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大丈夫?

 「…なに?」ちょっと声が上ずってしまうよ…。「どうしたの急に」

チラッと横を見るがチハルはうつむいている。どうしよう…なんか…すごく変な感じにドキドキしてきた。

「…姉ちゃん」やっと言いにくそうにチハルが口を開いた。

「…なに?」

何だろう…やっぱ元の学校が良いとか?同じ学校だからって絡まないようにして欲しいとか?オレの事を弟だって人に教えんなとか?聞くのがちょっと怖いな。そんな事言われたらムカつくし。

 でも何を言うのかすごく聞きたい。なになになになに?


 「姉ちゃんにこんな事言うの恥ずかしいんだけど…」と本当に恥ずかしそうにするチハル。

 ほんと何!?いつもとキャラ全然違うじゃん気味悪い。

「なに?」とちょっと強めに促した。早く言え。

「さっき言ってたヒロセってやつと、あんま仲良くしないでよ」

…!?

 まじまじとチハルを見つめてしまって思い切り真っ直ぐに見返されたので、すぐ見つめるのは止めた。



 「…どうして?」ちょっと目を反らして聞く。

「…」また黙りこむチハル。

「…何急にそんな事言い出してんの?」

「なんか…寂しいから」

マジでっ!?

 実際口に出して『マジで!?』って叫びそうになったがなんとか思いとどまった。

 チハルが?

 私にそんな事言ってくるなんて…新しい環境で相当ナーバスになってるって事?

 でも私を『姉ちゃん』て呼んだ。むかしみたいに。

「チハル…」



 そこへダダダダっと階段を上がってくる音。

 チハルがすくっと立ち上がり、さっと身を翻して私の机の椅子に移ったと同時に部屋のドアがバッと開けられた。

「なにしてんのチハルっ!」勢い込んで言う母。「チナちゃんの部屋で!」

「何もしてねえよ、高校の事を聞いてただけ」

さっきの甘えた感じが嘘のような涼しい顔でしれっと答えるチハルだ。



 私は突然部屋に現れた母と、ウソみたいにパッと普通に戻ったチハルに驚いている。

 チハルをじっと見つめる母。そして生意気な感じで椅子に腰かけたまま母を見上げて見返すチハル。

 今の何だったんだろう…

 確かに『姉ちゃん』て言って来たよね?

 目の前のチハルはそんな事なんてなかったようにいつものチハルに戻っている。見つめ合う母と弟。



 嘘なの?今の甘えは嘘?

 …それかやっぱり甘えは本物で、母にそんなところを見られたくないから?

 本物ならやっぱり新しい環境のせい?疲れ?なんでヒロセと仲良くするなとか言う?

 私を試してんの?急に甘えたらどんな風かとか?それ、どんな感じの悪巧み?すごく気持ち悪いんだけど…でも…

 憶測がぐるぐると私の脳内を駆け巡る。

 でもだ。

 でもちょっと嬉しかったかもしれない。久しぶりに姉ちゃんて呼ばれた事が。



 「チナちゃん…」と、母が困ったような顔をして私を呼んだ。

「おかえり」と今さら母に言う私。

「大丈夫?…なんか顔がちょっと赤いような気もするんだけど」

今度はチハルと私を交互に見る母。

 チハルが立ち上がる。

「なんもしてねえよ」吐き捨てるように言い母を睨むチハル。「もうオレ行くわ下に」




 その夜もチハルは、9時過ぎには祖母と一緒に父に送られて帰って行った。今日くらい泊まればいいのに。

 二人が帰ってしまうと急に寂しい気持ちになる。

 2階の私の部屋にいても隣の空き部屋が妙に寂しい。これまでの3年間もそうだったけど。今日は久しぶりに「姉ちゃん」と呼ばれたので感慨深い。それが本気の甘えか新たな嫌味かもわからないままだけれど。

 夜の食事の時には、もう私とはほとんど話さない普段のチハルに完全に戻っていたけれど、それでも私は小学生の頃の、一緒に暮らして毎日一緒にご飯を食べていた頃をずっと思い出していた。

 ご飯だけじゃない。一緒にテレビ見たり、一緒にお使いに行ったり、一緒に勉強したり…してた時もあったのに。


 怖いテレビを一緒に見た後、チハルが怖がって私の部屋に来たり。まぁ私も怖かったから嬉しかったけど。チハルは小さい時、当時から仕事をしていて忙しかった母に、あまり本を読んでもらえなかったらしくて、私に読んで欲しいというので読み聞かせをしてあげた事もあった。姉弟になった時にはチハルはもう4年生になっていたし、私もたった1学年違いの5年生だったわけだけれど、自分より年下の子にそういう姉らしい事もしてみたかった私は喜んで読んでやった。

 まあ本当に欲しかったのは姉か兄か妹だったけどね。


 そんな時チハルが先に寝てしまうとちょっと寂しかったけれど、私のベッドに眠っているチハルが可愛くて、気付かれないようにそっと頭を撫でてあげたりした事もあった。そしてそんな時は私がチハルの部屋のベッドで寝た。…あの頃は可愛かったのにな…チハルは結構小さい方だったし、半年違いとはいえ、本当に弟が出来たんだなっていう気持ちにちゃんとなっていたわけだ。

 …ていうか可愛かったの、あの頃だけだったよね。あいつが小6、私が中1になった頃にはもうほんと、たてつくばっかりで、私の事だって、ブスだのバカだの近付くな喋りかけるなって言いまくるし、こんな弟いらん!てよく思ってた。もちろん口に出した事はないけど。今の母の事が大好きだから、困らせたらいけないと思って。



 そう…だから私は今すごく引っかかっている。母の昼間の様子が。

 チハルが私の部屋に来ていたのを、買い物帰りの母が気付いてすぐ見に来た事も、チハルに勢い込んで何をしていたか聞いた事も、その後私に大丈夫かって聞いてきた事も。

 どう取ったらいいんだろう。

 私とチハルが本当に仲が悪い事を心配してるのか、それとも私とチハルが…



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