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早い

 チハルの教え方は完璧で、このまま塾の講師とか家庭教師とかのバイトが出来るんじゃないかと思うくらいだった。

 さらに情けなさの募る私だ。

 でも、私はヒロセに教わりたかったけどね。

 

 ヒロセはチハルがしつこく帰ろうって言うから遠慮してくれたのかな。…なんかああいう時に、『いや、チナは今日オレと先に約束したから』みたいな事言ってくれたりしたら…。

 チナなんて呼ばれた事ないけどね。キモトって呼ばれてるけどね!『悪いな、今日はオレのだから』とかね。…そんな事言いそうにないヒロセが敢えてそう言ってくれる、みたいな…妄想しかけてチハルの説明を聞き逃し、「もう!最初からやり直し」と言われる始末。



 それでも夕方には祖母の家に戻ってご飯を食べると言うチハル。

 帰るチハルに聞く。「あんた、おばあちゃんちょっと具合がどうのって言ってたのに。お弁当、おばあちゃんに作ってもらう気なの?」

「ばあちゃんもそれくらいは体動かした方がいいんだよ」

「勝手だよね。やっぱりおばあちゃんも一緒にこっち住めばいいんだよ」

「なあ」とチハル。「オレ、やっぱヒロセさんに悪い事したな」

「今頃!しかも何ちょっと笑いながら言ってんの?したよ!あんた態度悪かったよ言ったじゃん!」

 図書館行くのも邪魔したしさ。次、いつ誘ってもらえるかもわからないのに。最後のあたり、ヒロセもちょっと様子おかしかったし…

 後でヒロセにラインしてみようかな。


 「まぁ悪いとは思ったけど」と悪びれない感じのチハル。

「ほんとにちゃんと反省してんの?じゃあ今度会う事があったらちゃんとしてよ。ヒロセの方が先輩なんだからね」




 チハルが帰った後でこっそり私に聞く母だ。

「ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ聞こえて来たから聞くんだけど、チハルがヒロセくんとの間を邪魔してきたの?」

あんまり話したくないなとちょっと迷う。

「ごめん、チナちゃん。あんまりお母さんには話したくないと思うんだけど…でもね、聞きたいんだよね!チナちゃんとヒロセ君の仲も気になるし、チハルの悪いとこが出てんのかなって心配なんだよ」

 悪いとこ出てるよ!しかも前よりちょっと変な感じで出てるよ。

 

 んん…もう…と少し迷ったがしょうがないな。結局母に話す方向へ持っていかれる。

「ヒロセがまた図書館に行かないかって言ってくれてるとこにチハルが来てね、チハルもアレだったけど、なんかチハルの連絡先を聞き出そうとする5人組の女の子たちまで来てね、チハルがスマホ持ってないって嘘ついて、それで私にまでそれほんとかって聞いてくるから、結局仕方なく私も嘘つく事になったんだけど。そんなこんなしてるうちにチハルが私のカバン勝手に自転車に乗せて帰ろうとするし、ヒロセももうその後は勉強しに行こうって言ってくれなかったし。うちでご飯食べたいならさ、勝手に帰って食べればいいのに自分のうちなんだから。お母さんも休みだったのに」

って何ほんとに全部話してんだろう私。

 それでも母の実の息子の悪口を言う義理の娘を、うんうんと優しくうなずきながら温かい目で見てくれる母は、本当に良い人なんだなと今さらに思う。たまにニュースで、再婚相手の義理の子を虐待する親の話を見たりすると、本当になんてうちは幸せなのかと思うのだ。



 「そっか…早いな…」と母が言った。

早い?「…何が早いの?」

「…いやぁ、…チハルの悪い感じが出るのが早いなと思って」

…何それ…やっぱりチハルは私の事が嫌いなの?姉ちゃんとかまた呼び始めといて油断させといて、みたいな感じ?勉強教えてとか言ってたくせに結局私が教わるはめになったし。

 だとしても、なぜ私がそこまでチハルに嫌がられなきゃいけない?

 …やっぱがんばろ!

 取りあえずもっとちゃんと苦手な数学も勉強して、弟に教わるなんて屈辱的な事はもうないようにしなきゃ。



 「ごめんねチナちゃん」母が改まって言った。「あんな子だけど許してね」

「…」

 どちらかというとチハルよりもいつも私の味方をしてくれていた母が、こんな事を言うなんて珍しい。

 なんとなく胸がチクっとする。




 火曜、水曜と2日間の確認テストを終え、通常授業の始まった木曜日。

 昼休みに教室で弁当を食べ始めると、一緒に食べているサキちゃんが言った。

「今日2時間目終わりの休憩の時に1年の女子が何人かチナ見に来てたの気付いてた?」

 箸を止める。

 全然気付いていなかった。驚いた。「私を!?」

「私、トイレ行く時そば通ったんだけど、『お姉さん』っていうのが聞こえてたから、絶対チナ見に来てたって」

「…他にも『お姉さん』はいると思うけど?」

「他に『お姉さん』がいたとしても、別棟からわざわざ1年が見に来る『お姉さん』はチナだけなんだって」

「…」

「絶対弟クンに速攻で目を付けた子たちがチナの事嗅ぎつけて確認に来てんだよ」

「何の確認?」

「いろいろ」

 月曜の帰りがけチハルを追って連絡先を聞きに来た5人の子たちが目に浮かぶ。…私嘘付いたしな、あの子たちに…



 「でも私弟に口止めされてんの。私のとこに聞きにきても連絡先とか教えないでって」

「あ~~月曜日も聞かれてたよね」

「月曜?」

「月曜日帰る時にヒロセといるところに弟クン来て、その後女の子が集団で来て…」

「何でサキちゃん知ってんの!?」

「うん、見てた。せっかくヒロセとどっか行こうか、みたいな話してたとこを弟クンに邪魔されたくさい現場をね、たまったまね、見ちゃったんだよね~~~」

どこから!?探偵?サキちゃん…ヤだな…

「やだ、」とサキちゃん。「そんな目で見ないでよ」





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