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だれ?

 結局母が一人で買い物に行ってしまった後、私は台所の片付けを始める。そして母に言われていた通りに鳥肉を、ニンニクやしょうゆを合わせた調味料とお酒に付けておく。母が教えてくれた唐揚げの下ごしらえだ。母の作る唐揚げは世界一美味しい。家族みんなの大好物なのだ。

 チハルも大好きだったよね。でも中学の寮に入っている間は食べられなかったし、これからもおばあちゃんの家に住むから…

 あ、おばあちゃんも同じヤツ作れるか。

 なんだ、と思いながら鶏肉を揉む。



 今チハルはリビングのソファに寝転びながらスマホを見ている。

 あんなに私に縦付いたくせに結局母と一緒には行かなかった。

 なんだそれ!本当にもう。私が嫌な気分になっただけじゃん。行かないなら手伝えっつの。


 …もしかして女の子からの連絡とか?

 「ねえ」と台所から声をかける私。「うちの学校、校内でスマホ禁止だよ。髪の毛とかちょっと染めててもそこまで言われないのにスマホにだけはすごい厳しいよ。気を付けなね」

「あ~言ってたな。入学式で 校長が」

珍しい!チハルからちゃんと普通の返事が返って来た。

 だから調子に乗って聞いてしまう。「ねえねえ、今日の挨拶文自分で考えたの?すごくうまかったじゃん」

「うっさい。お前に関係ねえ」

いつもの調子に戻ってスマホをいじりながらこっちをチラとも見ずに答えるチハル。

 くっそ!!



 …そうだ、もしかしたら…もしかしたら私にもヒロセがライン入れてくれてるかも…これ終わったら部屋に戻って私もライン見てみようかな。

「ね~~、」と懲りずにチハルに声をかける私。「あんたも片付けてよ玄関の靴とか」

「あ~~~」と気のない返事を返すチハル。

 もうほんとに!…と思っていたらむくっと立ち上がって素直に玄関へ行った。

 ちょっとビックリ。

 久しぶりに、本当に久しぶりに私の言う事聞いてくれた!

 嬉しくなって片付けが進む。


 洗い物も手早く済ませるとチハルが戻ってきてまたソファに寝転んだ。「ねみ~~」とつぶやくのが聞こえる。

 新しい場所でいろいろ疲れたよね。みんなの前で挨拶までしたし、神経消耗したのかも。疲れてたから反抗せずに言う事聞いてくれたのかな。じゃあもうそっとしといてあげよう。


 ポテトサラダの準備にジャガイモと卵を茹でる。

「なあ」とチハル。

「ふん?」

チハルから話しかけてくるなんて珍しい。

「今日のヤツだれ?」

「…」

「入学式ん時、隣で話してたヤツ」

ヒロセの事?「入場の時の?同じクラスの子」

 グツグツグツグツ。

 話が続くのかと思ったら、チハルはまたスマホをいじり出した。




 部屋に戻りスマホを見る。

 友達から入学式どうだった?ってラインはきてたけどヒロセからは何にもきてなかった。


 …そりゃそうだよね!

 番号交換したからってそんな急にはね…男子だし。そもそも男子と1対1でライン交換したのは、去年一緒に委員やってた子以外はヒロセがはじめてだ。

 …私からしたら返してくれるかな。

 してみようかな。帰りの寄り道はヒロセから誘ってくれたし。

 …どうしよう…



 してみよ!ヒロセなら嫌がらずにちゃんと返してくれそう。

 ベッドに腰掛けヒロセにラインする。「今日のアイスおいしかったね」

 無難だよね。これなら「うん」だけの返信でいいし。

 すぐに返事が来た。良かった。やっぱり返信来ないかなって、なんかちょっとドキドキした。

「また行こ。今日キモトが食ってたの今度は食いたい。オレ、ちょっとカッコ悪いかもだけど甘いもん好き」

わ~~~~。

 『うん』だけじゃなかった。嬉しい。また行こ、って言ってくれた。さすがヒロセ。


 「そうなの?なんかかわいいね!」と返す。

「可愛いって式の時も言ってたな。可愛くねえからなオレは」

わざわざ言うところが可愛いじゃんヒロセ。

「ごめ~~~ん」と私。

「キモトからライン来て良かった。オレ、今日もしかしてムリクリ誘ったかなと思ってライン送ろうかどうか迷ってた」

「そんな事ないよ。私も今日知ってるヒロセがいてほんと良かった。でも式疲れたね」

 あんまり最初から続けてウザがられたらいけないからこの辺で止めようかな。

 そう思っていたらヒロセからこう返ってきた。

「オレも。今日キモトと一緒で良かった楽しかった」

 わ~~~、と思いながら、え?ほんとかな、とも思う。

 いくらなんでもあんまり言う事うま過ぎるんじゃない?ヒロセ。でもそう言われて嬉しい。ヒロセが言ってくれると嘘!っていう感じはしない。もう、オーバーだなあ、くらいの感じだ。

私も、って打とうかな。恥ずかしいな…わ~~どうしよう…



 迷っていたら急にドアが開けられてビクッとする。

 チハルだ。

「どうしたの?」と聞いてみる。

本当は『ノックしなさいよ』と言いたいところだけど我慢する。

「ゆっくりしときなよ」私はスマホを持ったまま言った。「今日疲れたでしょ。私が後はやるから。もう下に降りる」


 チハルはそれには答えず無言でそのまま部屋に入って来る。この部屋にチハルが入るなんて本当に久しぶりだ。中学の寮に入ってからは入って来た事がなかったから。

「どうしたの?」少し優しく聞く私。

「なぁ、式の時話してたヤツ…」

チハルが言いながら私の手に持つスマホを見る。「あの時何話してた?」

私のスマホを見つめるチハル。

「え、と…」









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