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困る


 「姉ちゃん」

いや、手を握りながら姉ちゃんて言われてもな。

 強く握ってくるチハルの手に焦るが、チハルが急にうつ向き気味に言った。

「いいじゃん別に…そんなにダメなん」

「…」なんでコイツはこんなに当たり前な感じで言って来るかな…


 「なあ姉ちゃん」

そこで別な観光客と近くですれ違い、私はさらに焦るが悪びれずに言うチハルだ。「今日オレはかなり普通だったと思うけど」

なんだその言い草。「じゃあなんで今さらこんな事すんの?これ普通じゃないじゃん」

「姉ちゃん」

「ちょっともう!手ぇ握りながら『姉ちゃん』て言うの止めて。変に思われるでしょバカじゃんあんた」

また手を振り払おうとするが無理だ。周りを気にしていないチハルに、ちょっと笑われながら「力弱いな」と言われる。

「笑うな。違うよあんたが強いんだよ。しょうがないじゃん性別違うんだから」

「むかしはオレに腕相撲勝って得意げにしてたよな」

「あ~~…むかしね…って、もういいから離してって!」

「嫌だ」

「…もう~~あんた何きっぱり言って…」周りの人たちが遠巻きに変な目で見てそうな気がして怖い。

 それでもチハルは、今度は真っ直ぐに私の目を見て笑わずに言った。

「こんな機会滅多にねえのに…繋がしてよ」

 


 …いやだ私!なんで頬が熱くなって来てるだろう!?なんでこんなにドキドキして来てるんだろう嫌だ。

「なあ姉ちゃん、」さっきより静かな声で伏し目がちにチハルが言う。「旅館の手前で離すから。その間だけ。なあ?つながしてよ」

 もう~~…なんかそんなちっちゃい時みたいな感じで…

 『本読んでよ』『おやつちょうだい』って私に言って来てた時のチハルを、なんで私はここで思い出すかな…



 返事をしない私を、ふっ、とチハルが笑い、私の手を掴んだまま歩き出した。

 いや。私、納得してないから。

「チハル」

「あっちにさあ、古い建物が並んでるとこあったよな。そこ周って帰ろっか」

「チハル!」

「なに?」

「手を離して」


 私の手を離しはせず、立ち止まるチハル。当然私も立ち止まる。

 いや。じっと見られてももう1回言うけど。「手を離して」

まだ私をじっと見るチハルだ。

 負けないけど。

 負けないけど。

 負けないけど。…ダメだほんの一瞬目を反らしたら、また手を掴んだまま歩き出された。

「チハル!」

「しつこい」

「あんたが!あんたがでしょ?」

「オレはココでだけって言ったし、旅館の近くになったら離すってちゃんと約束した」

「だから!それもおかしいじゃん何偉そうに言い切ってんの!?離してっ!」

「わかった」

 チハルが私の手を離した。



 わかってくれた…。しかも「ごめん」と謝って来た。

「ごめん姉ちゃん」

「…うん…わかってくれたんなら…」

「一緒に歩くのも嫌?」

「…嫌とかそんなんじゃなくて…」

「じゃあ普通に歩いて一緒に少し遠回りしてよ」

「…」

「それもダメ?」

「…いや別に…普通に歩くんなら…」

「よし!じゃあ行こ!」

 ニコッと笑って歩き出すチハル。私はその後を2歩くらい遅れて斜め後を着いて行く。



 「なあなあ」とチハル。「むかしさ、二人でどっか行って、帰り急に雷鳴り出した事あったよな?」

「…あ~~うん。あったね」家族に成り立ての頃ね。

「それでちょっと雨宿りしてたら余計雨が強くなって来て暗くなってさ。姉ちゃんが『大丈夫だよ』つってオレの手ギュッと掴んで来た」

「…そうだっけ」

「雷鳴る度にギュって力入れるから、こいつ自分が怖くて手ぇ握って来たなって思った」

「…」

「そいで雷がだんだん遠くなったタイミングで二人してダッシュで帰ったよな」

「あ~~…『今っ!』みたいな感じだったね」

「最初は結構ちゃんとキョーダイぽかったよな」

「…」胸がギュッとする。「…うん」

 ていうか何であんたがそんな風に言うかな。



 大通りの脇に少し入って、古い建物が密集している所を歩く。映画のセットみたいだ。ライトアップされていてとても雰囲気がある。

 まだ開いている、古い土蔵を改築した土産物屋に入ってみる事にする。

 さすが赤犬温泉郷。赤犬だらけだ。ホテルの土産物屋より種類も多い。サキちゃんへのお土産、赤犬石鹸の他になんかないか見てみよう。それから本当はヒロセにも何かあげたいけど…


 シャーペンの押す部分が丸っぽい赤犬になってるヤツかわいいな。キーホルダー、ストラップ、ペンダント、ノート…。食べ物もいっぱいだ。赤犬クッキー、赤犬サブレ、赤犬キャンディー…イチゴや紫キャベツで色が付けてあるらしい。

 …ヒロセ…タオルとか買って帰ったら使ってくれるかな…くれないよね、ラインの返事も来てなかったし…

あ、リストバンドもある。

「あんたさあ」とチハルに言う。「リストバンド、この赤犬のにしたら良かったかも」

 白地に赤犬の顔が、でん、と入ったリストバンドだ。

「こんなのしたら目立つじゃん」とチハル。


 チハルの誕生日プレゼントにリストバンドなんて、言われるままに一緒に買いに行ってやったから、ヒロセにも良くない感じに思われた。他にもいっぱい嫌な気持ちにさせた。

 やっぱりもうダメなんだ。私がいけない。もうヒロセとは、少し前の良い感じには戻れない。私がちゃんと最初からチハルの事を話さなかったのが悪い。あんなに嬉しい事をいっぱい言ってくれたのに。



 あれ?チハルが先にレジに行ってる。…まさかハヤサカマイちゃんに?

 いや、この旅行には関係ない、とか言ってたから…どうなんだろう。私の方へ戻ってきたチハルに何を買ったのかを聞くが教えてくれなかった。

 別にいいけどね。

 …でもちょっと気になる。チハルが誰かにお土産買うなんて想定してなかった。友達にかな。修学旅行に行ったときだって、祖母と父にしか買って来なかったし。


 

 私には答えなかったくせにチハルが聞いて来る。「ヒロセにはなにもやらねえの?」

「『ヒロセさん』ね!…もらってもらえなさそうだから」

「オレと来てるから?」

「オレと、じゃないじゃん。家族で来てます。あんたこそハヤサカマイちゃんには?買わないの?それか今買ったのが渡すヤツ?」

 ヒロセの事を振られたのでやっぱり聞いてしまった。

 「気になんの?」とチハル。

 なんだその聞き方は。

「あんたがヒロセの事を聞いてくるからだよ」

「オレは気になるよヒロセさんの事」

「いいよもう。そろそろ戻ろ」

「ハヤサカは姉ちゃんにも絶対ぇ何か言いに行くなと思ったからあらかじめ言ってただけでなんとも思ってない。逆に姉ちゃんを知ってたりするから他の女子よりめんどくせえ」

「…あんた…自分を好きだって言って来てくれてる子にすごい言い草だよね信じらんない」

「だってこれからも姉ちゃんとこしょっちゅう行ったらさすがにうぜえだろ」

うん、それは面倒だと思うけど。


 




 


 


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