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初心者な私

 昼食後1時半の約束に少しビビりながら図書館に向かう。

 駐輪場に自転車を止めて図書館の玄関の方へ歩いて行く途中で、ピロロン、とラインが鳴った。ヒロセからだ。

「玄関脇」とだけ。

「私も今着いた」とだけ返信して少し急ぎ足になる。

「よぉ~~~」玄関脇からピョコンと現れて、少し手を挙げて私に近付いてくるヒロセ。

私も片手を少しだけ上げて答えた。



 「なんか悪かったな」とヒロセが言う。「急に誘って」

ちょっと恥ずかしそうに笑って言うヒロセに好感が持てる。

「ちょっと断られるかな、とかも思ったんだけど良かった、来てくれて」とヒロセ。

「ううん。誘ってくれて嬉しかったよ。お母さんと買い物に行こうとしてたんだけど、お母さんも行って来なさいって」

「親にも言ったの?親、オレと一緒だって知ってんの?」

「別にそんな、」と慌てて説明する。「友達と普通に図書館で勉強するって言ったら、もしかして男の子?って聞かれたから、そうだって言っただけだよ」

「そっか…いや、男と二人でって聞いたら、ちょっと心配すんじゃないかなって思っただけ」

「ううん。…二人でとかって言ってないから…」

「や、でも二人なんだけど」

ヒロセが自分と私を指差して苦笑する。

「うん」とだけ答える私。



 日曜なので図書館の学習室も込んでいた。

 私たちは真ん中の方に二人、隣同士で座れる席を見つけてそこへ座った。

良かった。向かい合ってはちょっと恥ずかしいから。

 持って来た1年の時の教科書や、春休み中に配られたテキストや問題集を開いて勉強して、それですぐ隣のヒロセが気になって、でも気になってない振りをして頑張って勉強して、やっぱりヒロセが気になって、でも気になってない振りをして勉強を続ける。

 ヒロセが「でも二人きりなんだけど」って言った時の、ちょっとおどけたような恥ずかしそうな困った顔がずっとチラチラしている。

 しょうがないよね!だって男の子と二人きりで勉強会とかはじめてなんだから。



 …あ、ヒロセは初めてじゃないのかな。

 いやだな!初めてじゃなかったら。

 でもヒロセくらい感じがいい子だと、きっと中学の時にだって彼女いたよね…彼女じゃなくても仲良い女の子がたくさんいただろうし…

 ダメだな。集中できないな。せっかく誘ってくれたのにカッコ悪いな私。

 そう思っていたら、ふっ、とヒロセが少し近付いてサラサラっと私のノートにシャーペンで書き出した。

「人多いな」

チロッとヒロセを見ると笑っている。

 こくん、とうなずく私。

 人は多いがみな静かに勉強しているのであまり喋ったらマズい。

 ヒロセがまたサラサラと私のノートに書いた。

「今日ほんとは昼メシも誘おうと思ったんだけど」

パッとヒロセの方を見て、マジで!?、って顔をしてしまった。

「いきなりやっぱ昼メシもとか食いたいけどどこ連れて行っていいかわかんないし急に昼メシまで誘って図書館も断られたらイヤだし難しいところでした」

サラサラサラサラ、とヒロセが書くのを見ていてちょっと笑いそうになった。


 嬉しいな!やっぱこういうとこ可愛いなヒロセ。

「ありがとう」とヒロセのノートに書く私。

「ありがとうってどういうこと?」とヒロセ。「誘ってもいいって事?」

ヒロセのシャーペンの先を見ながら、わ~~~~と思う。

 ヒロセをチラっと見てしまうと、ヒロセがパッと下を向いた。

 わ~~~~。

 どうしょうどうしょう…「うん」て書くのもなんかあからさま過ぎない?

…よし!ここは頑張ってブッてみよう!

 ヒロセのノートに小さく「○」と書いて、自分のノートに向かい、解いている途中の数学の問題の続きを考える振りをする。

 ヒロセももう何も書いて来ない。ヒロセの方を向く事も出来ないし。

 ダメだ、隣に誰もいないと思って勉強しよう。



 しばらく問題を解く事にどうにか集中する。

 が、それがすぐ切れそうになるから、集中しようと思えば思うほど余計な事を考えてしまう。入学式の後のアイス屋でヒロセのアイスを一口もらって食べた事とか、中学の時の明るくて今より可愛いヒロセまでチラチラ登場し始めて問題は解けない。

 そして解けないのを見つかってヒロセがすごく小さな声で教えてくれる。

ありがたい。ありがたいけどなんかもう…ここにいたいのに早く帰りたいみたいなどうしようもないソワソワ感に襲われ始めた頃ヒロセが「そろそろ出るか」とコソっと言ってくれた。

「閉館ギリギリで帰るのもな。キモトあんま遅くなって心配されたらいけないし」



 片付けて駐輪場へ向かう私たち。

 ダメだよね~私。そりゃいくら男子と二人きりの勉強会がはじめてだって言ってもソワソワし過ぎだよね。ヒロセにバレてないといいけどな。やっぱバレてるのかな…。

「なんかオレ」とヒロセがちょっと笑いながら言う。「一緒に勉強したくて誘ったのに、キモトと二人きりだと結構ソワソワしたわ。なんか勉強に集中できなかったかも」

「…」

 ホントかな!?そんな感じ全然しなかったけど?ずっとソワソワしてたの私の方だったけど?



 「なあ…」とヒロセ。

何?なんか言いにくそう?

「…なに?」と催促する。

「オレと二人なの、嫌じゃなかった?」

「嫌じゃないよ!」慌てて言う。「ありがとヒロセ、今日誘ってくれて。数学も教えてくれたからすごく助かった私」

「そっか。…ほんとにまた誘っていいの?」

「…うん」

ヒロセの目を見るのが恥ずかしい。

「そっか。じゃあキモトんち送るわ」

「え?大丈夫だよ!ヒロセんち逆方向じゃん」

慌てて断ってしまう。今日は充分ソワソワしたからもうこれ以上は無理だ。送ってくれるっていうのはものすごく嬉しいけれど、そこまでされたらソワソワでどうにかなる。一人でゆっくり帰りたい。それにヒロセは実際方向が違うし、遠回りしてもらうのは気が引ける。



「そうなん?」とヒロセ。

「ほんとに大丈夫。…あの…また数学、わかんないとこあったら学校でも聞いていい?」

「お~~。じゃあ今日はここで。でも心配だから帰りついたら連絡しろよ」

わ~~~…なんかヒロセ。…なんかちょっと…ちょっとっていうかだいぶカッコいいかも。

「なあ」とヒロセが言う。「そのうち…そのうちオレんちにも来てよ」

「え!?」

「あ、いや…キモトが嫌じゃなかったらオレんちでも勉強しよって話。…ほら、図書館混んでたりすんじゃん。あんま話できないし」

「…うん」

 わ~~~。



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