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一緒に帰ろうかと思って

 でもなぁ~…「私さ、今日あんまお金持ってないかも」

「あ~そっかじゃあコンビニとかでパンとか買って、図書館の隣の公園でちょっと食ってからって感じは?」

わ~~それ楽しそう…

「姉ちゃん」

行きたいな…行っちゃおっかな…

「姉ちゃん」

勉強も教えてもらえるし。

「姉ちゃん!て」

 ふん?

 ヒロセも「おっ」って顔をした。振り返るとチハルがいた。



 「姉ちゃんて呼んでんのに」とちょっとムッとしたチハルに言われる。「無視すんなよ」

「違うよごめん、学校で『姉ちゃん』て呼ばれ方に慣れてなかった」

 だいたいチハルから『姉ちゃん』て言われる事に慣れてないんだから。


 「お~~…キモトの弟」

そう言ったヒロセにチハルがペコン、と無表情なお辞儀をする。

「間近に見てもすげえイケメンじゃん!」とヒロセ。「今日の対面式も手え上げた時の女子のザワつきが…」

「どうしたの?」とチハルに聞く私。

「一緒に帰ろうかと思って」

「「へ?」」と驚く私とヒロセ。

一緒に住んでないのに?

 「なんだ」とヒロセ。「キモト、キョーダイ仲良くないみたいな事言ってたけど、仲良いんじゃん。なぁ?」

『なぁ?』と最後はチハルに振ったのに、チハルは失礼な事にヒロセに返事をしない。

 チハルめ~。



 「あのね、」とチハルに言う。「私ちょっとこれから図書館に行く事に…」

 チラッとヒロセを見るとヒロセがニッコリしてくれた。ヤダ照れちゃいそう…

 が、チハルが言う。「オレの昼メシ作ってよ姉ちゃん。腹減った」

「「え?」」とまたヒロセと声を合わせてしまった。

 「すげえなキモト、弟にメシ作ってやってんの?えらいじゃん」

 チハルにご飯なんか作った事ないですけど?

 むかしむかし小学生の頃、母がいない時にお腹が空いたというチハルに、おにぎりやハムとレタスを挟むだけのサンドイッチとかは作ってやった事はあった。二人きりの時に火を使うのは禁止されていたから。



 …けど!急に何言い出してんのチハル。それに学校でも普通に姉ちゃんて呼んでくるなんて…高校になったとたんに変わり過ぎだ。

「何なに、いつもどんなの作ってんの?」とヒロセ。

「いや、…そんな…」

「オレも食べたいかも!」とヒロセが言い出す。

 何言い出してんだヒロセまで。


 「でもヒロセ、今日図書館行こうって…」

「あ~~うん」チハルの手前ちょっと照れくさそうにヒロセが返事してくれた。

「あのねチハル、私数学わかんないとこ結構あって、今日教えてもらわないとヤバいんだよ。それでヒロセと今から図書館に…」

「じゃあオレが教えてやるよ」

「何言ってんの?あんた1年になったばっかじゃん」

「中学の時に高1のとこ終わってたから」としれっと言うチハル。「オレが教えてやるって」

「「…」」顔を見合わせる私とヒロセ。


 はあああ!?

「じゃあなんで私に勉強教えてとか言ってきたのあんた」

 姉ちゃんとか言ってさ、教えてとか言ってさ。ちょっと甘えた感じ出してさ!からかってたのか?タチ悪いなもう。

 それにはまた無視するチハルだ。

 …ぅうぅっざっ!!超感じ悪い。ヒロセの前なのに!



 それなのにヒロセは言った。「すげえな…」

 心から感嘆している、と言った純粋な『すげえな』だ。

「すげえじゃんキモトの弟。オレんとこの弟なんか、よくここに受かったなって思うくれえ勉強できねえけどな。さすが新入生代表って感じだよな。すげえわ」

 またしてもヒロセに返事をしないチハル。感じ悪っ!ヒロセは生意気なチハルの言葉にイラつきもしないで大人な返しをしてくれたのに。ヒロセのこういうとこが凄いんだよね。…カッコいいな。

 「今日お母さんいるから。仕事休みで」とチハルに冷たく言い放つ私。「帰ってお母さんに作ってもらいなよ」

 チハルはちっ、と舌打ちした。

 舌打ち!ヒロセの前で!睨みつける私。



 そこへ「あの…」と後ろから女の子の声。

 3人で振り返ると、5人の1年生女子。ブレザーの襟のピンバッジがチハルと同じオレンジ色だ。

 一人の一番目立っている、サラサラ長い髪の結構化粧バッチリめの子が言った。

「チハルくん!連絡先教えてくれないかな。クラスのグループラインするのに」

「持ってない」と即答するチハル。

「「「「「え!?」」」」」本気で驚く5人の女子。

「スマホ持ってないって教室で言った」淡々と答えるチハル。

「…あ…じゃあ」とサラサラの子は言った。「メアドでも」

「ケイタイ持ってない」

チハルの受け答えにヒロセが妙な顔で私を見る。

 「…うそでしょう?」別の女の子が恐る恐ると言った感じで聞いて来た。

「私たちがしょっちゅう連絡してきそうで嫌だからそう言ってない?」と別の子。「そんな事しないよ」

「持ってねえよ。なぁ姉ちゃん」

 私!?

 一斉に5人の女子が私を凝視する。

 え?え?とうろたえている私に届く。女の子たちが口々につぶやく声が。「え、姉ちゃんつった?」「姉ちゃんいたんだ!」「しかも同高て」「姉ちゃん全然似てないな」「お姉さんとそいで彼氏?」


 「ほんとですか?お姉さん」サラサラの子が真っ直ぐに私を見て言った。

「え…と、…うん」

あ~~~…嘘付いた私…

 私を睨みつける5人。嘘だってバレてるでしょコレ。

 …ってこら!黙って先に帰るなチハル!

「あの、…ごめんね!」

なんで私がと思いながら5人に謝る私。





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