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じゃあまた

 ぶつぶつ言いながら去っていく5人をヒロセと見送る。

 どうしよう…ヒロセと図書館行きたいけど…チハルも気になる。せっかくちょっと良いキョーダイ関係、また築けそうな感じだったのに。

「ごめんね、」と私はヒロセに言う。「なんか…うちの弟感じ悪くて」

「いや、そんな事はねえよ。大変そうだな。さっそく女子からあんなに。ちょっと羨ましいわ」

「マジで!?」

「ちょっとな。オレにもあれくらい女子が食いついてこねえかな…」

「それマジで言ってんの?ヒロセそんな事言いそうにないのに…」

え~~~~…やだなそんなヒロセ。


 「そう?」となぜか嬉しそうなヒロセ。「オレって何、誠実そうな感じとか?女子に興味なさそうとか?」

「誠実っていうか…みんなに優しいけど、別にそれはモテようとか思ってやってるんじゃないでしょ?普通にみんなに良い感じに出来るってすごいよ」

 ヒロセが少し驚いた顔をしている。「お~~~…なんかすげえ褒められてるような気がするわ。なんか…ジュースとかおごりたくなってきた」

ハハハ、と私は笑ったがヒロセは急に真顔になって言った。

「いろんなヤツに適当に話合わせてるだけだよ。それが一番楽だから。オレなんかただ調子いいだけのヤツなの」

「…そんな風じゃないよ。私はだって…嬉しかったよ?他の子に話すようにあんまり話した事なかった私にも普通に話しかけて来てくれて」

「あ~~…」ヒロセが弱冠目を反らす。「あのな、こんな事言ったらさらに調子よく聞こえるかもだけど、キモトには本気で話しかけたかったから話しかけた。オレは誰にでも調子よく話すけど、そんな、女子に誰にでも二人で勉強しようとか言わないからな?アイスとかだって女子と二人きりで食べたのキモトが初めてだったから」

「ほんとに?」

「ほんとほんと。キモト…そんなに真顔でオレを見つめるの止めような。超恥ずかしいから」

 そっか…どうしよう…かなり嬉しい。すごい嬉しい。

 やっぱりヒロセと図書館行きたいな。



 が、そんな恥ずか嬉しい私たちのところへ、自転車を押しながらチハルがまた現れた。

「何してんの?帰ろうよ姉ちゃん」

「…私これからヒロセと…」

「じゃあヒロセさん」とチハルが言う。「先に失礼します」

ヒロセに律儀に、真面目な顔で頭を下げてから、チハルは私のカバンをさっと取り上げて自転車の荷台に乗せた。

「ほらって、姉ちゃん!」

「あ~~…」とヒロセ。「じゃあ、まあまたな」

え~~~~~!図書館行くって言ったじゃん!

 どうして?どうして急に『じゃあまたな』?

 ヒロセを恐ろしく残念な顔で見つめてしまうと、あからさまに目を反らされた。

 …ほんとにどういうこと?さっきあんな嬉しい事言ってくれたのに。


 

 チハル?チハルのせい?

 もう~~~チハル~~~~。ほんとに自分勝手なんだから!

 私のカバンを乗せて先に行くチハルを追う。

「チハル!」

「ごめん」

「何がよ?ヒロセに…」

「さっき嘘付かせてごめん。やたら聞いてくるからラインとか」

あの子たちの事か。そんなんどうでもいいわ、ヒロセに謝れ。

「いいじゃんラインぐらい」

「よくねえよ。中学の時にも学祭に来た女子にやたら聞かれてすげえめんどくせえ事になったんだって。他にも友達の彼女のツレとかいろいろあったんだって。超めんどくせえから女子とか。大丈夫、男とは普通に連絡してるから」

「男子と連絡取ってたらバレるでしょ、スマホ持ってんの」

「いい。どうでも。良かった、この学校、校内スマホ厳禁で。それより良かったの?図書館行くんじゃなかったの?」

「あんたが!あんたが帰ろうっていうからじゃん!」

「そう?」

何が『そう?』だ。


 「ああいうの良くないよ」と注意する。姉だから。「あんたヒロセに態度悪かったよ。自分でわかんないの?ヒロセが気を使ってくれてんのに返事しなかったり。ほんとに…せっかく数学教えてもらおうと思ったのに。ていうかさ、ほんとにシスコンだと思われるよ」

ハハハ、とチハルが笑った。「いいよ別にシスコンだから」

気持ち悪!何言い出してんだか急に。

 「どこがよ?姉ちゃんなんて最近また言い出しただけじゃん。ずっと態度悪かったくせに」

 ヒロセと図書館に行けなかった腹いせにそこまで言ってしまう。本当にチハルが悪いし。

「いいよどうでも」チハルが私を見る。

どうでも良くないでしょ?




 家にいた母に、チハルと帰って来たのを「あらあらあらあらあら~~~」と言われながらも、母が作ってくれた焼きそばを二人で食べた後で、結局チハルに数学を見てもらう私だ。

 情けない。一応姉なのに。

 母にも突っ込まれる。「あれ?チハルが教えるの!?」

「…ごめんなさいお母さん。私数学ほんと苦手で、1年の時のも良くわかんないとこがいっぱいある」

「そっか~~~。なんか懐かしいな~~。小学校の時とかチハルがチナちゃんに漢字とか教わってたよね~~」

「…」

弟に教わらなければならない恥ずかしさがさらに増して来た!


 「チハル、悪いんだけどあんたの部屋か私の部屋かに移動して教えてもらえない?」

「「ダメ」」

こそっと下でに出て言ったのに母とチハルに同時に却下された。

 母を見つめるとニッコリと笑って言う。「勉強にならなくなるから」

 チハルを見ると目を反らす。

「さぼったりは…」と二人に言う。「しないけど!ほんと切羽詰まってるから明日のテスト」

「「ここで」」とチハルと母がまた二人揃って言う。

「じゃあ…はい、わかりました」ふてくされて言う私。「でもお母さん、あんま見ないでください。恥ずかしいから。2年では数学頑張ります」






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