シスコン
そんなこんなの昼休み。
サキちゃんの机へ移動していると、教室のドアのところがザワザワしている。
「キモト~~~」ちょうどドアの近くにいたヒロセが私を呼んだ。
「弟来てるぞ~~~」
振り向くとチハルがいるし、クラス中の今いる女子がガン見してるし。
なんでよりによってヒロセに頼む。
「姉ちゃん!」ドアのところから私に向かって手招きをするチハル。
私?という感じで顔に指を当てると、おもしろそうに笑うチハルだ。そうだよね、チハルの姉は私だ。私を呼んでいるに決まっている。
チハルがもう一度大きく手招きをする。
クラス中の女子が私を見てるような気がする。…じゃなくて確実に今ものすごく見られている。
心がザワザワする。どうしたんだろう。なんで2年のクラスまで来るんだろう。しかもヒロセに声かけて…。
クラスの子たちの目を気にしながら小走りに行くとチハルは言った。
「姉ちゃん、一緒に弁当」
「は?」
「弁当食お」
「…何言い出してんの?」
「なぁ姉ちゃん、頼むよ」
ヒロセがまだ近くにいるのも気になるし、チラッと教室の中の方を覗くとやっぱり、結構な人数がこちらを見ている。
「なんで?」思うよりつっけんどんな言い方をする。「なんでクラスで食べない?なんでここまで来んの?」
「なんだよその言い方。来たっていいじゃん」
「なんでよ?自分とこで食べなさいよ」
「昼休み、他のクラスの女子とかも来てめんどくせえ」
「あんたのとこにって事?」
「昨日なんか作ってきたクッキーみたいなやつを渡して来たヤツがいて、断ったらめんどくせえ事になるかと思ってもらったら、今日は別のヤツらがなんか持って来て…」
「…昨日?弁当初日で?すごいじゃんあんた。てか、すごいなその子。一番乗り!みたいな感じでやろうと思ったのかな。ちょっと面白い…」
「面白がんなバカか。そんなたいしてよく知りもしねぇやつの、どうやって作ったかわかんねぇもん食いたくもねえ」
「しっ!!」
いつもと変わらない悪態にホッとしながら私は、チハルのその悪態が他の子には聞かれないようにチハルを黙らせる。が、もうすでに聞かれていた。
「「「「「うちで食べたらいいよ~~~」」」」」
口々に言い出す、そばにいた女子のみなさん。その声にビクッとする私。
そんな…。その中には朝話しかけて来たイイダさんとヒダカさんもいるけれど、まだ進級してクラス替えあったばっかりで私も話をした事のない子まで、なぜ人の弟にそこまでのフレンドリーさを振りまく。そして1年生の女の子たちより2年生のお姉さんたちの方がもしかしたら、より面倒くさい事になるかもしれないのに。
「いいじゃん」その中のヨシダさんが言った。「キモトさん、こんなカッコいい弟いつも見てるかもしれないけど、うちらも見ながらご飯食べたいじゃん」
それは…うちの男子のみなさんに失礼のような…
「今日も大変だな、弟」まだそばにいたヒロセが言った。
「うらやましいわ、なぁ」
ヒロセが友達のフカダに振るとフカダもふざけて、「そうだな代われ」とチハルに言う。
ヨシダさんの発言で、うちのクラスの男子からチハルがすごく嫌な感じで見られるんじゃないかと思ったけれど、ヒロセが割り込んでくれたから助かったような気がする。
「そんなの断ればいいじゃん、うまい事言って」と私はチハルに言う。
「どんなだよ?」
「ウソはいけないけどさ、アレルギーがあるから、みたいな感じとか」
「そんでまた別のもん持って来られたりしたら限りなくめんどくせえわ。なんでオレがそんな気を使わなきゃなんねぇんだよ」
「しっ!!黙れ悪態つくな」
ハハハハハ、とそれを聞いていたヒロセが笑った。
恥ずかしい!
ほらね?外見は良いかもしれないけど、性格悪いんだからうちの弟。
女子のみなさんもさすがにドン引いてる…事もないみたいだ。なんかいつもよりみんなニコニコしてるような気がする。
「どっかねえかな、」とチハルが言う。「静かに飯食えるとこ」
「あんた…女の子にすごい冷たい言い方したんじゃないの?」
前に私に言ってたみたいに。
「いやその後は別に。外に行くつったらついて来ようとしたから姉ちゃんとこ行くからつって来たけど」
「…それは黙っといた方が良かったんじゃないかな…」
「「「「「やだシスコンかわいい~~~~」」」」」と女子のみなさん。
いや可愛くはないよね。
「ハハハ!」
急にチハルが高笑いしたので睨むと続けた。
「シスコンて、もううちのクラスのやつにも言われた。昨日一緒に帰ったのも知ってるやつ結構いたし。うちのクラスだとちょっと引かれたけど」
「バカじゃんあんた…」
そっか…2年生のおねえさんたちは可愛いと思っても、さすがに同学年は気持ち悪がるのか…
「まあいいよ」とチハルが言う。「腹減った早く飯食いたい。なあ姉ちゃん、朝飯食ってねえからすげえ腹減ってんだけど」
「「「「「やだかわいい~~~」」」」」と女子のみなさんがまた吠える。
可愛くはないから!




