表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/114

黙っててあげる

 ヒロセと別れた後スマホを見ると母から着信があったので電話する。

 今から帰るけれど、本屋に寄りたいから少し遅くなると伝えると、母は買い物の帰りに祖母の家に寄っているらしくて、祖母と一緒に早めの食事をして、私の分は持ち帰ってくると言ってくれた。

「ありがとう」と私は母に言う。「おばあちゃんとチハルと、ゆっくりしておいでよ」

 すぐに母から写真が送られてきた。「一人で家にいる時は、ちゃんと鍵かけておくんだよ。これ今日買ったチハルの新しいお弁当箱。チナちゃんいなかったから選ぶのに時間かかったよ~~」

 普通に男子が持ってきているような大きめの黒いお弁当箱。そうかお弁当箱とか買ってたのか。やっぱりお母さんと一緒に買い物に行けば良かったかな…

 母は私にあまり遅くなるようなら迎えに行くと言ってくれたが、ちょっと本屋に寄るだけだし自転車だからと言って断った。ちょっとぼんやりヒロセの事を考えたかったのだ。それと今日のソワソワし過ぎた事の反省。

 ヒロセが『オレんちにも来て』とか言い出すから。

 急激に意識し始めてしまった。まだほんの少ししか関わっていないのに。



 ヒロセはそういう子なのかな。誰でも気軽に家にさそっちゃうような。

 いや、そういう子だとも思う。下心も親しいもまだ親しくないも関係なく、すごく近いんだけどでもあっさりとしている、みたいな距離感でいつも他人と接しているような風に感じるから。しかも男子にも女子にもだ。


 たぶん他の男子から「家に」なんて仲良く成り立てで言われたら引いてしまうけど、ヒロセだとそんな感じが全然しない。

 だからここで、私が変に意識し始めたらいけないんだろう。ヒロセだって言っていた。図書館は込むからって。…でも、ゆっくり話が出来ないからとも言ってたな…。

 じゃあ私とゆっくり話をしたいと思ってくれてるって事だよね。それならちょっとは意識していいって事なんじゃないの?いけないの?どうなの?今日だって二人きりの誘いだったわけだし。いくらヒロセが社交的でも、そうそう家に女の子をあんな感じで誘ったりしないよね?

 そうであって欲しい。

 私も、もっとゆっくりヒロセと話してみたい。

 



 5時半過ぎに家に帰り着くと、あれ?家の前にチハル!?

 驚いて自転車をチハルの前でキュッと止める。

「どうしたの?まさかおばあちゃんに何かあったの?」

「ねえわ!」キレた感じで答えるチハル。

 そうだよね、お母さんそんな事言ってなかったし。でもなんか…チハルが家の前にいるなんて全く、これっぽっちも想像できない事だったから何かあったのかと思ってびっくりした。良かった。



 「お母さんと一緒?」自転車を車庫の脇に停めながら聞く。「おばあちゃんとこでご飯食べて帰るってお母さんは言ってたんだけど」

「なぁ、お前を誘ったヤツって家まで送ってくれねえようなヤツなの?」

「…」は?

「今日一緒に出かけてたヤツだよ。家まで送ってくれねえようなヤツに誘われて、お前はついて行ってんのかって聞いてんの」

「…何言ってんの?」

急に帰って来て、急に何言い出してんの?

「何言ってんの?」ともう一度聞く。

鍵を取り出しドアを開けると、チハルは私の横からすり抜けるようにして先に家の中に入っていった。

「ちょっと!チハル!」



 チハルの後を追いながら「お母さんは?」ともう一度聞いてみると、「帰ってねえ」と答える。

これは母が、チハルにヒロセと勉強しに行った事を話したって事だよね…

 「あんたもしかして一人で自転車で来たの?」

「お前さぁ」とチハル。「もっと選んだら?」

「何を?」

「付き合うヤツ!」

「何言ってんの?」



 何言ってんのとは言いながら、チハルが何をキレたように言い出しているのかはわかる。

 今日ヒロセと出かけた事を母から聞いたからだろう。

 確かに入学式の後、わざわざ私の部屋へやって来て、ヒロセと仲良くしないでって言われたけど…

 先にリビングに入ったチハルがどさっとソファに体を投げるように倒れ込んだ。

 …何コイツ…何で急にこんな…


 そこで母から電話だ。

「チナちゃん家に帰りついた?チハル来てない?」

「来てるけど…」

ハハハ、と母が笑った。

 何笑ってんのお母さん…


 「一緒にそっちでご飯食べるんじゃなかったの?」と聞いてみる。

「急にチハル、黙って出て行っちゃうから」まだ若干笑っているように聞こえる母の声だ。

「チナちゃんが友達と図書館に勉強しに行って、その中に男の子もいるってちょっと言ったら」

「…」

「チナちゃんの事心配で図書館まで迎えに行っちゃったのかなとは思ったんだけど」

「…」なんで!?


 「お母さんね、」さっきよりも明らかに笑っている顔が浮かぶ感じの声の母。「ついチハルとおばあちゃんに教えちゃったんだよね、なんか嬉しくて」

「なにが!?」粗い口調になる。

「チナちゃんが男の子とデートだっていうのが。だってそんなのはじめてじゃん。お母さんがニヤニヤしちゃう」

「だから!図書館で勉強って言ったじゃん!まだデートなんかじゃないの!」

「まだ?」

「…」

「ごめ~~~ん。だって娘に彼氏が出来たら嬉しいじゃん」

「だから!まだ彼氏とかじゃ全然ないから!」

「まだ?まだってこれからやっぱりそういう感じになりそうなの?」

「…お母さん…今日は普通の勉強会でした」

「普通?そうなの?でも本当は二人きりだったんでしょ?」

っ!「…違う」

「チハル、ご飯どうすんのかな~~~」と急に話を変える母。「もうおばあちゃんとお父さんと食べちゃうからって言っといて」

「お父さんも?そこ行ってんの?」

「今日は買い物一緒に行ってくれたんだ。…、あ、お父さん呼んでるから切るね!」

そして母はコソコソした声で付け加えた。「今んとこお父さんには二人きりでって事は秘密にしてあるから。ね?」

プー、プー…




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ