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笑顔


 笑った!!

 私にチハルが。チハルが私に。

 びっくり…

 チハルがゆっくりとマグカップを口に運ぶのを見つめてしまう。それに返すようにチハルはまた笑ってみせてから、「うまいよ久しぶりに飲んだ抹茶ミルク」と言った。

「…そう?」

 感じの良いチハルにビクつく私だ。



 でもそっか…もうっ…焦った~~…し、びっくりした。

 チハルがもしかしたら私の事を好きなんじゃないかと思っちゃったよ…

 それにしてもどうしたんだろ、チハルの久々の笑顔は…抹茶ミルクでほだされたのかな。

 可愛いし嬉しいし、でもちょっと気持ち悪い。だから私が怪しんで見てしまうのは仕方がない。チハルが本気で私の事を心配してくれたのかどうか…今までがあまりに私に対して態度悪かったから。

 それでも3年も離れていて高校にも上がったから、チハルも少し落ち着いて、もう姉を無暗に嫌ってみせるような子供じみた事は止めようと思い直したのかも。

 あくまでも『かも』だけど。




 「マジで心配だったから」

チハルが私の心を読んだかのように真顔で念を押して言う。

 本当に?とまだ思いながら「…ありがとう」と言う。が、チハルは続けた。

「姉ちゃんは急に告られたりしたら舞い上がりそうなタイプじゃん」

何!?

「ちょっと相手が気安そうなやつだったらほいほい着いてきそうじゃん、人見知りのくせに」

へ!?

「あぁいうなぁ、一見男男してないようなやつだって二人きりになったら何するかわかんねえんだから、なんかうまい事言われても早まってすぐ家とか絶対ぇついてったりすんなよ?」

「あんたお母さんから何て聞いたの?」

「チナが友達と図書館で勉強会してるって。男も一緒らしいって」

「…うん、…そうだったけど」

「本当はあいつと二人きりだったろ?」

「へ?」

「ヒロセってやつとほんとは二人だったんじゃねえの?」

「…そんなことないよ!」

嘘の否定をした私をじっと見つめるチハル。

 負けないよ。嘘の否定したけどね。だってこれからなんだから、ヒロセと近付く感じなのも。


 「あ!」と大きな声を急に上げてしまう。「ヒロセに連絡するの忘れてた!」

「…何を?」

「心配だから帰りついたら連絡してって言ってくれてたんだった。急にあんたがいたから驚いて忘れてた」

「そっか」チハルが笑った。

「そうそう」

私もてれ隠しでちょっと笑いながら、手早くラインで帰りついた事を連絡するの遅くなってごめん、と連絡する。



 「まあいいよ」とチハルがふっと笑って言った。

「何、まあいいって」

「別にどうでもいいって事」しれっとした顔で言う。

 じゃあなんで!じゃあなんでわざわざ…


 

 「なあ姉ちゃん」

「…何?」

「姉ちゃん、今度オレとも図書館行こうよ」

「え?」

「図書館で勉強教えてよ」またニッコリと笑うチハル。

 姉弟で?「なんでわざわざ図書館?高校生のキョーダイでわざわざ図書館とか行かないでしょ?」

「そう?」と明るく答えるチハル。「別にいいじゃん。じゃあ家で教えてよ」



 まじまじとチハルを見る。

「だめなの?」とチハル。

「…いいけど…それはあんたが土日に家に帰って来て、って事?」

「それか姉ちゃんがばあちゃんとこ来てくれてもいいけど」

 勉強会するの?キョーダイで?私がものすごく成績が良いっていうんならわかるけど。それに私の事を嫌っていたチハルと、そしてまだ一緒には住んでいないチハルと、家を行き来して勉強会するの?

 ちょっとずつまた距離を縮めて行こう、仲良くしていこう、って感じで言ってんの?

 ?しか浮かばない。



 「急にどうしたの?あんた成績良いじゃん。だから入学式のあいさつもしたんでしょ?」

「あ~~まぁそうだけど。明日も挨拶やらされる」

「明日?明日の対面式でって事?」

 明日予定されている、新一年生と私たち2、3年生との対面式で、またチハルが挨拶を読むらしい。

「すごいじゃん。入学式の時もほんとすごいちゃんとしててさ、びっくりしたよ。ずっと…」

「ずっと何?」

「何でもない」

「何?ちゃんと言ってよ」笑顔で催促してくるチハル。

 

 やっぱりどうしても目の前の笑顔のチハルにすごく違和感を感じてしまう。

 姉ちゃんと呼ばれる事も、笑顔を向けられる事も凄く嬉しいのに、今までと打って変わった態度に、何かの裏を探ってしまう。



 「ずっともう…ちゃんと喋った事もなかったから」と答える。「なんか全然違う人みたいで。でも嬉しかったっていうか…」

 チハルが腰を上げ、ソファからその足元へゆっくりと腰を下ろした。

 今まで見上げて話していたチハルとの距離が縮まる。


「姉ちゃんさ…」

カーペットの上に立膝で座ったチハルが膝に腕を持たせ、小首をこちらにかしげながら聞いた。

「姉ちゃんそのヒロセってやつ、気になってんの?」

「…」

「まさかもう告られた?」

「ううん!ヒロセは…なんていうかみんなに良い感じで優しいんだよ。それにほんとに二人きりだったのまだ入学式の後と今日だけだし」

 だからそこまで意識し過ぎちゃいけないんだとは思うんだけど。でも家にも誘われたよね。それで結構意識してる。

「やっぱ二人きりだったんだ?」

少しからかうような感じで笑顔で聞くチハル。

 「あ~~~…うん。…あ!でも今日帰り、ヒロセもちゃんと送ろうかって言ってくれたんだよ?でも早い時間だし、送ってもらうのとかちょっと恥ずかしくて断ったんだよ」

「で?姉ちゃんはどうなのかって話だよ。姉ちゃんはそいつの事好きなの?どうなの?」





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