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ダメだな

 そしてまたチハルとの事を思い出す。

 何で急にあんな事して来たんだろう…やっぱ嫌がらせのためか?

 それなら当てがはずれたよね。気持ち悪いと思いながらも私、若干喜んじゃったてたしあの時…



 母の気持ちを確かめたいので言ってみる。

「チハル、今日もせっかく楽しいお祝いなのに、おばあちゃんとこ帰っちゃうからお母さん寂しくなったんでしょ?」

「…あ~~まぁ…ね」

「…なんかごめんね」

「もう!それはもういいんだって。言ったじゃん。もうごめんて言うな~~」

少し酔っ払って来てんのかな、お母さん。

「チハルも本当は、一人暮らしのおばあちゃんの事も心配でおばあちゃんとこに住むんでしょ?私そういうの全然気付かないでごめん。お母さんさ、私のいるお父さんと結婚したばっかりに、自分の子どもとも自分のお母さんとも住めないとかおかしいよ。おばあちゃんもうちに呼んで5人で暮らしたらいいんじゃないかな。私おばあちゃんの事すごい好きだよ。チハルはそれでも私の事嫌かもしんないけど、私はなるだけチハルに関わらないように気を付けるから、そこはチハルにも我慢してもらって…」

一緒に住む話をあえてまたしてみる。母がどんな反応を示すか確かめたいからだ。

 が、母はさっそく本題に入って来た。

「チナちゃん…今日、チナちゃんの部屋にチハルがいたでしょ?」



 わ~~~。

 ドキっとしたが何でもないように「うん」とだけ答える。

「何かされた?」と聞く母。

「…」

 直球だな!

 やっぱり母はチハルと私の仲をそういう感じに思ってるのか?

 じっと私を見つめる母。困る私。そしてそんな私を見つめたままグビッとまた一口日本酒を飲む母。



 「何もされなかった?」

答えられないでいるともう一度母が聞いてきたので、私もつい強い口調で聞き返した。

「チハルにって事?私がって事?」

私も母をじっと見つめてしまう。



 頭の中でいろいろな考えが右往左往している。

「ごめん!」と、たぶんちょっと変な顔をして黙っている私に母が謝ってくる。「もしチハルがチナちゃんに何かしたとして、それはチハルに問い詰めないといけない事だと思うんだけど、どうせ答えないからチナちゃんに聞いてんの。ほんとごめん」

私は黙って首を振る。

「私ね、」と母は私を気遣うように話を変えた。「このマグカップをもらった時が今まで生きてたうちで一番うれしかったかも」

「…ほんとに?おおげさじゃない?」

「ハハ」と母が笑う。「チナちゃんのお父さんにプロポーズされた時より嬉しかったかも」

「ハハハ」と私も笑う。「もう!お父さんに教えるからね!」


 「でもそれくらい嬉しかったよ。チナちゃんがチハルを連れて買いに行ってくれて。次の年にもらったマフラーもその次の年にもらった仕事に持っていく弁当箱も嬉しかったけど、マグカップが一番うれしかったな。はじめてのプレゼントだったし」

 翌年のプレゼントのマフラーはチハルとお金を出し合ったが、その翌年にはチハルとの仲があまり良くなくなっていたので一人で用意した。

「むかしうちで飼ってた黒猫の事をチハルが話したからこのマグカップにしたんだって聞いて、嬉しかったな~~」

「お母さん、今日チハルが私の部屋に来た時ね、『姉ちゃん』て超久しぶりに言われたんだよ。別に何もされてない」

ちょっと肩を掴まれたけどそれだけだった。


 「へ?」母が驚いた顔をしている。

 そんなに驚かなくても。…まぁ私も呼ばれた時は驚いたけど。

「なんかね…」母に出来るだけ普通の感じでもう一度教える。「あの時久しぶりに私の事『姉ちゃん』て呼んで来たんだよ」

「…」

 怪訝な顔の母。



 「どういう事?」と改めて真顔で聞く母。

 いや何でそんなに不審がる。私は普通に『姉ちゃん』だから。ずっと呼ばれてなかったけど、本来なら『姉ちゃん』ていつも呼ばれてないといけないはずだから。

「なんかね…私も急にどうしたのかって思ったんだけどね…しかもなんかちょっとね…甘えるような感じだったんだよ」

「マジでっ!?」声を張り上げる母。

1階の端の父が寝ている父母の寝室にまで聞こえるくらいの声だ。私もビクッとした。

「…そこまで驚かなくてもいいんじゃない?」

が、母はさらに声を張り上げた。「キモっっっ!」



「ハハハ!」と私も大きな声で笑ってしまった。「そうだよね、キモいよね!でも私ね…呼ばれた時はあんまり久しぶりに呼ばれたもんだから、ちょっと喜んじゃったんだよね」

マジで…、と聞こえるか聞こえないかの声で言う母。「甘えた感じで!?…なにそれ」

 母はマグカップをテーブルに置き、その手を顔に当てて困ったなポーズをする。母がブツブツ小さい声で言っている。「ねえちゃんて今さら呼ぶって…」。ぶつぶつぶつぶつ…



 「やっぱり嫌がらせだよね?」私は少し明るく言ってみる。「急にまた姉ちゃんとかって呼んだのって。そのくせ夜のご飯の時はまた全然喋んなかったしさ」

「チナちゃん…ダメだな…」

「え!私!?」

「他には?」母の口調がキツい。私の部屋でヒロセの事を聞いて来た時のチハルみたいだ。

「他には?」ともう一度催促される。「何言われたの?」

「…今日、式の時にクラスの子が一緒でね、その子も今度1年に弟が入るからって式出る事になったらしくて、それでお互いの弟教え合ってたところをチハルに見られてね、ウザかったんじゃないかな、それが」

「その事をなにか言われたの?」

細かいとこ聞いてくるなお母さん。本当にヒロセの事を聞いて来た時のチハルみたいだ。



 「言ったら、お母さんまた『キモっ!』て叫びそうなんだけど」と私。

「なになになになに?」母の食い付きがすごい。

「寂しいからその子と仲良くするなって…」

「…あ~~~~…そりゃキモいけど…もしかしてそれ男の子なんじゃないの?」

「…そうだけど」

「仲良いの?その子と。まさか付き合ってたりとか?」

「してないしてない!」慌てて否定する。「中学も一緒だった子で、私はほら、あんま自分からはいろいろ人に話しかけるの下手くそなんだけど、その子は誰とでもいい感じで喋れる子で、知ってる私がいたから結構話しかけて来てくれたんだよ」

 取りあえず帰りにヒロセとアイスを一緒に食べた事は黙っておこうかな…お母さんまたすごく食いつきそうだから。






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