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一緒にお昼

 「はい」と腕をつんつんと突つかれるので、見るとサキちゃんが私のバッグを私に渡しかけてそれを止め、チハルに渡してしまった。

 そしてチハルに優しい笑顔を向けサキちゃんが言う。「お姉ちゃんと静かなところへ食べに行っておいで。はいお姉ちゃんの弁当」

「サキちゃん!」

 止める私を尻目にサキちゃんからバッグを受け取りお礼を言うチハル。そのチハルに、うんうん、と慈愛に満ちた目でうなずくサキちゃん。


 サキちゃ~~~ん。

「じゃあ姉ちゃん行こ」と私の腕を掴むチハル。

「「「「「きゃああああ」」」」」とキラキラの声を上げる女子のみなさん。

「ちょっ…!」言いながらぐいっとチハルの手から腕を抜こうとするが抜けない。し、引っ張られる。

嫌だ…ヒロセが見てる…ちょっとビックリした顔で見てる…

「サキちゃん!!」私はサキちゃんを掴んだ。「サキちゃんも一緒に行こ!!チハル!待って、サキちゃんも行くから!」

「え?」テンションの低いサキちゃんだ。「私も?私はどっちかつったら陰から見てたい感じなんだけど」




 結局サキちゃんにも来てもらって体育館の脇の花壇の手前の石段に並んで腰かけて弁当を食べる事になった。チハル、サキちゃん、私、という並びだ。

 なんだこれ、と思う。

「私ここ!?」と言うサキちゃん。「いいの?ていうかなんで私が真ん中?」

サキちゃんはチハルに確認するが、それには答えず「すみませんサキさんまで」と真面目な顔でチハルはサキちゃんに謝った。

 サキちゃんにはちゃんと『サキさん』て言うんだ。ヒロセは呼び捨てにしたくせに。



 「オレのせいでこんなとこで」とチハルが言う。

「全然、全然」ニコニコ答えてくれるサキちゃん。「でも私はほんと、どこかからこっそり二人を見てたいよ」

「サキちゃん」私はサキちゃんが余計な事を言うのを止めようと思う。「お弁当早く食べよ?教室に戻んないといけないし」

「弟くんさ、」サキちゃんは私を無視してチハルに聞いた。「チナの事すごく好きでしょ?」

 あ~~~!

 っとに…もうしょっぱなからそんな事言うからなサキちゃんは!

 なんで私サキちゃん誘っちゃったんだろう…。でもあそこで腕を引かれるままチハルと二人で移動とか、それもおかしいと思われる。そんな姉弟はいない。



 いや…私がこだわり過ぎなのかな。

 本当のキョーダイとか本当のキョーダイじゃないとかにこだわり過ぎなの?

 もし私がこだわり過ぎでも、サキちゃんの質問は義理だと知らない姉と弟に向かっておかしいよね。

 それでも「はい」、と普通にサキちゃんの向こうにいるチハルが答えたので、胸がズクッと鳴った。



「あ~~」と少し驚くサキちゃん。「そこははっきり答えるんだね」

チハルが言った。「だってキョーダイですから」

 …。

 んんん~~~~…


 思わずちょっと腰を浮かして呼んだ。「チハル!!」

大きな声だったので隣のサキちゃんがピクっとして私の方を向いた。

「急にデカい声出すな」とチハルが弁当を食べながら注意する。

「あんた、ちゃんとクラスで食べないと」私は少し身を乗り出してサキちゃんの向こうのチハルに言う。「そんな事してたらクラスで浮いちゃうでしょ。ただでさえ…」

「なに?」とチハルも少し身を乗り出して私を見つめる。

「ただでさえあんた目立ってんのに。よくないよ」

そして後は無言でお弁当を食べる私たち。

 なんだろう…今いちばん親しい友達のサキちゃんと、自分の弟と一緒にご飯を食べているのにこの居心地の悪さ。



 少ししてチハルが口を開いた。「いつもサキさんとご飯食べてるんですか?」

「そうだよ」と答えた私に「お前に聞いてんじゃねえよ」という弟。

有り得ないよね。友達の前で私をお前呼ばわり。

「サキさん」と改めて聞く弟。「いつも姉と二人でご飯食べてるんですか?」

「ちょっと」と私は口を挟む。

やっぱりちゃんと注意しとかないと。友達の前だし姉だから。「私をお前とか呼ばないように」

「あ~…ごめん姉ちゃん」

 …素直じゃん!


 「そうだよ」と時間差でチハルに答えてくれるサキちゃん。

しばらく見つめ合うサキちゃんとチハル。先に私だけ帰りたいな。

「サキさん、ヒロセってどんなヤツですか?」

「ちょっ…」と言いかける私を、黙れ、と言わんばかりに睨むチハル。


「すごい良いヤツだよ」とサキちゃんが答える。

またしばらく見つめ合うサキちゃんとチハル。

「すごい良いヤツ」とサキちゃんがもう一度、さっきよりもはっきりと言った。「それにダメじゃんチハル君。ヒロセに嫉妬しててもさ、ちゃんと『さん』付けで呼ばないと~~~」

「ですよね!すみませんつい」とチハル。

素直じゃん。私と二人で話す時と違って気持ち悪いくらいに。

 その後はまた3人とも無言で食べる。



 そして少ししてサキちゃんが弁当を片付けがら言った。

「もしかしてさぁ、チナとチハル君は本当のキョーダイじゃない的な?」

っっ!

 動きを止めてサキちゃんを凝視してしまった。

「いいえ」とチハル。「何でですか?」

「本当のキョーダイじゃないみたいだから」

はっきり言うなぁサキちゃん…ハキハキしてるところが好きなんだけど…怖い。

「いやぁ」とチハル。「似てないってよく言われますけどね。似てるとこもあるんですよ?」

「そう?てかそうじゃなくてさ」とサキちゃん。「チハル君が『お姉ちゃん』て感じではチナの事見てないような気がして」

「サキちゃん!」私が止めにかかる。「そんな事全然ないから」

「あ~~姉とはね、思えない時も多いですよ」

チハルの答えにドキっとする。


 それでもチハルは続けた。「この人頼りない感じだから。今日はちょっと困った事あったから弁当食ってもらってるけど」

「いや、そういうんじゃなくてさ」とサキちゃんがしつこい。

が、チハルはサキちゃんを見つめてニッコリ、と笑った。

「オレの事もまぁあれですけど。オレは姉ちゃんの事も心配で。この人ちょっと誘われて、ヒロセさんの事が気になってるみたいなんですけど、」

「ちょっ、チハル!」

止めるがチハルは止めない。「ああいう人って結構みんなに良い感じじゃないですか?だからそこまで向こうは姉ちゃんが好きでもないのに、姉ちゃんがすごいその気になったらとか思ったらちょっと心配で。それもあって様子見に来ました」

「ふうん」

気のあるのか、ないのかわからないようなサキちゃんの相槌。そしてチハルにまた質問する。

「じゃあチハル君彼女は?」

「いないですよ」

「好きな子は?」

「今いないです」

「ふうん」

「ヒロセさん、モテますか?」とチハル。

「チハル!」私は止める。「もう余計な事喋んないで!もう絶対お昼、うちんとこ来ないでよ」

「ひでえな」チハルがちょっと笑いながら言った。



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