私は水本の前から退散したくなって、とりあえず承諾して話を終わらせる事にした。

「ありがとう助かるわ」水本が嬉しそうに笑った。「きっとキモトの言う事なら聞いてくれると思うわ。キモトの弟はキモトと話す時は優しい顔してたし」

「そんな事ないです!」

「いやキモト、」と水本が笑う。「そんな力強く否定しなくても」




 家に帰ってさっそく、水本から頼まれたバスケ部の話をチハルにラインで送った。

 すぐに既読になったけれど返事はない。今、夜9時の時点で。

 ね?と、心の中で水本に言う。私の言う事なんてこれっぽっちも聞かないんですよって。

 そしてヒロセからラインが来た。

「ごめん」と書いてあったのですぐに嫌な気持ちになる。

「来週急に練習試合入って、明日も明後日も3時間くらい部活ある事になった」

「そうなんだ」と送る。「ごめんて言わなくていいよ。練習でも試合のためなら頑張って欲しいなって思うよ」

良い子ぶった言葉だな、と自覚しながら打つ。


 しばらくしてからまたラインが来た。

「でもオレはずっと好きなだけでサッカーやってて、足もまあまあ速いけど技術的にそんなにうまくはないんだよ。体もまぁ小さめだし?今は3年もまだいるからレギュラーにも入れてねえし。だから休みって言われてたから予定入れてたやつとかはそのまま明日の部活は休むやつもいるんだけど、オレはここは出ときたいんだよ。キモトとすげえすげえ出かけたかったけど。ごめんな、オレから行こうって言ったのに。キモトせっかく行くとこ考えてくれたのに」

ヒロセが言いにくそうな事まで書いてくれたので、私も今度はもう少し考えて自分の気持ちも出してみる。

「本当に気にしないで明日も部活に行って来て欲しいです。ていうかもう結構ヒロセが悪いなって気にしてくれてるのわかるから。ちょっと恥ずかしいけど、ヒロセが誘ってくれただけで私は嬉しかったよ」

考えに考えてやっぱり良い子ぶってるような感じになったけれど本当の気持ちでもある。

部活休んで私と遊びに行く方を選ぶより、練習とはいえ試合を踏まえてこれからのために部活に行くヒロセの方が格好良いに決まっている。最後に『また誘ってね』と足そうか迷ってやっぱり止めた。



 送った後やっぱり打てば良かったと後悔する。『また誘って』って。

 そういうひと押しが出来ないのがダメなんだな私。

 そう自分にダメ出しをしていたら電話がかかって来た。ヒロセからだ!

「キモト、」と言われて「うん」と答えたのに、しばらく黙るヒロセにドキドキする。

「キモト?」ともう一度言われる。「もうキモト黙んないでよ。いつか試合も見に来てよ。まあそのためにはオレがもっと頑張らなきゃだけど」

「うん。ありがとう」

「それから…誘っただけで嬉しいとか言うな」

「…なんで?」やっぱ気持悪かった?

「なんかすげえ恥ずかしいから!」

そっかヒロセも恥ずかしいか…

 嬉しい。




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