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オレは妹が欲しかったのに

 チハルと初めて会った時の事を思い出す。

 タナカさんと食事をする約束の場所に先に着いた私と父。

「本当にどうしてもチナがいやだったら止めるから」と父に念押しされ私は気が重かった。

 新しいお母さんが出来るだけでも結構不安なのに、その上、欲しくもない弟までついてくるなんて。弟になる子がいるのがわかったのは、タナカさんともう3、4回会った後、つい2ヶ月ほど前の事だった。

 何で最初から言わないかな!と思っていた。

 そして父の言葉。どうしても私が嫌だったら止めるって。私はそれを素直に、私を1番に考えていてくれているからなんだな、とは思えなかった。

 …私に決めさせるって事?と思った。結婚したがっている父に嫌だと言って、この先、ずっと寂しい想いを父にさせるのが私になるって事?



 そしてやって来たタナカさんと、結構可愛い顔をした『弟』。その『弟』は私を見るなりタナカさんに言ったのだ。

「オレは妹が欲しかったのに」

はぁ!?

 

 実際に「はぁ!?」という声がその待ち合わせしたレストランの中に響いた。

 それは私ではなくタナカさんの声だった。



 「ああ!」と瞬時に取り繕うとする父。「いきなりだったもんねぇ、いきなりお姉ちゃん出来たとか言われたら誰だってびっくりするもんねぇ?」

「いや」とその『弟』は静かに私の父に言った。「知ってましたけど。姉ちゃんが出来るんだって」

 父の顔を見上げてそう言った『弟』を困ったように見つめる父。


 歳の割にしっかりした口調じゃん、と思った小5の私も生意気かもしれない。

「あ~…そっか…」小4の子相手にまだどう取り繕うか迷っている父。

「ちょっとチハル」と結構ドスの利いた声で言ったのはタナカさんだった。「なんで今そういう事言う?あんたちゃんと納得したじゃん。チナちゃんの事話した時だって全然嫌がらなかったくせに、なんで今になってそんな事ここで言うの?」

 キレ気味のタナカさんに余計あたふたする父。

 それを見ながら私だって、と私は思っていた。

 私だってお兄ちゃんが欲しかったのに!



 黙り込み、タナカさんとしばらく睨み合うチハル。

 タナカさんから静かに口を開いた。「あんた何言ってんの?」

怒りを思い切り含んだ声だ。でも『弟』は全く動じずタナカさんをじっと見上げている。

 タナカさんが続けた。「会ったのは初めてだけど今までさんざん話はしてたし!…チナちゃんごめんね、おばちゃん仲良くなって欲しかったから勝手に写メ見せてたんだけど、その時はただ嬉しそうに見てたから…」

「嬉しそうには見てねえ」と即座に、機嫌悪そうに否定する『弟』。

 ぎゅっ、と『弟』の片頬をつねるタナカさん。

 


 何をしてくれるんだと小5の私は思った。もう、タナカさん、勝手にどんな写真見せてたんだろう。可愛く写ったやつだったらいいけど、そんなに可愛く写ってた写真なんて父が持っていたはずがない。まぁ私も弟になる子の事はある程度知ってたけど。タナカさんが父におくった写真も見た事あったし。

 私だってお兄ちゃんが欲しかったのに、と言いたいところだったが我慢した。

 なぜなら私はお姉ちゃんだし。

 それに、怒った声のタナカさんが泣きそうな顔をしていたからだ。くそっと思った。

 ガキくさっ!と私は『弟』に対して思っていた。

 大事なお母さんが父と私に取られたみたいで腹立たしいんだろう。しょうがないよね、子どもだもん、と私は思っていた。なぜなら私はお姉ちゃんだから。


 

 今思えば1学年違い、という事もかえって距離を取らせたのだろうと思う。実質半年しか歳が離れていないのだ。そりゃあお姉ちゃんとも呼びにくんいんだろう。

 わかるわかる。

 だって私はお姉ちゃんだから。

 

 それでも私だってと思っていたのだ。

 私だって我慢してるし、弟なら弟で、どうせならもっと赤ちゃんくらいの子が良かった。姉か兄か妹が欲しかったんだけどね!私だって弟なんかいらなかったんだから。



 雰囲気の良くないままその食事会は終わり、1か月後くらいに4人で今度は遊園地へ行き、私と『弟』は相いれないまま、よそよそしい感じで始終タナカさんと父をはらはらさせた。

 私はお姉ちゃんなんだから、と思ってはいたんだけど、うまく対応できなかった。

 当時は自分でもなんでだろうと思ってはいたが、今思えばお互い親一人の一人っ子として育っているので、そんないきなりキョーダイになるかも、とか言われたところで急に仲良くは出来ないのは当然だったのだ。私たちはちっとも悪くなかった。

 

 が、私とチハルの相いれない様子に、再婚を取りやめるのかと思ったがそんな事もなく、父が急に転勤になったのを機会に結婚してしまった。

 大人って嫌だよね。あんなに私たちの気持ちを気にしてたくせに。

 …まぁその頃までには私もチハルも、会うたびにお互いに少しずつ慣れていき、幼いなりに父と母の事を考慮して、仲良くまでは出来なくても、反目はしないように気を使っていた。

 いじらしい話だ。

 実際知らない土地に来て父と二人きりより、家族4人で良かったなとも思えていたし。

 




 そして今に至る。

 私が高2で弟は高1。難しい年頃だよね。本当の姉弟じゃない分余計。

 小、中の頃は友達のユマちゃんの二つ年上のお兄ちゃんが、遊びに行くといつも優しくて、その上イケメンでいつも羨ましくて、チハルと家族になってからも、やっぱりお兄ちゃんが欲しかったなと思う事もよくあった。

 もちろん口に出さないようにしていたけれど。

 それでも大きなケンカをする事もなかった。本物の弟じゃないから。



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